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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
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俺様の名はゲーデ

 「その話、ちょっと待ったああああああああああああああああああ!!!」


 玉座の間に突如、響き渡る大きな声。瞬間、黒曜の足元の影が蠢き、中から燕尾服に擦り切れた山高帽を被った老紳士が現れた。老紳士とはいえ、その眼光は鋭く油断ならない。


 恐らくは、人間ですら無いだろう。事実、彼からは濃密な死の気配が漂っている。


 「何じゃ・・・男爵(バロン)、おんしか」


 「男爵(バロン)・・・?」


 「ぎゃはははっ!!その通りだ、小僧!!俺様の事は死神(しにがみ)とでも呼んでくれ!!!」


 野卑(やひ)な声で高笑いする死神。腹を抱えて爆笑している。何がそんなに面白いのか。


 しかし、黒曜は取り合わずに真剣な瞳で考え込む。


 「燕尾服に山高帽の死神・・・男爵・・・。死神ゲーデ?」


 「おうっ!?さっそくバレた!!そう、俺様の名はゲーデ!!ヴードゥー教の死神だ!!!」


 自らの名を名乗り、高笑いするゲーデ。本当に楽しそうだ。一言で言えば、死神らしくない。


 ゲラゲラ笑うゲーデを、その場の全員が訝しげに見る。一言で言うなら、かなり怪しい。


 「で、死神。お前は何の用だ?」


 「ぎゃははっ!!ちょっくら石英に頼まれ事をされたぜ!!」


 「―――――――――!!?」


 その言葉に、黒曜達は目を見開き愕然とする。石英―――確かにこの死神はそう言った。


 頼まれ事をされたとも・・・。


 ヘリオドールはゲーデに勢い良く詰め寄る。その表情は鬼気(きき)迫る物があった。


 「おいっ、死神!!お前、一体石英に何を頼まれた!?」


 かなり気が動転しているのだろう。君が抜けて、荒々しい口調になっていた。


 「ぎゃははっ!!落ち着けよ、竜女王。今からそれを話すからよっ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 首根っこを摑まれても、ゲーデは尚楽しそうに笑う。ある意味、大物なのかも知れない。


 ヘリオドールは不服そうだが、渋々ゲーデから手を放した。ゲーデは笑いながら説明を始める。


 「俺様が石英から頼まれたのは二つ。まず、石英は無事だという事。石化したのは偽物だ」


 「「っ!!?」」


 黒曜とヘリオドールの目がこれでもかと見開かれる。どうやら、かなり驚愕したらしい。


 どうやら、あの石像は偽物だったらしい。もしくは、最初から分身だったのかも知れない。


 その反応に気を良くしたのか、ゲーデは楽しげに笑う。


 「ぎゃははっ!!で、本物の二人は虚数世界に身を隠している所だ。奴の目を逃れるには、あそこが一番都合が良いからなっ!!」


 「・・・・・・そうか」


 黒曜は一つ、溜息を吐いた。安心したら疲れが出たらしい。僅かに笑みが浮かんでいた。


 虚数世界―――


 実体を持たない虚数によって造られた世界。幽世(かくりよ)とも言う。或いは世界の裏とも。


 虚数世界に入るのは即ち、消滅に限りなく近い。それ故、察知されにくいのだ。


 ゲーデはにやにやと、意地の悪い笑みで黒曜を見ている。それを見て、ヘリオドールはむっととても嫌そうな顔をした。どうやら、ヘリオドールはその笑みが相当嫌いらしい。


 「ふんっ!で、もう一つの頼まれ事とは何だ?」


 「ぎゃははっ!!焦るな焦るな!!禿げるぞ!!で、もう一つがもし黒曜の身に何かあったら助けてやって欲しいという事だ。という訳で、俺様も付いて行くぞ」


 その言葉に、ヘリオドールは凄く嫌そうな顔をした。どうやら、ヘリオドールにとってゲーデは苦手なタイプらしい。さもありなん。


 黒曜は深く溜息を吐いた。本当に大丈夫だろうか?


