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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
殺人鬼少年異世界道中
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殺人鬼・・・

 夜も深くなった頃――


 石英は一人、星を眺めていた。ルビは石英の肩に寄り掛かって、既に寝ている。


 空には淡く緋色に輝く月に似た天体が浮かんでいる。


 皓々(こうこう)と輝く星々を指でなぞり、星座を描く。当然の事、この世界の天体は元居た世界の星々とは全く異なる。


 石英がやっているのは星々を線で結び、星座の様な物を描いているだけだ。


 「・・・・・・・・・」


 ・・・ふと星座を描いていた指を止めた。少しの間、何かを考えると石英はルビを抱き抱えて洞窟の中へと入って行った。


 洞窟の最奥にルビを寝かせた後、彼女の頭をそっと撫でた。


 すっと立ち上がり、洞窟の外へと出ると、其処には百人以上の兵達が入口を囲んでいた。


 「ふーん、たった一人の為に随分とまあ大勢で来た物だね」


 驚くでも無く、怒る訳でも無く、只淡々と呟く。その言葉に感情は籠もっていない。


 その余りの無感情さに兵達は不気味な悪寒に襲われる。


 しかし、そんな兵達の中、騎士甲冑を着た緑髪の大男只一人が臆する事無く前に出て来た。


 男の背には巨大な大剣が背負われている。その大剣は見た目だけでもかなり重そうだ。


 並の怪力では無いだろう。


 緑髪の騎士は石英の姿を確認すると、大音声で名乗りを上げた。


 「我が名はターコイズ。王軍"星の騎士(アストラル)"が一人である!死神の封印を解いたのは貴様かっ!!」


 「死神と言うのは知らんが、確かにルビを解放したのは僕だ」


 騎士ターコイズの怒声に怯む事無く、それに答える。


 その返答に、ターコイズと兵達の怒気は膨れ上がる。


 「貴様あっ!あれの危険性を知っててやっているのかっ!!」


 怒りの余り、ターコイズは青筋を立てて声を荒らげる。しかし、石英はそれすら意に介さない。


 「戯言は其処までだ。聞かせてもらうが、アンタ等はルビが居なければ、ルビが犠牲になれば本当に世界中が平和になるとでも思っているのか?」


 「何?」

 石英の言葉にターコイズは訝しむ。見ると、石英の瞳が冷徹な色に変わっている。石英はそれに構わずに話を続ける。


 「アンタ等は只、ルビを犠牲に仮初めの平和を得ているだけだ。それは所詮、偽物でしかないよ。何れはボロが出る」


 その言葉に、ターコイズはぐぬぬっと唸る。


 「ええいっ!所詮は奴の戯言だ!!全軍、突撃!!」


 兵達が一斉に突撃してくる。石英は静かにナイフを構えた。


 その瞬間、石英の雰囲気が殺人鬼のそれへと変わる。兵士達の背筋が凍り付く。


 兵の一人が石英に斬り掛かる。刹那(せつな)、斬り掛かった兵の腕が飛んだ。


 「ガアッ!!!」


 断末魔の叫びと共に、兵の首が飛ぶ。


 「このっ、ぐああっ!!」


 「ぎゃあっ!!」


 「がああっ!!」


 他の兵達が何とか石英の身体を捕らえ、斬り付けようとする物の、次から次へと兵達の首が飛んでいくだけだ。


 最小の動きで最大のダメージを与える。それは身体の使い方、筋肉の使い方、武器(ナイフ)の振るい方を熟知している石英だからこそ出来る神域(しんいき)の技だ。


 石英は比喩ではなく、身体の駆動から呼吸法に至るまでの全てを戦闘用に切り替える事で、肉体を戦いに適したカタチに造り変えているのだ。


 つまり、今の石英は身体の構造(カタチ)からして常人とは違う。


 身体の細部、筋肉の繊維(せんい)一本一本に至るまでが戦闘用に造り変えられているのだ。


 「さっ、殺人鬼・・・」


 兵の誰かが戦慄(せんりつ)と共に呟く。そう、今の石英は人を殺す鬼だ。


 その間にも、死神の鎌は次々と兵の命を刈っていく。


 殺戮(さつりく)の夜はまだ始まったばかり・・・。


 ・・・・・・・・・


 真っ暗な空間の中、何処とも知れない場所にルビは居た。


 周囲を見回しても、誰も居なければ何も無い。次第に不安になってくる。


 一体此処は何処?


 私はどうして此処に居るの?


 もう一人は嫌!寂しいのは嫌!!


 もう、孤独は嫌!!!


