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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石英とルビ
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私も付いてるから

 嘗(かつ)て、世界がまだ混沌(こんとん)としていた時代、ある農村にアルクァスという名の少年が居た。


 その少年は混沌とした時代に自由を求め、魔術師である親友と共に一つの国を造る。自由を掲げ、何者にも支配されない国。人類種の理想郷(ユートピア)。


 最初は国とすら呼べない、小さな組織だった。しかし、次第にその理想に賛同した者達、その戦う姿に感化された者達が集い、巨大で強大な大国へと成長した。


 少年は、自らの名をアルカス王と名乗り、全ての人間の自由と尊厳(そんげん)を守護する事を誓う。


 其の大国の名をアルカディア。嘗て、無力で無能と呼ばれながらも自由の為に立ち上がった最初の王が造りし大国である。


 ・・・・・・・・・


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ステラ大図書館―――


 現在、石英は其処で本を読んでいた。今読んでいるのは、この世界の歴史書だ。


 机の上には様々な本が置かれている。それこそ、ジャンルは様々。この世界の地理から歴史書、更には古いグリモワまである。


 かれこれ半日程、石英はこの大図書館に引き籠って読書に耽(ふけ)っていた。


 ・・・石英とルビが結婚してから一週間の時が過ぎた。あれから二人は、町の片隅にある木造の家を住居に住んでいる。


 石英は城の騎士や兵士達の訓練を一手に任されている。その兵士達の中には以前、山賊だった者達の姿もあった。


 訓練はかなり厳しいが、皆必死に付いてきている。国を守る為、大切な何かを守る為、理由は個々様々だがそれでも皆、必死だ。


 そして、石英は現在、休日を利用して読書している所だ。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅっ」


 そろそろ帰るか―――そう思い、席を立った。瞬間・・・。


 グニャリと視界が歪んだ。


 「ッ!?」


 慌てて机にもたれ掛り身体を支えるが、そのまま意識が途絶える。


 暗転。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・気付けば、黄金の魔力光が降り注ぐ空間で、石英とミカドは向かい合っていた。


 この黄金の光を石英は知っている。恐らく、此処は石英の精神世界か何かなのだろう。石英は軽く溜息を吐き、ミカドに問い掛ける。


 「で、僕に何か用か?神様」


 「うむ、まずは結婚おめでとう」


 「はあ・・・」


 曖昧(あいまい)な返事をする石英。しかし、その目は真剣だ。


 結婚の祝いの為だけに、この神が姿を現す筈がない。その真意を目線で問う。


 「もちろん、話はそれだけではない。ちゃんと話すから、そんな目で見るな」


 ミカドは少しだけ肩を竦(すく)めてみせる。石英の視線が呆れた物に変わった。


 カラカラと、ミカドは楽しげに笑う。何がそんなに楽しいのか、石英には解らない。


 「僕の用件は、まあ、あれだよ。石英の使った死者蘇生(ししゃそせい)の大権能の事だ」


 「死者蘇生の?」


 大権能、死者蘇生―――


 以前、"龍の心臓"が異形達によって襲撃された時、石英の起こした奇跡。それによって、町の人々は全員蘇った。


 完全なる死者蘇生。それは、転生を超える奇跡だ。何故なら、新しい命として蘇らせる転生法と違って完全な形で蘇らせる奇跡だからだ。かつて石英を蘇らせた転生法も、死者蘇生に限りなく近いだけの転生の法だった。


 「あの黒い神父に警戒していた為に話すのが遅れたが、あの法は本来神王達にのみ伝えられる秘法である大権能でね。それ故に、みだりに使ってはならぬという掟(おきて)がある」


