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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
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私の名はアイズ・ラプラス

 黒曜(こくよう)―――


 石英とルビの間に生まれた一人息子。黒髪に黒い瞳、透ける様な白い肌の少年で、何処となく父親である石英の面影(おもかげ)のある容貌(ようぼう)をしている。


 石英の子供という事もあり、サファイヤや天狗の翁から可愛がられて育つ。天界の神々も時たまに世話を焼きに来る始末だ。ある意味、実の親よりも親馬鹿を発症していると言える。


 そんな面々から色々と教え込まれて育った為、様々な武術や技術、魔術に精通している。もはや、彼の遊びに付き合えるのは石英かサファイヤくらいだろう。


 かなりのやんちゃ者だが、父と母、そしてサファイヤの事を家族として大切に思っている。まあ、それを言えば父と母は泣いて喜び、サファイヤなんか黒曜を抱き締めて踊り出す始末だ。


 今回はこの黒曜を中心に物語が展開していく事となる。


 ・・・・・・・・・


 魔力(マナ)とは即ち、精神や生命を司るエネルギーである。


 個人によって魔力光や魔力性質、容量、密度、純度などに違いがあり、同じに見えても若干の違いが出たり性質が違ったりする。それにより個人を特定する技術を魔力認証という。


 魔力はその性質によって現実に干渉する性質があり、それによって現実を歪め、干渉し操作する技術を魔術と呼ぶ。魔法、呪術、妖術とも呼ぶ。


 魔術を発動する為の計算式、数式を術式と呼び、魔術の体系化された理論を術理と呼ぶ。そして、それ等を解りやすい形にしたのが呪文や言霊、魔法陣である。


 要は言葉や文字、記号などを触媒にする事で魔術を簡略化する訳だ。古代の人々は歌に魔力を乗せて魔術を行使したという記録もある。


 神話に語られる詩人は言葉に魔力を乗せ、伝承を語る事で神話を世界中に広める事を得意とした。


 そして、詩人の語る神話伝承は現実として語られる。つまり歴史を歪める力があった。


 それは、神話に息吹く神々や怪物を誕生させる事すら可能とする究極の権限だ。特権とも言える。


 しかし、その権限は時として恐るべき災厄となる事もある。風評(ふうひょう)だ。


 言葉によって現実を、歴史を歪める力があるならそれは風評すら現実に変えるという事だ。


 故に、詩を紡ぐ者はその力を乱用してはならない。大いなる責任(せきにん)が伴うのだ。


 願わくば、これを読む者も良識のある者であって欲しい―――詩人アルクアッド=ブラッド。


 ・・・・・・・・・


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 場所はステラ大図書館。黒曜は現在、魔道書を十冊ほど積み重ねて読書に(ふけ)っていた。


 現在読んでいるのは、詩人アルクアッドの著書『魔力の歴史と基礎』だった。


 魔力にはそれぞれ、色と性質がある。それを魔力光と魔力性質と呼ぶ。


 黒曜の魔力光は黒、魔力性質は智慧(ちえ)だった。其れは即ち深淵の黒。


 大いなる深淵に通じる智慧。黒曜は無限に等しい智慧の書庫から様々な知識を引き出し、神々にすら匹敵する術の数々を発揮出来る。そして、その魔力の容量と密度も破格の物だ。底無しの魔力と言っても決して過言では無いだろう。その魔力はサファイヤすら把握出来なかった。


 それ故に、黒曜は魔力の制御の為に日々勉強の毎日だった。


 とはいえ、決して勉強が辛い訳では無い。何だかんだで魔力の制御訓練は楽しいし、大図書館で魔道書を読むのはとても面白い。どちらも黒曜にとって娯楽の一つに過ぎないのだ。


 まあ、訓練の度に訓練場が滅茶苦茶になるのだが・・・。それは割愛(かつあい)しよう。


 要は黒曜の魔力が強すぎるのだ。制御が困難な程に。そして、今も魔力の制御の為に魔道書を読んで勉強をしている最中だ。根が読書家なので、かなり(はかど)る。


 「・・・・・・ふぅっ」


 本を閉じると、疲れた目をしばらく休める様に閉じた。本を読み始めて約二時間半、そろそろ帰ろうと元の棚に本を仕舞う。


 そのまま家に帰ろうとして、ふと思い出す。夕刻の18:00頃、城の大広間に来る様にと両親から言われていた事を。大切な用事だから必ずその時間に来る様にとも言われた。


 壁の魔力時計を見る。現在、17:35ジャスト。今から行けば余裕で間に合うだろう。


 ちなみに、魔力時計とは太陽や月、星々の魔力を読み込んで正確に時を刻む時計の事だ。


 「もう少し、本を読んで行くか・・・」


 黒曜は側にある棚から一冊、本を手に取った。その本のタイトルを見る。


 童話『死神憑きの愉快な旅路』だった。著者はアルクアッド=ブラッド。またお前か!!


