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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
天界戦争―Azathoth―
53/114

消え去れ、神殺し!!!

 天界を破壊と創造の、思念の嵐が吹き荒れる。


 既に石化の王の姿は無い。目的だけを果たし、早々に立ち去ったらしい。何とも抜け目ない事だ。


 「っ、ムーン!!ルビを連れてさっさと撤退しろ!!!」


 「石英、お前は?」


 「僕は、こいつを・・・アザトースを何とかする」


 「っ!?」


 ムーンは思わず、息を呑んだ。石英の表情から強い悲壮(ひそう)な覚悟を感じたからだ。


 これには当然、ルビは反発した。


 「嫌!!石英も一緒に逃げよう?私だけなんて嫌だよ。お願い、石英も一緒に逃げてよ」


 「ルビ・・・・・・ごめん」


 石英はルビを抱き締め、深く口付けした。目を見開き、身体を硬直させるルビ。しかし、やがてルビの身体から力が抜けていき、やがて眠りに入った。石英の魔力(マナ)でルビを眠らせたのだ。


 「石・・・英・・・・・・」


 ルビの目から、涙が伝う。石英は一瞬、悲しげな表情をする。しかし、すぐに表情を引き締めてアザトースの方へ向き直る。


 瞬間、無数の黒い触手が襲い掛かる。それ等全て、石英達に向かってくる。直撃すれば只では済まないだろう数と質がある。


 だが、その触手は全て、何かに防がれて石英達に届かなかった。


 其れは、巨大な黄金の腕だ。四本の黄金の巨腕(きょわん)が黒い触手を尽く握っている。


 この巨腕は石英の魔力を物質化(ぶっしつか)し、造り出した物だ。


 「ムーン、早く!!!」


 「っ、死ぬなよ!!」


 ムーンは転移でその場を離脱した。


 仲間を置いて逃げる事が、かなり悔しいのだろう。最後、苦々しい表情をしていたのが見えた。


 「出来ればお前も逃げて欲しいんだがな。コラン」


 「嫌だよ。私だって戦う力があるもの。私も一緒に戦う、一緒に戦わせて」


 そう言い、サファイヤは石英の横に並んだ。その顔には、強い意志と覚悟が宿っていた。


 石英もそれ以上は何も言わず、目の前を見据えた。


 絶えず破壊と創造が繰り返される混沌の場。その中央にそれは居た。


 純白の髪と肌、ゆったりとした同色の衣服を着、鮮血の様な赤い瞳の純白の魔王。元より性別の概念など無いらしく、男にも女にも見える中性的な容姿だ。


 足下の影からは漆黒の触手が(うごめ)き、三次元空間に収まり切らない為か、存在しているだけで天界が崩壊しそうになっている。


 クトゥルー神話の原初の神性であり、原初の混沌。宇宙の原罪(げんざい)そのもの。


 原初と終末、有と無、正と負、生と死、破壊と創造、光と闇、その全ての入り混じった混沌。宇宙の中心に存在する座にて、破壊と創造を繰り返すだけの神性。


 真の魔王、盲目白痴の神―――アザトースが此処に降臨した。


 「やべえな、勝てるのか?これ・・・」


 「え!?」


 サファイヤは耳を疑った。あの石英が勝利の可能性を疑ったのだ。それはつまり、アザトースとはそれほど強大な存在という事だ。石英は一目でその強大さを悟ったのだ。


 事実、この場に居る者達はほとんどが冷や汗を搔き、片膝を地に着いている。アザトースを直視した者は狂気に当てられ、存在の根源から破滅するとされる。


 無事なのは石英とサファイヤぐらいだ。


 石英とサファイヤがそうならなかったのは、ただ単純に、アザトースの狂気に耐えられる程の強い精神力を持っていたからだ。


 もし、ルビやムーンがこの場に居れば、たちまち狂気に当てられ破滅しただろう。実に恐ろしい。


 ルビとムーンを退却させたのは正解だっただろう。


 「・・・・・・・・・コラン、一つだけ頼みがある」


 「なっ、何・・・?」


 石英の言葉に、サファイヤは緊張(きんちょう)する。石英の声に途方もない覚悟が宿っている事に気付いたから。


 何か、嫌な予感がした。石英が何処か遠くへ行ってしまう様な、そんな嫌な予感がした。


 「少しの間、僕が魔力を高めている間、時間を(かせ)いでくれ」


 「石英・・・・・・」


 「大丈夫。必ず生きて帰ってくるから」


 その言葉に何かを察したらしく、サファイヤは悲しげな顔をする。しかし、すぐに表情をきゅっと引き締めて強く頷いた。


 サファイヤも覚悟を決めたらしい。強い表情(かお)だ。


 「解った、石英を信じるよ」


 そう言って、サファイヤはアザトースに向き直った。見ると、アザトースは新たに出現した三本の腕に拘束されていた。


 しかし、拘束しきれないのか、黄金の巨腕は所々(ひび)が入っている。もう耐えられない。


 「ギイイイイイイアアアアアアアアアアアアァァァァァAAAAAAaaaaaッッ!!!」


 人間の言語野(げんごや)では認識出来ない絶叫。巨腕が一斉に砕け、空間に罅が入っていく。


 認識出来ない思考のエネルギーが、万物を破壊していく。


 その中をサファイヤは駆けていく。それは例えるなら、弓から放たれた矢の様だ。


 「ふっ!!!」


 サファイヤは掌に創造した剣を握り、横薙ぎに振るう。全てを断つ必断の一閃。しかし―――


 横薙ぎの一閃はアザトースの手前で、何かによって防がれた。


 「ギアアアアアアアアアアアアァァァァァァAAAAAaaaッッ!!!」


 「しまっ!!」


 サファイヤの身体を複数の黒い触手が拘束する。引き千切ろうともがくが、拘束が強く不可能だ。


 拘束がどんどん強くなってゆく。どうやらこのまま、サファイヤを触手で絞め殺すつもりらしい。


 「かっ、は・・・・・・・・・ああっ!!」


 このまま絞め殺されるのか?サファイヤの脳裏に、諦めが過った。このまま石英の役に立てず、只死んでゆくだけなのか?これで、私は終わりなのか?