 「・・・・・・・・・それを、僕が使ってしまったと?」


 「そうだ」


 ミカドは首肯する。その顔は先程と違い、真剣そのものだ。


 「で?それで僕に天罰でも下すのか?」


 「・・・いや、石英には只、みだりに死者蘇生の法を使わないよう忠告しに来ただけだよ」


 「忠告ねぇ・・・」


 天罰ではなく忠告。それで済ませるという事は、それだけ信頼されているという事だろう。


 期待が重い、とは思わない。


 「そう、忠告。あまりその大権能を使われると、輪廻の輪が乱れるんでね。・・・まあ、本来は常人が扱える奇跡では無いのだけど、ね」


 ・・・それ故の大権能。


 常人がこの権能を行使しようとすれば、その代償として自らの命を失うだろう。・・・それも行使出来たらの話で、普通なら行使すら出来ずに命を落とす。


 ノーリスクでこの権能を行使出来るのは、神王かそれと同等以上の実力を持つ存在くらいである。


 「なるほど、ね!!」


 石英は納得した。と、同時に背後を振り返り、黄金の瞳で睨み付ける。


 「グッ、ギャ・・・!?」


 短い断末魔と共に、先程まで誰も居なかった筈の場所に不定形の怪物が倒れる。・・・どうやら紛れ込んでいたらしい。それを、石英はひと睨みで打ち倒したのだ。


 「何時の間に―――」


 「恐らくは、神様がこの空間に入り込んだ時からだろうな」


 「・・・・・・・・・」


 此処は石英の精神世界。気付かれずに入り込むなど容易ではない。可能だとすれば、ミカドが入り込んだ隙に一緒に入り込むくらいだろう。


 黙り込んだミカドに、石英は軽く溜息を吐く。


 「時に神様。僕からも一つだけ、聞いても良いか?」


 「ん?あ、ああっ・・・」


 珍しく歯切れの悪い返事をするミカド。恐らく、敵を見逃していた事に思う所があったのだろう。


 まあ、それはともかくとして―――


 「僕を異世界に呼んだ、本当の理由は何だ?よもや、本当に気に入っただけという事もあるまい?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 再び、ミカドは黙り込んだ。まあ、答えづらい質問ではあるのだろうが。


 「僕に宿る、神殺しの星辰(ほし)も関係があるのか?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、それもある」


 長い沈黙の後、ミカドはようやく口を開いた。その表情には、何処か諦めが混じっていた。


 「あの世界において、石英は何処までも異質だった。あのまま放っておけば何れ、世界そのものが破綻していただろう」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「それに、それだけではないんだ」


 「ん?」


 それだけではない。その言葉に、石英は怪訝な顔をする。が、次の瞬間石英は思わず息を呑んだ。


 ミカドの表情が、心底から忌々しそうになっていたからだ。ミカドのこんな表情は初めて見た。


 「名を呼ぶ事すら忌まわしい奴。そいつにお前が魅入られていたからだ」


 「・・・・・・・・・」


 忌まわしい。確かに、今のミカドの顔は忌々しそうだ。心底から不快そうだ。


 「お前が殺人鬼となったのも、奴の仕組んだ事だ。既に会っている筈だ。何処までも不吉で、悪意的な笑みを浮かべた奴を」


 「―――――――――っ!?」


 石英の脳裏(のうり)に小さい頃、山中で出合った少年が過った。


 「奴の企みを阻止する為、僕は石英を僕の世界へと送ったんだ」


 「・・・じゃあ、僕の両親を殺したのは」


 「奴だ。あと、どうやら奴はあらゆる世界で暗躍(あんやく)しているらしい。ルビが封印された原因、パンデミックを起こしたのも奴だ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 全ては繫がった。総ての元凶(げんきょう)、総ては奴の仕業だった。


 ・・・・・・・・・


 「石英!!」


 ルビは勢い良くドアを開ける。其処には、ベッドに横になっている石英と、その横で林檎の皮を剝くサファイヤの姿があった。


 「ああ、ルビか。ごめん、心配を掛けたな」


 「大丈夫なの?石英が倒れたって聞いたんだけど・・・」


 「大丈夫だって、少し疲れただけだから」


 そう言って、石英は笑う。


 嘘(うそ)だ。本当はミカドが石英の精神世界に入り込んだのが原因だ。


 精神世界に入り込んだミカドが、石英を呼んだのが原因だ。


 「じゃあ、私は此処で失礼するよ。あとはルビに任せるね」


 「あ、うん・・・」


 サファイヤは切り終えた林檎を皿に置き、病室を出て行った。去り際に、悲しげな顔をしていたのが少し気になるが・・・。


 室内には石英とルビの二人が残された。静寂(せいじゃく)が室内を満たす。とりあえず、ルビはベッドの横の椅子に座った。


 「ルビ、少し良いか?」


 「え?」


 唐突に、石英が話し掛けてきた。見ると、石英は真剣な、何かを覚悟した様な顔をしている。


 「どうしたの?石英」


 「僕は、人殺しなんだ・・・」


 「・・・・・・・・・えっ?」


 上手く理解出来なかったのか、ルビはきょとんっとしている。そんなルビに、石英は自嘲する様な笑みを浮かべる。


 その笑みは何処か悲しげで、寂しそうだ。


 「僕は殺した。大した理由があった訳じゃない。衝動のまま、人を殺した」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 「僕は誰よりもクズだ。ルビに愛される資格も、ルビを愛する資格も無いよ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ルビは石英の顔をじっと見る。石英も、ルビの顔を真っ直ぐに見る。お互い真剣だ。


 やがて、ルビはふっと笑みを浮かべ、石英を抱き締めた。


 「・・・・・・・・・」


 「石英、結婚する時に言ったよね。幸せになろうって。私は愛しているよ、石英の事を。石英がどれだけ罪深くてもきっと大丈夫。償っていけるよ。私も付いてるから。私も手伝うから・・・」


 そう言って、石英を優しく包み込む。その温もりが、石英の胸に染み込んでくる。


 「ああ、ああっ・・・」


 この時、石英の意思は、覚悟は固まった。ルビは絶対に守る。そして、総ての元凶である奴はきっと打ち滅ぼしてみせると。

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