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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
殺人鬼少年異世界道中
3/114

誰か、助けて!

 怪物を倒した後、森の中を歩いているとようやく森を抜けたのか、開けた場所に出た。


 目の前には巨大な岩山があり、洞窟らしき物があった。その入口には神社の注連縄(しめなわ)の様な太い縄が張られている。


 一目で何かを祀るか、封じるかのどちらかがされているだろう事が解る。


 「・・・・・・・・・」


 明らかにヤバそうな雰囲気に、石英は引き返そうとした。


 ――が、しかし。


 ・・・けて


 「?」


 何か聞こえた様な気がして洞窟の方へと振り返る。・・・しかし、何も聞こえない。


 「気のせいか?」


 ・・・れか、助けて!


 「!?」


 今度こそ聞こえた声に、石英は少し目を見開いた。今、確かに助けてと聞こえた筈。


 少し考えた後、やがてはあっと溜息を吐き、ナイフを構える。


 「ふっ!」


 注連縄をナイフで斬り、洞窟へと入ろうとした――


 ――その瞬間。


 周囲の地面が蠢き、土で出来たマネキンの様な人形が数十体出現した。


 その人形達全てが石英に殺気を向けている。


 「ふむ、(トラップ)のつもりか?」


 石英はいきなり襲い掛かって来た人形数体の首を刎ねる。


 首を刎ねられた人形は土に戻り、再び土を集めて再生した。


 「何だと?」


 再び襲い掛かる土人形達。それ等を今度はバラバラに切り刻む。


 土人形は再び土に戻り・・・、今度は再生しなかった。


 「・・・どういう事だ?」


 良く見ると、土人形の崩れた跡には切り刻まれた紙片があった。周囲を見回すと、他にも紙片が幾つか落ちている。


 石英は人形達の攻撃を捌きながら思考を加速させる。


 「なるほどね、この紙切れが核か」


 そう確信した石英は人形達をバラバラに、念入りに切り刻んでいく。半時間後、ついに最後の土人形を切り刻んだ。


 「ふう、面倒だな・・・」


 石英はそのまま一切迷う事無く洞窟へと足を踏み入れた。


 ・・・・・・・・・


 王都、王城のとある一室――


 其処に如何にも魔術師という風な女性が居た。


 「っ!?」


 女性は目を見開き、驚愕した顔で水晶玉を見詰めている。


 「結界が斬られた?」


 見ると水晶玉には罅が入っていた。


 結界と水晶玉は接続(リンク)しているらしく、罅は少しずつ広がって行き、最後には砕けてしまった。


 「急がなければ!」


 女性は早急(さっきゅう)に王の許へと向かう。


 玉座の間――


 其処に先程の魔術師風の女性が王の前に跪いている。話の内容はもちろん――


 「何っ!結界が破られただと!?」


 王が驚愕の声を上げる。


 そう――話の内容は結界の件である。


 「して、結界を破った賊の正体は?」


 「はい、賊は髪も肌も白い黒の外套(コート)を着た少年の様です」


 女性は罅が入る前の水晶玉に映っていた少年の姿を思い出す。


 気のせいであろうか?あの時、確かに少年は水晶玉を通して此方を視た気がした。


 王はふーむと唸り、側近の一人に命令を下す。


 「兵達を集めよ!緊急会議を執り行う!!」


 命令を下された側近はすぐに兵を集めに行った。


 ・・・・・・・・・


 石英は洞窟の中を進んでいく。


 洞窟の中は湿り気を帯びており、やけに涼しかった。


 石英はその涼しさに僅かに身震いする。


 洞窟は一本道で、最奥にはすぐに辿り着いた。


 しかし、其処には石英の想像を絶する光景が広がっていた。


 洞窟の最奥、其処にボロボロになった簡素な衣服を着た(あか)い少女が鎖に繋がれていた。


 長く淡い朱色の髪は土に塗れ、身体のいたる所には痣が目立っている。


 一目見て解る酷い姿に、流石の石英も絶句する。すると、少女の虚ろな瞳が呆然としている石英の姿を捕らえた。


 「貴方は誰?」


 呆とした生気の無い瞳で問い掛けて来る少女に石英はようやく正気に戻る。


 「あっ、ああ・・・。僕の名前は石英だよ。君の名前は?」


 「私の名前はルビ。石英は如何して此処に居るの?」


 「如何してって、助けてって聞こえたから?」


 「っ!?」


 少女、ルビは其処で初めて目を見開き、息を呑んだ。その瞳には動揺の色が浮かんでいる。


 「如何して?貴方が私を助ける理由なんて無い筈なのに!」


 ガチャリと鎖を揺らしながらそう問い掛ける。その瞳には焦燥と悲哀の色が浮かんでいる。


