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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
天界戦争―Azathoth―
45/114

幕間、大変です!大変なのですっ!!!

 天界時間14:35ヤハウェの神殿にて―――


 「死神の少女が逃げたですって!?」


 「絶対に見付け出すのです!!」


 「まだ近くに居る筈です!見付け出して、再び捕らえるのです!!早く!!!」


 神殿では天使達が(さわ)いでいた。騒ぎの理由はルビだ。ルビが逃げ出したのだ。


 「騒がしいですね。何かあったのですか?」


 「ミ、ミカエル様!!?」


 「あわっ、あわわっ・・・」


 其処に現れた天使長に天使達は動揺(どうよう)した。中には目に見えて青褪める天使も居た。


 ミカエルは表情を一切崩さず、再び問い質す。


 「何かあったのですか?」


 「は、はい・・・実は、死神の少女が逃げ出したのです・・・」


 天使の一柱がしゅんと肩を落とし、状況を説明する。なるほどと、ミカエルは呟く。


 「その少女の居場所はもう見付かっているのですか?」


 「い、いえ・・・それはまだですが・・・」


 「そうですか・・・」


 そういって、ミカエルは静かに息を吐く。それをどう捉えたのか、天使達は一気に消沈した。


 すると、再び其処に新たな天使が駆け付けてくる。その顔は明らかに蒼白だ。


 「ミ、ミ、ミカエル様っ!?大変です!大変なのですっ!!!」


 「落ち着いて下さい。一体何があったのですか?」


 狼狽(ろうばい)する天使にミカエルは冷静に問い掛ける。それでもまだ、天使はうろたえる。


 これでは話にならない。ミカエルは一つ溜息を吐くと大声でその天使を叱咤(しった)する。


 「落ち着きなさい!!!」


 「ひっ!?」


 びっくうっっ!!!


 天使達は一斉に肩を震えさせ、縮こまる。叱咤された天使など涙目だ。それを冷たい視線で見詰める天使長ミカエル。


 「落ち着きましたか・・・?」


 「は、はい・・・」


 落ち着いたらしい。ミカエルは再び溜息を吐き、再度問い掛けた。


 「一体何があったのです?」


 「はい。実は・・・死神の少女を奪還すべく、神殺しが天界に乗り込んで来たのですが・・・其処に堕天使ルシファーの姿も確認されたのです」


 「「「「!!?」」」」


 その場に戦慄(せんりつ)が奔る。ミカエルの目がこれでもかと見開かれた。


 堕天使ルシファー、その名はそれ程までに恐るべき物なのだ。何故なら、かつて自らの意思で自らの創造主である神、ヤハウェに反逆した天使だからだ。


 その際、天使の過半数が彼に賛同し堕天したが、それはあくまで彼に同調しただけだ。真に、自らの意思で創造主に反逆したのは彼だけだ。


 その彼が、再び天界に戻ってきた。ミカエルの脳裏に大戦争の予感が(よぎ)る。


 「貴方達はルシファーを迎え撃つ準備をして下さい!!」


 「し、しかし・・・死神の少女や神殺しが・・・」


 「今は其方に構っている場合では無い筈です!堕天使達がもし、全軍で攻めて来たら・・・流石の天界も無事では済まないでしょう!!」


 「は、はいっ!!!」


 天使達は慌てて飛んで行った。誰も居なくなったのを確認し、ミカエルはふぅっと溜息を吐いた。


 「もう、出て来ても良いですよ」


 「・・・・・・・・・」


 ミカエルの背後の陰からルビが出て来た。ミカエルは天使達と話している間、ずっと背後にルビを隠していたのだ。


 天使達に気取られず、人を隠すなど並ではない。何かしら、特殊な力を行使したのは明白だ。


 「よくぞ耐えました」


 「・・・あの、先程の天使達が言っていた神殺しって?石英の事を言っている様だけど」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ミカエルは苦々しい顔で黙り込んだ。とても言いづらそうな雰囲気(ふんいき)だ。


 ルビはきょとんっと首を傾げる。


 「あの・・・ミカエル?」


 「ルビ・・・貴女は運命というモノを信じますか?」


 「え・・・?」


 ゆっくりと、ミカエルは話を噛み砕く様に説明する。


 「人の中には、時として強力な運命を背負って生まれて来る者が居るのです。それは必ずしも人だけではありません。あらゆる生物、神や悪魔、神話の英雄達ですら持って生まれて来るのです。それを我々は星辰と呼びます・・・」


 「星辰・・・」


 「そう、星辰です・・・。その星辰を宿して生まれて来た子供は、星辰の方向性により人生の大部分が決定されるのです」


 神話に度々語られる運命、それこそが星辰の正体である。星辰を宿して生まれて来た者は、無限の確率を超えて運命を強制される。


 その強制力を知っているミカエルは苦々しい顔をした。神を殺す運命など、一人の人間に背負わせるにはあまりに酷だ。


 それを理解したルビは悲しげな表情を浮かべた。


 「じゃあ・・・石英も、その星辰を?」


 「はい。彼は生まれながら、神を殺すという星辰を宿して生まれて来た、生来の神殺しです」


 「そんな・・・」


 ルビは思わず、絶望しそうになる。それを察したミカエルは苦笑して言った。


 「星辰の運命を乗り越える事は、出来ない訳ではありません・・・」


 「ほ、本当!!?」


 思わずルビは身を乗り出して(たず)ねる。そんな彼女に、ミカエルは少し苦い顔で言った。


 「並の苦労ではありません。神々ですら、乗り越えられずに運命に屈する事がほとんどですから」


 「それでも、無いよりはマシだよ!!」


 そう言って喜ぶルビ。しかし、ミカエルの表情は晴れない。


 神々ですら、ほぼ乗り越えられない・・・。それはつまり、運命を乗り越えるという事は神々すらも超越するという事である。


 運命を乗り越えられず、神々を殺す化物になるか、星辰を乗り越えて化物となるか・・・その違いでしか無い筈だ・・・。それを知っているミカエルは一人、苦々しい顔でルビを見る。

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