表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
60/114

何だよ・・・これ・・・・・・

 魔王サファイヤの城、第三訓練場。大規模演習場とも。


 第一~第三まである訓練場の中で、最も大規模な訓練場である。


 大規模な訓練を目的とした巨大な建造物。見た目は巨大なコロッセオそのものだろう。


 現在、其処では王国アルカディアの騎士団と合同訓練が行われている。


 行われている・・・筈だった・・・・・・。


 「「「ギャアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」


 響き渡る絶叫、悲鳴。突如、訓練場の中央に発生した巨大な竜巻によって、騎士達は無残にも次々と巻き上げられていく。その様は、まるで枯れ枝の様だ。


 そして、当然この巨大竜巻は自然に発生した物では無い。断じて無い。


 「あっははははははははは!!!」


 惨状(さんじょう)の中、響く場違いな笑い声。その声は何処までも楽しそうだ。


 文字通りに人が吹き飛んでいく中、十二歳になった黒曜が高々に笑いながら訓練場を駆け回る。


 その姿はまるで、与えられた玩具(おもちゃ)を振り回す子供の様だ。しかし、当然振り回される騎士達は皆堪った物では無いだろう。


 騎士達は次々と絶叫や悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、ノックダウンしていく。


 「もう勘弁してくれええええええええええええええっ!!!」


 「嫌だっっ!!!」


 ・・・結局、黒曜のその遊びはサファイヤが止めに入るまで続き、アルカディアの騎士達は皆、疲れ切った姿で帰って行った。全く御苦労な事だ。いや、本当に・・・・・・。


 ・・・玉座の間。或いは方舟(はこぶね)神殿―――時刻は正午。


 玉座の間であると同時に、世界神ミカドと星の大精霊フェイを(まつ)る神殿である。現在、黒曜は其処でサファイヤの説教を受けていた。


 「良い?黒曜は強い能力(ちから)を持っているんだから、その力を無闇(むやみ)にひけらかす物では無いよ?」


 「はーい!解ったよ、サファイヤさん!!」


 にこにこと笑いながら黒曜は答える。とても良い笑顔だ。全く反省している様には見えない。


 当然だ。黒曜は全く反省していない。


 サファイヤも微笑を浮かべ、笑っている。本気で怒ってはいないのは明らかだ。何だかんだで、サファイヤは黒曜には甘いのである。


 「と、ところで・・・その、石英はどうしたの?今日は城に来なかったみたいだけど・・・」


 一転、頬を赤らめてサファイヤはもじもじとしだす。その姿はまさに、恋する乙女のそれだ。


 彼女の石英への想いを知っている黒曜は、にやにやと意地の悪い笑みで答える。


 「ああ、父さんなら今日、外せない用事があるとかで家に居るよ」


 「そ、そう・・・・・・」


 しゅん、と今度は少しばかり残念そうにするサファイヤ。それを、黒曜は心底面白い物を見る様な目で見ていたのだった。


 と、次の瞬間、何処からともなくムーンが現れてかなり焦った様子で報告(ほうこく)した。


 「サファイヤ様!!たった今、石英の家が崩壊したと知らせがありました!!!」


 「「!!?」」


 愕然。そして、その報告を聞いた次の瞬間に、玉座の間から黒曜とサファイヤの姿が消えていた。


 ・・・・・・・・・


 「なっ、何だよ・・・これ・・・・・・」


 愕然とした声が、虚しく響き渡る。ざわざわと、野次馬達の喧騒(けんそう)が響く。


 黒曜とサファイヤの目の前には、取り返しがつかない程に木っ端微塵に崩壊した家があった。


 否、只崩壊しただけでは無い。家だった瓦礫(がれき)も、家の中にあった何もかも、全てが石化していた。


 石化した上で、崩壊しているのだ。これは、酷い。明らかに何かしらの悪意を感じる。


 どす黒い悪意を感じる。


 その時、崩壊した家の瓦礫から一人の女性が出てきた。その顔にサファイヤは見覚えがあった。


 「あたたっ、酷い目にあった」


 「貴女は、辻占い師のアルマさん?」


 そう、辻占い師で(さとり)のアルマだ。サファイヤが話し掛けると、彼女は此方に気付き服に付いた埃を払い、近付いてきた。


