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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
天界戦争―Azathoth―
43/114

僕には全てが視えている

 超高温によりドロドロに()けた地面はやがて冷えて固まり、硝子状(がらすじょう)になった。


 一部硝子の平野と化した元草原で、石英達三人は揃って正座している。ルシファーは何処かへ転移して早速逃げた。何とも逃げ足の速い事だ。


 三人の前には額に青筋を浮かべ、仁王立ちしているゼウスの姿があった。


 その光景はまるで、親に叱られる子供の様だ。


 「・・・おいっ」


 「「「・・・・・・・・・」」」


 石英達は先程から、黙ってゼウスの説教を受けている。説教はかれこれ数時間にも及んだ。


 「で、何か言う事はあるかの?」


 「「「本当に申し訳ありませんでした!」」」


 息ぴったりに声を揃えて謝る三人に、ゼウスはにっこりと笑う。笑ってはいるのだが、その目は全く笑っていない。


 闇よりも暗いその瞳に、石英達は口元を引き攣らせる。


 ゼウスの手元には、先程からバチバチと雷霆(らいてい)が稲光を奔らせている。何時、その雷撃が飛んで来るか解らないと石英達は戦々恐々としていた。


 「いくら、いくら向こうから攻めて来たとはいえ・・・流石にこれは無いじゃろう!!!」


 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」


 ゼウスの指差した先には、一面硝子状に変質した地面があった。焦土なんて物ではない。ちょっとやそっとの熱量ではこうはならないだろう。


 核兵器くらいの熱量が無ければこうはならない筈だ。


 まあ、確かに少しやりすぎたと、石英は僅かに反省する。僅かに、だが。


 「大体、おんし達は―――」


 「あー、其処までにしてもらおうか・・・ゼウス」


 唐突にゼウスの言葉を遮って話し掛けてきた者が居た。石英でもサファイヤでも、ましてやムーンでもない誰か。しかし、その声に聞き覚えはあった。


 誰だ?


 そう思い、振り返る一同。其処には―――


 「・・・お父さん?」


 ―――ミカドがルシファー、メフィストフェレスと共に居た。だが、それよりもゼウスが驚いたのはサファイヤの放った一言だ。


 「は?お父さん、じゃと・・・?おんし、娘がおったのか?」


 ゼウスは思わず、サファイヤとミカドを二度見する。その顔が面白かったのか、メフィストフェレスはくつくつと声を押し殺して笑う。


 メフィストフェレスを睨み付けるゼウス。しかし、当の悪魔は素知らぬ顔をする。


 ルシファーは心の中で溜息を吐き、メフィストフェレスの頭を軽く小突いた。不服そうな顔をするメフィストフェレス。


 ミカドはそれ等を無視して話を進める。


 「それについては今は良い。今はもっと他に話す事があるだろう?」


 「???」


 ゼウスは首を傾げ、さも不思議そうな顔をする。その姿にミカドは苦笑し、隣の悪魔の長を見る。


 「先程、天使達の襲撃を受けたと聞いたが?」


 「おおっ、その事か!!そういえば、あ奴等はおんし達が主に逆らったと言っていたが、どういう事か説明してくれるかの?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ゼウスに問われ、石英は黙り込む。果たして言うべきか否か。石英は考え込んだ。