 否、違う!!そんなのは認めない。こんな所で、只死ぬなんて嫌だ!!!


 「ギイイイアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァAAAAAAaaaッ!!!」


 「うああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 サファイヤの空色の魔力が鋭い刃となり、黒い触手を切り刻む。触手の拘束から脱出したサファイヤは一旦距離を取る。


 サファイヤの息が荒い。どうやらかなり消耗(しょうもう)させられた様だ。地に片膝を着く。


 しかし、此処で倒れる訳にはいかない。サファイヤの魔力が一気に高まる。


 天を覆う、幾億の巨大な刃。その一本一本にかなりの魔力が籠められているのだ。その全てがアザトースに降り注いだ。


 「ギイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAaaaaッ!!!」


 響くアザトースの絶叫。土煙が立ち込め、視界が効かない。一撃一撃に必滅の威力を籠めている。


 手傷の一つや二つ、負わせられた筈だ。そうサファイヤは確信している。


 「やった・・・の・・・?」


 サファイヤが呟く。出来ればこのまま終わって欲しい。しかし、その希望はすぐに絶望へ変わる。


 高まる混沌の神気。立ち上る土煙から、黒い触手が幾本も突き抜けて襲い掛かる。


 避ける訳にはいかない。避ければ背後の石英に直撃するだろう。サファイヤは覚悟を決める。


 「ぐっ・・・・・・・・・かはっ!?」


 魔力によって造られた簡易の盾。それにより幾つかは防げた物の、その内二本は脇腹と肩を掠めて多量の血が止め処なく溢れる。驚いた事に、奴は無傷だ。かすり傷一つ無い。


 しかし、逃げられない。まだ、逃げる訳にはいかない。今、逃げれば石英が―――


 「コラン、今だっ!!!」


 「っ!!?」


 瞬間、言葉で表現出来ない程の膨大な魔力が背後で感じられた。石英の魔力だ。天界を、宇宙を満たして余りある膨大な魔力(エネルギー)


 サファイヤは全力で横に跳躍(ちょうやく)する。刹那、黄金の閃光が奔った。


 膨大な魔力を(まと)い、ロンギヌスの聖槍(せいそう)が飛翔する。聖槍はアザトースの手前にあるエネルギーの障壁(しょうへき)を容易く打ち破り、その身体に届いた。


 しかし―――


 「う、嘘っ!?」


 聖槍はアザトースの身体に触れた瞬間、無残に砕けた。彼のロンギヌスの聖槍が、アザトースには傷一つ付ける事も出来なかったのだ。恐るべき防御能力だ。


 だが、それでも石英は諦めなかった。この程度、既に予測出来ている。


 「ああ、お前なら効かないと思っていたよ」


 石英はそのまま、アザトースへと突撃していく。


 「石英!?」


 サファイヤの悲鳴が響く。黒い触手が石英に殺到する。しかし、石英は恐れずに突き進む。


 そして、その掌がアザトースに触れた瞬間―――


 アザトースと石英は、天界から消失した。


 ・・・・・・・・・


 多元宇宙の何処か、とある世界にアザトースと石英は対峙(たいじ)していた。世界、というより宇宙だ。


 彼等は今、宇宙空間に立っていた。


 「此れが、貴様の策か?神殺しよ」


 此処に来て、初めて明確な言葉を話すアザトース。石英はそれに驚かない。


 むしろ、何処か納得(なっとく)した感じさえある。


 「やはり話せたか、アザトース。いや、アザトースと呼ばれし者」


 「ほう・・・?何時から気付いていた?」


 「最初は気付かなかったさ。けど、盲目白痴の神にしてはやたら知性が感じられたんでな・・・」


 それに、と石英は付け加える。


 「アザトースが目覚めると世界が消滅する。物語の設定ではそうなっていた筈だ」


 「ほう」


 アザトースは面白そうに笑う。本当に楽しそうに、愉快そうに笑う。赤い瞳が爛々(らんらん)と輝く。


 クトゥルー神話によれば、世界はアザトースの夢の中だとされている。故に、アザトースが目覚めれば世界は瞬く間に消滅するだろう。


 しかし、このアザトースは最初から目覚めていたし、明確な知性も感じられた。即ち、このアザトースは盲目白痴の神と呼ばれるアザトースとは別物である。石英はそう結論付けた。


 その瞬間、神気による圧が増し、宇宙空間が軋みを上げる。だが、宇宙空間に罅一つ入らない。


 アザトースは更に笑みを深める。


 「なるほど、そこそこの強度はある訳か。それで?此処なら私に勝てるとでも?」


 「此処なら全力で戦っても問題無いと、そう判断しただけさ」


 あの場で戦うにはヒトが多すぎる。それに、アザトースと石英が全力を出せば、それだけで天界が崩壊しかねないだろう。そう考えて、舞台を整えたのだ。


 此処は、石英の創造した異界(いかい)だ。それなりの強度がある。全力を出すには丁度良い。


 石英は、最初からそれ等全てを踏まえた上で魔力を高めたのだ。


 「ならばもはや言葉など不要。消え去れ、神殺し!!!」


 「お前が消えろ!!!僕は生きる!!!」


 ぶつかり合う混沌の神気と黄金の魔力。真なる神と神殺し、その戦いが此処に幕を開けた。

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