 「解ったよ、お前も連れて行くよ・・・はぁっ」


 「・・・・・・・・・・・・」


 ヘリオドールが露骨(ろこつ)に嫌そうな顔をする。まあ、その気持ちも解る。


 「おおっ!ありがとうよ!!ところで―――」


 ゲーデが、唐突にアイズの方を見る。その視線には怪しい熱が籠っていた。


 アイズがびくっと肩を震わせる。その表情は軽く(おび)えが混ざっている。


 『な、何でしょうか?』


 アイズは半歩後ろに下がる。しかし、その数倍は速くゲーデはアイズとの距離を詰めた。


 「お嬢さん!!俺様と是非(ぜひ)、今夜一発ヤりませんか?」


 『ひっ!!?』


 アイズは恐怖に顔を引き攣らせる。しかし、ゲーデは真剣だ。超絶真剣だ。


 何故なら、彼は生と死と快楽を司る死神だからだ。つまり、自分の性欲には正直なのである。


 鼻息荒く、アイズに詰め寄る。正直に言ってキモい。目が血走っている。アイズが更に怯える。


 「せ、せいっ!!!」


 「ぐはあっっ!!!」


 故に、ゲーデは黒曜に蹴り飛ばされた。数mは吹き飛んだか。嗚呼、キモいキモい。


 アイズはささっと黒曜の背後に隠れ、警戒の籠った視線でゲーデを見詰める。やはり人間臭い。


 「いててっ、何しやがる!!」


 「いや、お前が何してんだよ。俺のアイズを口説(くど)いてんじゃねえっ」


 黒曜は絶対零度の視線でゲーデを見る。ぐぬぬっとゲーデは悔しそうに呻いた。


 一方、アイズは真っ赤な顔で黒曜を呆然と見ていた。黒曜が怪訝な顔を向けると、更に慌てた。


 『な、何でもありませんよ?ええ、私は何でもありませんとも!!』


 「・・・?そうか?」


 黒曜が更に怪訝そうな顔をする。というか、不思議そうな顔をする。本気で解っていないらしい。


 アイズはあうあうと(うめ)いた。やはり、人間臭い。全くAIには見えない。


 そんな二人(?)を見て、ゲーデはにやにやと嫌らしい笑みを向ける。


 「ぎゃははっ!!なるほどなるほど、そういう事か!!ぎゃはははははっ!!!」


 腹を抱えて大爆笑。笑い過ぎて、身体が痙攣(けいれん)している。それを冷めた目で見る黒曜達だった。


 ゼウスは溜息を一つ吐き、一言・・・。


 「ゲーデよ・・・おんしの気持ちは良く解るっ!!」


 「おいっ」


 黒曜の声に、剣呑(けんのん)な色が宿った。そう、ゼウスも偉大な神であると同時に好色な神であった。


 黒曜は魔力を物質化し、一振りの剣を創造する。その一振りに、神話の主神すら害する程高濃度の魔力が籠められている。思わず、冷や汗を滝の様に流す二柱。


 「おっ、落ち着け!!落ち着くのじゃ、黒曜よ―――ぶげらっ!!!」


 「ぎゃははっ!!そ、そうだぜ黒曜。流石にそれはまず―――ぶべっ!!!」


 瞬く間に黒曜によって叩きのめされる二柱。もはや神としての威厳(いげん)が無い。皆無だ。


 「良いか?今度アイズに手を出したら、即ぶっ殺すからな」


 絶対零度の視線で剣呑な事を言う黒曜。対する二柱は・・・。


 「ま、まだ手は出していな・・・・・・ガクッ」


 「ぎっ、ぎゃははっ・・・・・・・・・ガクッ」


 同時にノックダウンしていた。Amen。


 ・・・・・・・・・


 『で、ではそろそろ始めましょう』


 そう言ったアイズは、既にネックレスに戻っていた。ゲーデは少し残念そうにしている。


 しかし、黒曜が剣を握り、無言の圧力をかけると首を(すく)めて押し黙った。


 「チッ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 黒曜があからさまに舌打ちをすると、死神はガタガタと震えた。神の威厳など、もはや無い。


 それを見ていたゼウスも、こっそり震えたという。神とは一体・・・。


 『石英の家から採取した残留魔力から対象の時空を逆探知します・・・・・・成功。目標の時空への座標を計算します・・・・・・成功しました』


 瞬間、玉座の間を黒の魔力が覆う。黒曜の魔力だ。


 何処までも深い深い黒。しかし、不思議と恐怖は感じない。純粋な黒の魔力だ。


 黒曜が空間に剣を振るう。すると、空間が裂け、その向こうに別の世界が見えた。


 石化の王が支配する世界だ。


 「・・・・・・っ」


 その世界を見て、黒曜は息を呑む。それは、全てが石化した世界だ。


 大地も、生物も、非生物も、空に浮かぶ雲も、星々も―――世界の尽くが石化していた。


 そう、世界そのものが―――宇宙そのものが石化していたのだ。


 「・・・・・・・・・」


 その光景に、さしものヘリオドールも黙り込んだ。しかし、此処で立ち止まる訳にはいかない。


 黒曜は覚悟(かくご)を決めた。


 「()くぞ―――」


 そう言って、黒曜は空間の裂け目に飛び込んだ。

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