 ・・・・・・・・・


 現在、18:00ジャスト。黒曜は大広間の前に来ていた。


 大切な用事とは一体何なのか、黒曜は聞かされていない。しかし、とても大切な用事だと両親から念を押して言われた。恐らく、黒曜には言えない事情があるのだろう。


 扉に手を掛け、恐る恐る開ける。瞬間―――


 パンッ・・・ポンポンッ!!


 乾いた音と共に、クラッカーが弾けた。目の前に紙吹雪が舞う。黒曜の意識が一瞬トんだ。


 「黒曜、誕生日おめでとう!!!」


 「「「おめでとう!!!」」」


 「・・・・・・・・・へっ?」


 へっ???


 目の前には石英、ルビ、サファイヤの他に、ムーン、翁、ヘリオドール、ウレキやシディア、その他にも大勢の人々が笑顔で黒曜を迎えた。思わず、黒曜は目が点になる。


 大広間の壁には、大きくハッピーバースデイ黒曜と書かれた布が(かざ)られている。


 テーブルの上にはバースデイケーキを中心に、様々な料理が並べられている。良く見ると、ケーキの上には数字の10の形をした蝋燭(ろうそく)が乗せられていた。


 しばらく呆然としていた黒曜だったが、すぐにはっと立ち直り、石英の方を見た。にっこりと石英は満面の笑みで言った。


 「黒曜、十歳の誕生日おめでとう。サプライズはどうだったかな?」


 「そりゃあ驚いたよ、父さん。一体何時の間に、こんなサプライズを?」


 「これを企画したのは去年だよ。それに、黒曜にはプレゼントがあるんだ」


 そう言って、石英は懐からある物を取り出して黒曜に渡した。それは、ネックレスだった。


 黄金に輝く小さな球体が中央にはめ込まれた、半透明の水色の円盤。球体を中心に銀のラインが幾つも入っており、幾何学模様を描いている。それに銀の鎖が付いて、見た目は完全にネックレスだ。


 黒曜は不思議そうにネックレスを見詰める。


 「ネックレス?」


 『初めまして、マスター。私の名はアイズ・ラプラス。量子演算型人工知能です』


 「!!?」


 盛大にびっくりした。突如、ネックレスから声が聞こえてきたからだ。歌う様な澄んだ声だった。


 本当に驚いた。石英は盛大に笑った。


 「くっ、ははははははははっ!!!驚いたか?アイズはお前のパートナーだ。これからのお前の人生にその力を貸してくれるだろう」


 「・・・・・・・・・・・・」


 顔を伏せ、黙り込む黒曜。その表情は見えない。ルビとサファイヤは徐々に不安になってきた。


 サプライズは失敗したか?怒らせてしまったか?


 そう思った瞬間、黒曜はばっと顔を上げて―――


 「すっげーーー!!!ネックレスが喋った!!!なあアイズ、お前他に何が出来るんだ!?」


 大興奮。瞳をきらきらと輝かせながら、黒曜はアイズに問い掛ける。アイズはとても楽しげな、歌う様な声でそれに答えた。


 『私は人工知能であると同時に魔道書でもあり、マスターの魔力の制御装置でもあります。マスターが望むのなら、大抵の事は出来るでしょう』


 「すっげーーー!!!かっけーーー!!!」


 黒曜のテンションはかなりハイになっていた。どうやら、プレゼントは気に入ったらしい。サプライズは成功した様だ。黒曜はくるくるとその場で小躍(こおど)りしている。


 ルビとサファイヤはほっと安心した。石英は黒曜を微笑ましげに見詰めている。


 この日、黒曜にとって特別な誕生日(バースデイ)となった。

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