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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
天界戦争―Azathoth―
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魔王アザトースの降臨だ!!!

 乾いた銃声が、草原だった場所に響き渡る。


 誰もがサファイヤの死を疑わなかった。思わず、目を逸らす者や目を閉じる者も居た。しかし―――


 「・・・石、英?」


 まず、聞こえたのはルビの愕然とした声だった。まるで、ありえない光景を目にした様な声だ。


 そんな、不思議そうな・・・けど、今にも泣きそうな声。


 「馬鹿、な・・・何故お前が?」


 続いて聞こえたのは、ナイの声。その声も、心底愕然とした様子だ。一体何なのか?・・・その答えはすぐに理解出来た。


 其処には、石英が居た。腕には、きょとんっとした顔で横抱きに抱えられたサファイヤの姿が。


 ゆったりとした純白の衣を着、純白に輝く白髪と黄金に輝く瞳、その身から発する黄金の魔力は強く強くより強く輝いている。今の石英は魔力の圧だけで神々すら屈伏(くっぷく)させるだろう。


 魔力の質も量も、以前とは比べるまでもない。まさしく(けた)が違う。


 その姿は何処か神々しい霊気に満ちていた。その霊気と魔力は、無限に広がる多元宇宙の様だ。


 無限の可能性、次元、時空、宇宙を構成する情報の全てを一つの器に内包する。全であり唯一だ。


 その存在は、正に単一で多元宇宙の如き黄金の輝きを放っている。


 「・・・・・・・・・」


 石英は答えない。しかし、その魔力は穏やかでありながら激しい圧を放っている。その姿に、ナイは初めて激しい怒りを見せた。


 「答えろ!!!」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 声を荒らげるナイに、石英はちらりと軽く一瞥(いちべつ)する。それだけで、魔力の圧が格段に増した。


 「ぐっ・・・う・・・」


 「僕は僕として、真に覚醒した。只、それだけの事だ・・・」


 石英は今まで幾度となく臨死(りんし)を経験した。今回も含め、二度の死も経験した。


 それを切っ掛けに、石英は死を完全に超越したのだ。或いはもはや、二度と石英は死ぬ事が出来ないのかもしれないが・・・。それは、生命の(ことわり)を大きく外れたとも言える。


 死を超越し、石英は真に覚醒したのだ。


 「くっ、死ねぇ!!」


 ナイが拳銃を構え、再び魔弾を撃とうとする。瞬間、黄金の魔力が物質的な嵐となり吹き荒れる。


 拳銃は破壊され、魔力の嵐はナイを呑み込んだ。圧倒的黄金の嵐。


 黄金の魔力はコンマ一秒もかからず、石英の意思に反応し、形を変えて荒れ狂う。それは、決して魔法などではない。術式を構築する事なく、術の理論など関係なく、只宿主である石英の意思に魔力が従っただけである。


