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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
天界戦争―Azathoth―
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此処は天界、中央大草原じゃよ

 魔王城、地下深く―――魔術工房(まじゅつこうぼう)


 大図書館よりも地下深くに造られた、大規模魔術実験場。本来なら、魔王であるサファイヤ以外立ち入る事を許されない、最重要機密<トップシークレット>である。


 其処に石英とルシファー、サファイヤとムーンの三人と一柱が居た。工房内を見回しながら、ルシファーは感嘆の息を吐く。


 「凄いな。高位の霊場にいるのかと錯覚するくらいに霊的磁場が高い・・・」


 「まあね。徹底的に環境を整えて、道具を調えているからね。此処で良いの?石英」


 「ああ、此処が良い」


 そう言って、石英は片手を目の前に(かか)げる。石英の魔力が高まり、室内に黄金の魔力光が満ちる。


 魔力にはそれぞれ、魔力光と魔力性質が存在する。例えば、サファイヤの魔力光は空色、魔力性質は無限である。


 それは無限に広がる大空を意味しており、単一の宇宙の如き存在を意味する。


 一つの世界観であり、宇宙論であり、神話である彼女の魔力は全知全能の領域にあり、故にサファイヤはその魔力で世界の法則(ほうそく)すらも塗り替える事が可能だ。


 例えるなら、人々を優しく包み込む空色の光だろう。


 対する石英の魔力性質は全と一である。


 それは無限に広がる宇宙であり、只一人の己自身。無限に広がる可能性を有しながらも単一の己であるという対極だ。


 それ故に、石英はあらゆるパラドックスを越えて全てを超越する。無限の宇宙を只一人の器に入れる様なモノと考えれば良い。


 其れは無限の可能性を肯定する、黄金の光。


 誰もがその黄金の輝きに見蕩(みと)れる中、石英は呟く。


 「大賢者―――」


 『了解しました、我が主。目標の時空への座標の計算を開始します・・・完了しました』


 大賢者の仮面(ペルソナ)―――


 それは石英の有する疑似人格である以上に、この世に存在する総てのスーパーコンピューターを上回る計算処理能力を持っている事が大きい。


 その計算処理能力により、主人格をサポートするのである。・・・実際、石英の持つ異能を制御しているのは大賢者の計算処理能力あっての物である。


 石英の視界に一つの景色が視える。目標の時空への座標は認識した。石英はその掌に力を籠める。


 瞬間、目の前の空間が硝子(ガラス)の様に砕けた。


 「「っ!!?」」


 その光景に、愕然と目を見開くサファイヤとムーン。砕けた空間の向こうには、生命の気配溢れる広大な草原が見える。どうやら世界の境界を砕いたらしい。


 唯一、ルシファーだけがこの光景に眉一つ動かさない。


 「流石だな。・・・まあ、当然か」


 「えっ?」


 サファイヤは思わず、ルシファーの方を見た。この光景を見て、彼は当然と言った。


 それは一体、どういう事なのか?