 暗闇の中、ルビは泣き叫ぶ―――


 ・・・・・・・・・


 早朝―――


 洞窟の奥でルビは目を覚ました。


 「・・・夢?」


 孤独な夢を見ていた気がした。一人ぼっちな、とても寂しい夢を。


 「石英?」


 不意に頭に浮かんだ少年の名を呼ぶ。・・・だが、返事は無い。


 だんだんと不安になってきた。


 そんな中、入口の方から濃い血の臭いが漂って来る。不安はついに最高潮に達した。


 「っ!石英!!」


 飛び起き、洞窟の外へと出る。


 其処では、石英が緑髪の騎士と戦っていた。


 周囲には兵達の死体が散乱している。


 石英は無傷で緑髪の騎士は体中に傷を負っている。騎士甲冑も、壊れてもはや意味を成さない。


 石英の放つ雰囲気もルビの知る物では無く、殺意と殺気に満ちていた。それはもはや別人の様だ。


 「ぐあっ!!!」


 石英のナイフが騎士を切り裂いた。地面に倒れる騎士の首にナイフを向け、止めを―――


 「石英、駄目!!!」


 ―――刺そうとして、ぴたりとその手を止めた。


 石英の背に、ルビは抱き付いている。


 「・・・・・・・・・」


 「これ以上は駄目」


 ルビの身体は小刻みに震えている。よほど殺人鬼の姿が怖かったのだろう。


 しかし、それでも彼女は石英を止める為に足を踏み出した。


 その行為に一体どれ程の勇気が要るのだろうか?


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「駄目」


 ルビは石英を抱き締める腕により力を込める。


 数秒間の沈黙の後、石英は溜息を吐き、ナイフをコートの裏に仕舞う。その瞬間、石英から殺気が消え去った。


 「石英?」


 ルビは未だ不安そうな顔で石英を見る。


 「大丈夫だよ、ルビ。僕はもう大丈夫」


 そう言って石英はルビの頭を撫でた。その笑顔にルビは安心するのだった。


 ・・・・・・・・・


 「ねえ、石英」


 「うん?」


 戦いが終わった後、おずおずとルビが話し掛けて来た。


 ちなみにターコイズは洞窟の奥に縛り付け、拘束している。


 「さっきの石英のあれ、何かな?二重人格?」


 「ああ、あれね・・・。別に二重人格と言う程の物では無いよ。言うなれば仮面(ペルソナ)の切り替えと言った所かな」


 「仮面(ペルソナ)?」


 聞き慣れない言葉に、思わずルビは首を傾げた。石英は苦笑しつつ説明をする。


 「ペルソナとは表面的な人格の事だね。ほら、居ないか?時と場所によって性格が変わる人。その様に人間が社会で生きる為に必要なソレを仮面(かめん)に例えたモノだけど、僕のはかなり特殊なんじゃないかな?」


 ペルソナとは、カール=グスタフ=ユングの提唱した心理学の用語であり、人間が社会集団に適応する為に必要な外的側面(がいてきそくめん)を仮面に例えた物である。


 つまり、人が集団生活に適応する為に使い分ける、表面的な人格の事である。家族や会社の同僚とで話し方や接し方に違いがある人は居ないだろうか?ソレだ。


 「仮面・・・・・・・・・」


 「まあ、取り敢えずそれは置いておくとして・・・」


 石英は縛られているターコイズの方を向いた。


 「何だよ」


 ターコイズはもはや抵抗を止め、大人しくしている。


 そんなターコイズに、石英は爆弾発言をする。


 「王様の許へ連れて行け」


 ・・・・・・・・・


 「報告します!!ターコイズの軍勢は壊滅、ターコイズは捕らえられた様です!!」


 「そうか・・・」


 その報告を聞いたアルカディアの王、ラピスは激しく舌打ちする。


 「あの馬鹿者が。作戦に背き、単独行動に走りおってからに・・・」


 ターコイズが単独行動に走った為に当初の作戦は大きく狂い、作戦に許容の出来ない致命的な誤差が生じたのだ。


 当初の作戦ではもっと大規模な軍勢を以って波状攻撃で押し潰す手筈だった。


 それがまさか、自身の部下にこんな形で裏切られるとは―――


 と、其処へ突然傷だらけの偵察兵が駆け付けて来る。


 「ほっ、報告します!!例の少年が此処、王都に向かっています!!!」


 「何だと!?」


 「それともう一つ!例の少年が王との会談を所望(しょもう)している様です!!」


 「!?」


 兵達に動揺が奔る。奴は此処に来て、話し合いで解決しようとでも言うのか?


 「王よ、どの様に?」


 側近の一人が問う。彼等は王軍、云わば王の手足である。


 彼等の瞳には、王の決定には従うという意志が込められている。


 その意志を受けて王は暫く考え込み、その決定を口にする。


 「良いだろう、その会談受けて立とう」

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