 魔力の完全制御。それが出来れば、術式や理論などの過程を省き、思いのままに事象を操れる。


 思考活動だけで世界の法則を掌握する事すらも可能だろう。


 ・・・石英は抱えたままのサファイヤをゆっくりと下ろし、そっと抱き締めた。


 「ごめん、心配をかけた・・・もう大丈夫だ」


 「っ!?」


 その言葉に、サファイヤはくしゃりと顔を歪める。震える腕を石英の背に回す。石英の体温を感じてサファイヤの目から止め処なく涙が溢れる。


 生きている。ああ、石英が生きている。それを感じただけで、涙が止まらない。


 「舐め、てんじゃ・・・・・・ねえぞっ!!!」


 混沌の嵐が吹き荒れる。石英はサファイヤから離れ、ナイと向き合う。


 他の化身達は既に消えている。どうやら、千の化身を一つの身体に収束させる事によって、限定的に質量を高めたらしい。今のナイは原初の混沌(オリジン)そのものだ。


 恐らく千の個性や自我を、人類を滅ぼすという一つの意思で纏めているのだろう。


 「さあ、決着をつけようか。ナイアーラトテップ」


 「黙れ!地を這う蟻如きが図に乗るな!!」


 ナイアーラトテップはその姿を、名状しがたき異形へと変える。異形の怪物となったナイアーラトテップは踏み込みで大地を砕き、一足跳びに突撃する。


 その速度はもはや、光速に限りなく近い。


 しかし、石英はそれを避ける事も防御もしない。そもそも、する必要が無い―――


 都市一つを余裕で砕く一撃は、石英の身体に傷一つ付ける事すら叶わなかった。呆然とする怪物を石英は無情な瞳で見詰める。


 「召喚(きたれ)、聖槍ロンギヌス」


 一言石英が呟く。すると、その掌に黄金の魔力が収束し一振りの槍が顕現(けんげん)する。


 其れは、穂先に血色の十字架の装飾がされた黄金の聖槍だ。その圧倒的な神威と神々すら殺しうる程の濃度の呪詛に、周囲の者達は気圧される。


 特に、その聖槍を見たヤハウェは愕然とした表情をする。


 「ロンギヌスの聖槍、だと・・・?」


 そう、この槍こそ知らぬ者の居ない最高位の聖遺物(せいいぶつ)。ロンギヌスの聖槍である。


 ロンギヌスの聖槍―――


 鍛冶師、トバルカインの打った隕鉄で出来た長槍。神と子と聖霊の三位一体の一角、イエス=キリストの血を浴びた神殺しの聖槍。


 アーサー王物語のロンの槍のオリジナルであり、所有者に世界を制する力を与える最高位の聖槍。


 神の子を殺した神殺しとしての呪詛と聖遺物としての聖性、その双方を宿す聖槍の最高位。


 「・・・っ!?」


 此れはマズイ―――そう感じたナイアーラトテップは転移でこの場を離脱しようとする。


 しかし、石英がそれを許さない。空間から黄金の鎖が伸び、ナイアーラトテップを縛り付ける。


 「こんな物っ!!!・・・ガッ!!!」


 ナイアーラトテップはそれを破壊しようと身体に力を籠めるが、鎖は更に拘束力を増すばかり。その拘束力は悟空を縛り付けた時を軽く凌駕(りょうが)する。


 そもそも、今の鎖には新たな権能が宿っている。


 全ての奇跡や神秘を否定する。そう、不能の魔弾に宿っていた呪詛の完全なるコピーだ。


 「終わりだ。滅び去れ―――」


 黄金の輝きが更に増してゆく。その輝きはまるで灼熱の太陽の様だ。目も眩む黄金の輝きに、周囲の者達は腕で目を庇う。


 石英が聖槍で一閃する。響き渡るナイアーラトテップの断末魔。その瞬間―――


 石英とナイアーラトテップの間に、鈍色(にびいろ)の影が割り込んだ。不吉な風が吹く。


 「かはっ!這い寄る混沌がざまあねえな!!」


 黄金の輝きが鈍色の魔力光に呑み込まれる。驚愕した。突然割り込んで来たこの少年は、聖槍による一閃を石化させて破壊したのである。


 否、それ以前に石英はこの少年に見覚えがあった。


 「っ、お前は・・・・・・っ」


 石英の声が、堪え切れない怒りに震える。聖槍を握り締める手に力が籠もる。血がにじむ程、その槍を強く強く握り締める。


 黒の詰襟の軍服に軍帽、鈍色のマントを着用し、闇の様な黒い髪に瞳と純白の肌を持つ少年。その黒い瞳には鮮血の様に赤い瞳孔(どうこう)が目立つ。


 そして、何よりもその顔には不吉な笑みを常に張り付けている。


 「あっ・・・ああっ・・・・・・」


 ルビが、絶望に引き攣った声を上げる。ルビも、この少年には見覚えがある。顔を青褪めさせ、かたかたと小刻みに震えている。


 そう、二人にとってこの少年は文字通り、それだけの因縁のある相手なのだから。


 そして、何もそれは石英達だけの話では無い。神々が、天使達が、凄まじい殺気を放つ。


 「やはり、お前が・・・お前が元凶か・・・石化の王っ!!!」


 響き渡るミカドの怒号。しかし、石化の王は相変わらず不吉な笑みをその顔に浮かべている。


 ナイアーラトテップも此処にきて助かったと思ったのか、余裕の笑みを浮かべた。


 「遅いぞ、石化の王!さあ、今すぐ俺を助けろ!!」


 「ああ、お前はもう用済みだ。だから・・・最後に一つ、役に立って貰おう」


 ドスッ。何か、柔らかい物を貫いた様な鈍い音が響いた。


 見ると、ナイアーラトテップの胸を石化の王の手刀が貫いていた。肺を傷付けたのか、喀血する。


 「っ、ゴホッ・・・・・・・・・な、何故・・・」


 「自分なら裏切られないとでも思ったか?全てが自分の思うがままだとでも?くはっ、甘いな」


 「おっ、おおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああ!!!」


 絶叫が響き渡る。同時に吹き荒れる、唯一神すらも超える圧倒的な混沌の神気。単一で多元宇宙の全てを満たす程の圧倒的な混沌の波動。


 その波動が、全てを創造し全てを破壊する。その様子はまさしく原初の混沌だ。


 「くははははははははははははははははっ!!!さあ、真なる神、魔王アザトースの降臨だ!!!」

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