 「おやおや、誰かと思えば魔王陛下じゃないか。王様直々に来るとはねぇ」


 「大丈夫?一体、此処で何があったの?」


 「大丈夫、じゃあ無いね。其処を見てごらんよ?」


 黒曜とサファイヤはアルマの指差した方を見た。果たして、其処には―――


 崩壊した家に埋もれた、石化した石英とルビの姿があった。


 「っっ!!?」


 「とっ、父さん!?母さん!?」


 その光景に、サファイヤは愕然とし、黒曜は二人に駆け寄り瓦礫の中から引きずり出した。石英もルビも二人とも石化し、命の気配すら感じない。


 明らかに異常事態だ。これは即ち、石英の敗北(はいぼく)を意味する。


 「アルマさん、此処で一体何があったの?」


 「・・・・・・私も詳しい事情を知っている訳じゃ無いけどね」


 そう、前置きをした上でアルマは話し始めた。・・・事は今朝の08:30にまで遡る。


 「私は今朝、占いをしていたら丁度石英の家の方角が大凶と出たんだよ。大凶も大凶、最悪だよ」


 「・・・・・・最悪?」


 アルマの言葉に黒曜は眉をしかめる。アルマはそれに頷く。


 「占いの結果が気になってね。出来うる限りの準備を整えて石英の家に行ったそしたら―――」


 私は其処で怪物と出会った。そう、アルマは言った。


 黒い詰襟の軍服に軍帽、鈍色のマントを着用した少年。闇の様な黒髪に黒い瞳、純白の肌―――


 ―――黒い瞳には鮮血の様な赤い縦長の瞳孔が目立つ。心底から凍える様な、不吉な笑み。


 そう、不吉な悪魔だった。


 「っ!!?」


 その怪物の特徴を聞いたサファイヤの瞳に、憤怒(ふんぬ)が宿る。また、あの悪魔か。


 「その怪物は石化の王と名乗っていたよ」


 「石化の・・・王・・・・・・」


 黒曜の瞳にも、堪え切れない憤怒の色が宿っていた。それは、或いは憎悪とも呼べるだろう。


 「後は見ての通り、石英とルビは家ごと石化したよ」


 「そうか・・・・・・」


 黒曜はそう言うと、時空に穴を開ける。その顔は何かを決意した様な、そんな表情だった。


 その表情に、サファイヤは(あせ)りを覚える。


 「待って!!黒曜、何処に行くの!?」


 「石化の王を倒しに」


 「待ってよ!!一人じゃ危険だよ!!行くなら私も一緒に―――」


 「サファイヤさんこそ待て!!サファイヤさんにはやるべき政務がたくさんあるだろうに!!」


 「けどっ!!!」


 まさしく押し問答。もはや、このまま強引に行ってしまおうかと黒曜が考えた瞬間。


 「なら、私が一緒に付いて行こう―――」


 其処に、ヘリオドールが現れた。竜女王ヘリオドール。全ての竜種(ドラゴン)を統べる女王。


 その表情には、静かに(たぎ)る闘志が宿っている。


 「ヘリオさん・・・?」


 「私も、石英君がやられて少しばかり腹が立っていてね。私も付いて行くぞ」


 その言葉には、有無を言わさぬ力強さが宿っていた。黒曜は溜息一つ吐く。


 「解ったよ、ヘリオさん」


 「うん、素直なのは良い事だ」


 ヘリオドールは満足そうに頷く。其処に、サファイヤが近付く。その顔は真剣そのものだ。


 「黒曜、ヘリオ。本当は、私はまだ納得していない。けど―――」


 「うん」


 「ああ」


 「必ず帰って来て。その約束を守れるなら、私は何も言わない」


 その顔はまだ心配そうだ。しかし、それでも、必ず帰って来ると信じて―――


 その覚悟を感じ取った黒曜とヘリオドールは、力強く頷いた。


 「うんっ!!!」


 「おうっ!!!」


 そう答えると、二人は穴の中に飛び込んだ。


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 「心配かい?」


 心配そうに立ち尽くすサファイヤに、アルマは尋ねる。サファイヤは胸の前で両手を強く握る。


 その姿は、不安と心配を必死に押し殺す様だ。


 「うん・・・」


 「ふむ、陛下もどうやら人の子という訳か・・・・・・。大丈夫、きっと帰って来るよ」


 「うん・・・そう、だね・・・・・・」


 そう言って、サファイヤは薄っすらと微笑んだ。


 大丈夫。きっと、二人とも無事に帰ってくる。そう信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