 それを、いち早く見抜いたサファイヤが石英に心配そうな目を向ける。そんな二人に、ミカドは苦笑と共に溜息を一つ吐く。


 「石英・・・お前が言いたくないなら別にそれでも良いが、少なくともゼウスを味方に付けておいた方が役に立つぞ?」


 「・・・・・・・・・解った」


 石英は頷く。・・・そうして、石英はこれまでの詳しい経緯(いきさつ)を話し始める。


 始まりは強い予感を感じた事から始まった。嫌な予感だった。


 ・・・此処で動かなければ、全てが滅茶苦茶になる―――そんな強い予感を感じた。


 そして、その予感は的中する。


 町のすぐ側、"無名の大草原"に聖書の神が降臨した。それも、宇宙を想わせる程の膨大で質の高い神気を垂れ流しながら。


 彼の神、ヤハウェは言った。終末の子、ルビを渡せと。その異能、死神の力を利用して人類を秤に掛けようと言った。


 死神の権能(ちから)を利用した全人類の選別。天罰計画(てんばつけいかく)―――


 当然、石英は此れに反発する。一触即発の空気が流れる。


 ・・・結果、事態は悪い方向へと流れる。駆け付けて来たルビとサファイヤに気を取られ、石英は天使達の槍に貫かれる。


 それが只の槍ならば、石英には通じなかっただろう。しかし、天使達の持つ槍は神の力を分け与えられた聖槍である。文字通り、並では無い。


 云わば、ロンギヌスの槍と同系統の代物。故に、石英は貫かれ多大なダメージを受けたのだ。


 そして、その神と天使達によってルビは(さら)われ、石英は重傷を負う結果となった。


 ・・・一通り話を終えた後、ゼウスは顎に手を当て、考え込む。


 「しかし、解せんな。何故、あ奴がそんな暴挙を・・・」


 ヤハウェは一度(ひとたび)怒れば、天変地異すらも起こす恐るべき神だが、同時に誰よりも人類を愛する温和な神でもある。そんな神が、理由なくその様な暴挙に出る筈が無い。


 その理由を言うべきか、石英は少し悩んだがやはり言う事にした。


 「裏で彼を(そそのか)した奴が居るんだよ」


 「唆した、じゃと・・・?」


 ゼウスは訝しげな顔をする。石英はこくりと頷く。


 「コランとムーンは覚えているだろう?以前、町を怪物と共に襲撃したあの黒い神父だよ」


 「「!!?」」


 サファイヤとムーンは目を見開き、愕然とする。


 以前、"龍の心臓"を異形の怪物と共に襲撃した黒い神父。サファイヤは覚えている。狂った様に嗤いながら町を破壊し、人々を殺して回るあの忌まわしい姿を。


 「それに、そいつの事だけじゃないんだ。この一件には僕にとっても、ルビにとっても、底の深い因縁があるんだ」


 黒い神父の裏で更に暗躍する者。そいつにこそ、石英は因縁があった。石英にとって、そいつこそが打倒すべき不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だった。


 「石英・・・」


 サファイヤは石英を心配そうに見詰める。サファイヤには不安があった。石英がこのままどこか遠くへ行ってしまうのではないか。このまま石英が居なくなってしまうのではないかと。