 困惑するサファイヤの姿にルシファーは苦笑し、補足を入れた。


 「石英はね、王権(おうけん)を授かっているんだよ」


 「王権?」


 サファイヤは更に首を傾げる。ルシファーは詳しく説明しようとするが、石英が待ったを掛けた。


 「それを説明しようとすれば、長くなる。今は早く行こう」


 そう言って、石英はさっさと砕けた空間の向こうへと行く。サファイヤとムーン、ルシファーも慌ててそれに続く。すると、砕けた空間は一瞬で消え去った。


 ・・・石英達は広大な草原の中、立ち尽くしていた。


 ・・・・・・・・・


 「えっと・・・此処、何処だろう?」


 サファイヤが呆然と呟く。サファイヤの知っている場所で、無名の大草原がある。しかし、此処はどうも全く違う雰囲気があった。


 この草原は何というか、生命(せいめい)の気配に満ち溢れているのだ。まるで、聖地にでも訪れたかの様な神聖な空気が満ちている。


 「ああ、此処は―――」


 「此処は天界(てんかい)、中央大草原じゃよ」


 石英の声を(さえぎ)って聞こえた声に、石英を除いた全員が警戒(けいかい)する。


 しかし、其処に居たのは一人の老人だった。


 歳の頃は八十から九十くらいだろうか。色の抜けた真っ白い髪に髭を生やし、純白の衣を着た、全体的に白い老人だった。


 見た目は老人だが、体格は筋肉質で目付きも鋭い。そして、全身に雷光を纏っている。


 石英、サファイヤ、ムーンの三人は、即座にこの老人が只者では無いと悟った。唯一、この老人の正体を知っているルシファーだけがのんびりとしている。


 「天空神、ゼウス。オリュンポスの神々の長か」


 「その通りじゃよ。堕天使ルシファー」


 天空神―――


 その名の通り天空を司り、天候(てんこう)を操る力を持つ神である。太陽神と共に主神格である事が多い。


 そして、ゼウスとはギリシャ神話の主要な神々、オリュンポス十二神の長であり神々の王である。


 天空の神であると同時に秩序(ちつじょ)を司る神でもある。


 「てっ、天空神!?というか、天界!!?」


 サファイヤの驚愕の声が響き渡る。


 「そう、此処は天界。我々神々の住まう、正真正銘の"神造宇宙"じゃ」


 天界―――


 多元宇宙の外側から多元宇宙を観測する為に造られた外宇宙。神造世界。


 神道の高天原、北欧の世界樹ユグドラシル、仏教の三千大千世界などの様々な神話、宗教の世界観がこの世界では一つだ。


 つまり、人類史を外から観測し正しく導く為のシステム、それが天界である。


 「ふむ。で?その天空神ゼウスが、僕達に何の用だ?」


 「それは此方のセリフじゃ!おんし達は何をしに、この天界まで来た?」


 ゼウスは警戒心を隠す事なく、雷霆(らいてい)ケラウノスを取り出して身構える。返答次第では誰であろうと容赦はしないと、その瞳は訴えていた。


 対する石英は一つ溜息を吐くと、サファイヤとムーンの肩を(つか)み、後方に転移した。


 その瞬間、三人の居た場所を火球(かきゅう)が襲う。ルシファーは普通に上空に退避した。


 ゼウスは愕きに硬直している。火球が飛んできた方を見ると、其処には十柱程の天使達が居た。


 「・・・・・・・・・名も無き下級天使か」


 「黙りなさい!(しゅ)に逆らう者め、覚悟するのです!!」


 そう言って、天使の一柱が火球を放ってきた。問答無用、である。


 放たれた火球は五つ。その一つ一つに、人一人を(ほふ)るのに充分すぎる威力が籠められている。当たれば五体は残らず消し飛ぶだろう。


 まあ、当たればの話だが。


 「「なっ!!?」」


 天使達は皆、驚愕の声を上げる。


 ・・・それもその筈。放たれた火球の全てが、石英に当たる直前に何かにぶつかったかの様に消し飛んだのだから。


 よく見ると、石英の周囲に僅かに発光する透明な壁の様なモノが見えた。どうやら、火球はそれによって防がれたらしい。


 「・・・結界、ですか」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 結界―――


 俗世と聖域を隔てる境界。本来は神社や寺院などの神域の内と外を隔てる境界線を指す。


 石英はこれを、物理的な防御壁として展開したのだ。


 「くっ・・・しかし、結界を展開している間は其方からも攻撃出来ない筈です!」


 「そ、そうです!攻撃する為にその結界を解いた時が最大のチャンスです!」


 口々に(わめ)く天使達を他所に、石英は白けた顔で言った。


 「そうか、ではそのままじっとしていろ」


 「「何?」」


 天使達は揃って怪訝な声を出す。が、石英はそれ等全てを無視しその掌を天に(かか)げた。


 石英の黄金の魔力が高まる。


 その動作にはっとした天使達は一斉に天を仰ぐが、もう遅い。


 「天よ、()ちろ!!!」


 石英がその掌を振り下ろした瞬間、天が堕ちた。天と地を光の柱が繋ぐ。


 そのあまりの閃光と極熱に、大地は一瞬で溶岩(ようがん)と化す。恐ろしい威力だ。


 しかし、天使達は一切傷付いていない。まあ、当然だ。石英は意識して攻撃を外していたのだ。


 それに気付かない天使達は溶岩と化した大地を見て、戦慄(せんりつ)する。


 「いっ、今の技はまさか・・・!!!」


 「そう、今の技は君達の主の技を再現したモノだ」


 太陽の光を収束、超高圧縮させて光線(レーザー)として放つ技。石英がヤハウェから受けた技を再現した物だ。


 「で、どうする?続ける?」


 「くっ!覚えているのです!!」


 天使達は一目散に去って行った。石英は溜息を吐き、結界を解く。


 その瞬間、先程まで高みの見物を決め込んでいたルシファーが石英の方へ降りてきた。


 「ふむ、流石だな」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 石英は半ば呆れた視線をルシファーに向けた。しかし、ルシファーは一切動じない。


 石英は深い溜息を吐いた。と、次の瞬間―――


 「おいっ」


 背後から肩を摑まれ、ドスの利いた声で話し掛けられた。心底面倒臭そうに振り返る石英。


 其処には額に青筋を浮かべたゼウスが立っていた。


 ・・・・・・・・・


 とある場所に、その男は居た。


 天界とはまた異なる、位相の違う世界。その世界は只それだけの世界だ。


 見える物が全ての世界。たったそれだけの世界。


 その世界から、男は位相の異なる天界の様子を眺めていた。眺めて、さも愉快そうに嗤っていた。


 「くくっ、ようやく面白くなってきたな」


 嗤う。男は、黒い神父は愉快そうに嗤う。


 「狂え、狂え。総て狂って滅びへ向かえ」


 総ては狂気へと堕ちてゆけ―――


 黒い神父は一人、静かに嗤いながらそう(うた)った。

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