 石英はぽりぽりと頬を掻きながら、困った様な顔で言った。


 「いや、何となく?」


 「何、となく?」


 ルビは呆然とした表情で呟く。石英は只何となくで結界を斬って洞窟に侵入し、何となくで最奥まで来たと言うのだ。流石に訳が解らない。


 「いやね、そもそも僕は此処が何処だか知らないし。君の事も全く知らないし・・・」


 そう言い石英は一つ溜息を吐く。


 それを聞いたルビはぽかんっとした顔になった。


 「貴方、私の事を知らないの?」


 「ああ、全く知らない」


 そう堂々と言い放つ石英に、しばらく呆然としていたルビは急にはっと正気に戻ると、唐突に慌て始めた。


 「っ、だったら早く此処から逃げて!もう此処に近付いちゃ駄目!!」


 鎖をがちゃりと揺らし、必死に叫ぶ。その表情には焦りすら見える。


 その必死な様子に石英は首を傾げた。


 「君は一体―――」


 石英が何かを言い掛けた、その時――


 『ゴアアアアアアアアアッッ!!!』


 洞窟内に響き渡る絶叫に、石英は思わず顔を顰める。逆にルビは顔を青褪めさせた。


 「嫌!逃げて!!」


 必死に逃げてと叫び続けるルビ。しかし、無情にもそいつは現れた。


 そいつは先程のマネキンの様な人形とほぼ同じ奴だった。しかし、先程の人形と違って全身が鉄で出来ている様だ。


 先程の土人形よりは、ある程度の知性はあるように見える。


 しかし―――


 「それでも、僕の相手になるには十年遅い」


 所詮(しょせん)は人形。その程度の相手に(やぶ)れる程、この殺人鬼は甘くない。


 石英は鉄人形を一瞬でバラバラに切り裂いた。


 只斬った訳では無い。関節のパーツ毎にバラバラに分解したのだ。


 そして、最後に鉄人形の心臓部にある札を引き剥がし、ビリイッと破いた。


 「これでよしっ」


 「・・・・・・・・・」


 ルビはその光景に唖然としていた。そんな彼女に石英は話し掛ける。


 「時にルビ?聞きたい事があるんだが」


 「っ!?はいっ!!」


 身体をビクッと震わせ、慌てて返事をするルビに思わず石英は苦笑した。


 そして、改めて問い掛けた。


 「どうして此処まで徹底的にルビは閉じ込められているのか、教えてくれるかな?」


 「・・・・・・・・・それは」


 「大丈夫、僕はルビの味方だよ」


 その言葉に、ルビは強い衝撃を受けた。そして、何よりも理解出来なかった―――


 「・・・・・・・・・どうして」


 「?」


 「どうしてそんな優しい言葉を掛けてくれるの?私に同情したの?」


 石英は黙り込み、僅かに考え込む。しかし、すぐに溜息を吐いてそれに答えた。


 「・・・・・・僕が君に味方をするのは、君を救いたいと思ったからだよ。其処に理由なんて欠片も無いし、そんな物はいらない」


 「・・・・・・・・・」


 そうして、ルビはぽつぽつと話し始める。自身の秘密を。


 どうやら、ルビの一族は様々な病(病原菌)を封じて来た一族だったらしい。その病は既知の物から未知の物、果ては古代種(こだいしゅ)まで、膨大な数に及ぶ様だ。


 しかし、ある日その封印が何者かによって破られ、未曾有の大災害を引き起こす。


 解き放たれた病は世界人口の約半数近くを滅ぼし尽くした。


 それ等の病は最後、一人の人柱(ひとばしら)と言う名の少女の身体に封じられる事になる。


 生物災害(バイオハザード)の全ての責任を負わされた少女。それがルビである。


 しかし、其処で一つの問題が発生した。ルビには己の体内の病を自在に操る才能(ちから)があったのである。


 その才能を恐れた人々によって、少女は洞窟の最奥に封じ込められたという事らしい。


 それを聞いた石英は―――


 「ふーん」


 気の無い返事を返した。


 「ふーんって貴方、私が怖くないの?」


 ルビが呆然とした顔で問う。しかし、石英は何とも無いような顔で答えた。


 「いや、流石の僕でも病気は怖いよ?」


 「なら―――」


 「まあいいじゃん、別にどうでもさ。今は君を助けるかどうかだろう?」


 その言葉にルビはきょとんっとした。


 「助けて、くれるの?」


 「助けていらないのか?」


 「でも、私は」


 尚も躊躇うルビに石英は其処で初めてにやりと笑った。


 「助けて欲しいんだろう?だからあの時言ったんだよな?誰か助けてって」


 「っ、うん・・・」


 ルビは顔を赤くして頷いた。石英はナイフを構えると、ルビを縛っている鎖にそれを振るう。


 鎖は断ち切れ、ルビはバランスを崩す。


 それを石英は優しく抱き止めた。

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