 一方、ゼウスは何かを考え込みながら石英に問う。


 「ところで、おんしは何故其処まで詳しく知っている?」


 それは当然の疑問だろう。石英は不自然な程、知り過ぎている。何かあると勘繰るのは当然だ。


 それに対し、石英は軽く溜息を吐いて答えた。


 「僕には全てが視えている。今はそれだけで勘弁してくれ」


 「魔眼、か・・・」


 「まあ、その様なモノだ」


 そう言って、石英は言葉を切った。


 石英には全てが視えている。それこそ、この程度の情報は最初から把握(はあく)している。


 ヤハウェが現れる前に感じた、強い予感もその力の一端だ。全て、最初から知っていた。


 それこそ、自身の力が魔眼の領域に収まらない、もっと高次元の力である事も・・・。


 「ふむ・・・で?結局、おんし達はこれからどうするつもりじゃ?」


 「決まっている。まずはルビを助け出す。その後はヤハウェと直接会って、その計画を止める」


 ゼウスの問いに、石英は即答する。ゼウスは目を鋭く細め、石英を見る。


 「本気、なんじゃな?」


 「ああ、本気だ」


 「死ぬやもしれんぞ?」


 「死ぬつもりも無ければ引くつもりも無い」


 ゼウスと石英は互いに睨み合う。サファイヤ達は固唾(かたず)を呑んで、じっと見守る。


 否、メフィストフェレスだけはにやにやと笑いながら見ている。さも、面白そうに。


 それを見て、ルシファーが軽く頭を小突いた。やれやれだ。


 そして、折れたのはゼウスの方だった。


 「解ったわい!ただし、わしも付いていくぞ?それで良いな!?」


 「・・・ああ」


 こうして、ゼウスが仲間に加わった。若干、石英は不服そうだったが。


 ・・・・・・・・・


 天界、星地イェルサレム―――


 ヤハウェの神殿、その奥にある一室に、人間の少女と一柱の天使が居た。


 「ルビよ、人の子よ、目を覚ますのです」


 「うっ、んん~?」


 天使は眠っているルビに(おごそ)かな声で話し掛ける。


 目を覚ましたルビはまだ寝惚(ねぼ)けている瞳で周囲を見回すが、すぐにはっと恐ろしい事実に気付いた顔をすると、天使から距離を取ろうとする。


 しかし、その前に天使の方から近くに寄って、静かにするように仕種で伝える。


 「静かに、私は貴方の味方です」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 天使は自身を味方だと言うが、ルビはそれを信じられずに只、睨み付ける。それを見て、苦笑した天使はルビの警戒を解く為に、自己紹介する。


 「私の名はミカエル。(しゅ)に仕える天使の長、熾天使(してんし)の位に居ます」


 熾天使ミカエル―――


 天使の王子。天使の中でも最高位であり、神の御前(みまえ)の天使と呼ばれる。


 セフィロトの樹、美<ティファレト>の守護天使でもある。ミカエルの自己紹介に、ルビは警戒を解く事なく問い掛けた。


 「その天使の長が、私に何の用?」


 「貴方を此処から逃がします」


 「!!?」


 躊躇(ためら)う事なく放たれた言葉に、今度こそルビは目を見開く。それはつまり、天使長自ら主である神の意志に逆らう事に他ならない。


 「一体、何が目的?」


 ルビは恐る恐る、ミカエルに問う。・・・ざわっ。


 瞬間、ミカエルの瞳に憤怒が宿る。黄金に輝く髪は怒りに震え、その美貌は激情により歪んだ。


 「全ては奴を、主を唆し、あの様な狂った計画を(すす)めたナイという神父を倒す為!!」


 「ナイ?」


 突然出てきた知らない名前に、ルビは首を傾げる。ミカエルは怒りの表情のまま、首肯する。


 「はい。奴は、ナイと名乗ったあの黒い神父はある日突然、天界に現れ主と一部の神々を唆し、人類を選別して粛清(しゅくせい)しようと言い出したのです」


 「なっ!!?」


 人類の選別、粛清。その聞くだけで恐ろしい話に、ルビは戦慄(せんりつ)した。


 そして、ルビは何故自分が囚われたのか、今になって理解した。つまり、自身の中に封じられた死神の力を利用しようと、そういう事だ。


 そのおぞましい計画に、ルビは身を震わせた。


 「あの神父の目的は知りません。けど、その狂った計画を砕く為にはルビ、貴女を先ずは逃がすのが何よりも先決です!!」


 ミカエルはルビに手を差し伸べる。


 ルビはその手をじっと見詰めた。まだ、この天使長を信じた訳ではない。しかし、彼の言う事が本当ならこのまま此処に居続けるのはまずい。


 しばし考えた末、ルビはその手を―――


 「・・・うっ!!」


 急な吐き気に、ルビは口を手で押さえる。


 「っ!?大丈夫ですか!?」


 驚いたミカエルは慌ててルビの顔を覗き込む。ルビは青褪めた顔で「大丈夫・・・」とだけ言う。


 その様子に、ミカエルは真剣な顔でそっとルビの腹部に手を当てる。小さく、確かな鼓動にミカエルはふっと微笑んだ。


 「そうですか・・・そういう事ですか・・・」


 「・・・ミカエル?」


 まだ若干青褪めた顔でルビは問い掛ける。ミカエルは表情を引き締め、少し間を置いて言った。


 「ルビ、貴女のお腹の中には、子供が宿っています」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」


 きょとんっと、ルビは呆けた顔をする。どうやら理解が追い付かないらしい。


 なので、ミカエルはもう一度言った。


 「ですから・・・ルビ、貴女ののお腹の中に子供が宿っています。恐らくあの神殺し、石英という子の子供でしょう」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「ルビ?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きゅう」


 ぱたり。


 たっぷりと間を置いて、ルビはその場で気絶した。


 「ちょっ!?今倒れられては困ります!目を覚まして下さい!!」


 慌てるミカエル。まったくもってやれやれだ。

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