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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
黄金―アルス・マグナ―
26/114

俺が琥珀だ

 ようやく、山賊達への説教が終わった―――


 山賊達は半ば、本気(マジ)で涙目になっている。大の大人(オッサン)が、ガチで・・・。


 その姿に、ルビは若干引いていた。引き攣った顔で苦笑している。


 一方、石英は山賊達を睨み付けながら問い掛けた。


 「で?お前達は此れからどうするつもりだ?」


 「は、はあっ・・・・・・俺達も行く当ての無い身ですので、何処かの山奥でひっそりと暮らそうと想っていますが・・・」


 そう言って、樹海を出る支度(したく)をする山賊頭と山賊達。石英は顎に手を当てて、少しだけ思考する仕種をすると、唐突に溜息を吐いた。


 「おい、お前達さえ良ければ、僕が働く場所を紹介しようか?」


 「っ!?本当ですか!?」


 思わず、石英に詰め寄る山賊頭。他の山賊達も目を見開いて驚いている。石英は少しだけ真剣な顔をすると山賊達を睨み付けた。


 「ただし、真面目(まじめ)に働く事が条件だ」


 そう言うと、山賊達は舞い上がって喜ぶ。その姿に、山賊頭は苦笑しながら石英に問い掛けた。


 「ところで、職場は何処です?」


 その問いに、舞い上がっていた山賊達も黙り込み、石英の方を見た。それに対し、石英は至って平然とそれを言った。


 「魔王城兵士」


 ピシィッッ―――


 空気が凍り付く音がした、様な気がした。しばしの静寂の後、樹海の中を山賊達の絶叫が轟いた。


 「「「はあっっ!!?」」」


 ・・・・・・・・・


 「おい、五月蠅(うるさ)いぞお前等」


 瞬間、不機嫌そうな声が樹海に響く。と同時に、とてつもなく重苦しい威圧感が一帯を覆う。あまりの重圧に、山賊達とルビは冷や汗をだらだらと流す。


 唯一人、平然としている石英が声のした方を向く。其処には、白衣をだらしなく着崩した鋭い目付きの青年が立っていた。この青年が、コハクだろうか?


 年の頃は石英と同じくらいだろうか?琥珀色の短髪と瞳、すらりと細身の体形で表情はむすっとかなり不機嫌そうだ。寝不足なのか、目元に(くま)が出来ている。


 青年の登場に、山賊達はかなり怯えている。


 「コ、コハクの旦那(だんな)・・・」


 「で、アンタ等誰?」


 その鋭い視線が、石英とルビに向く。如何(いか)にも不機嫌そうなその声にルビは一瞬たじろぐが、何とか勇気を振り絞って言った。


 「あの、貴方がドクターコハクですか?」


 「ああ、そうだ、俺が琥珀だ」


 ルビの問いに、琥珀はキッパリと答えた。その表情は本当に不機嫌そうで、それがどうしたとでも言わんばかりだ。


 「で、何?アンタ等・・・、患者(かんじゃ)?」


 その瞳は、患者以外は即刻帰れと告げている。・・・じろりと睨まれて、ルビは言葉に詰まる。


 しかし、それでも言わなきゃいけない。どうしても石英を救いたい。


 そう思い、何とか口を開く。


 「おっ、お願いします!どうか石英を救って下さい!!」


 何とか絞り出された言葉に、琥珀は石英の瞳を見る。数秒間じっと石英の瞳を見詰めた後、面倒そうに溜息を一つ吐いた。


 「中々面倒そうだな・・・。全力は尽くす、しかし治るかどうかなんて解らんぞ?」


 「それでもお願いします!!」


 ルビは必死に頭を下げる。琥珀はそれを心底面倒そうに見ていたが、やがて「やれやれ」と言ってまた溜息を吐いた。本当に面倒そうだ。


 「解ったよ、そいつを()れば良いんだろう?」


 「っ!?ありがとうございます!!」


 ルビはぱあっと顔を明るくし、頭を思いっ切り下げた。


 「来いよ、こっちだ」


 そう言い、琥珀は樹海の奥へと入って行った。石英とルビもそれに付いていく。


 残された山賊達はぽかんっと立ち尽くしている。山賊達は完全に取り残されていた。・・・憐れ。


 ・・・・・・・・・


 樹海の中を歩く事数時間、樹海奥深くに一軒のログハウスがあった。どうやら、この家が琥珀の住み処らしい。


 「入れよ」


 ログハウスのドアを開け、入って行く琥珀。石英とルビも、続いて中に入る。中は落ち着いた雰囲気に包まれていた。あまりごちゃごちゃしていない。


 「取り敢えず、二人とも座れ」


 琥珀は、石英とルビの二人に椅子に座るよう言った。石英とルビが椅子に座ると、琥珀も向かいの椅子に座る。


 机を挟んで、石英とルビが並んで座り、向かいの椅子に琥珀が座る感じだろうか。


 「さて、まずは石英、お前の勘違いを先に正しておこう・・・」


 「・・・?勘違い?」


 「そうだ、お前は勘違いをしている」


 いきなり勘違いを指摘され、石英は怪訝な顔をする。ルビもよく解っていない様で、首を傾げてきょとんっとしている。二人とも何を言われたのか、よく解っていない様だ。


 琥珀は溜息を吐き、言った。


 「石英、お前は心を失ってはいない。厳重に封じ込めているだけだ」


 「っ!?」


 石英は目を見開いて驚く。・・・対するルビは、思い当たる部分があった。


 竜女王の城で、石英が殺人衝動を暴走させた時の事―――


 石英はもう、人を殺したくはないと言った。もう人を殺したくないと、心の底から。


 あの言葉は決して上っ面だけの言葉なんかでは無い。石英の心からの本音だ。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ルビは膝の上で、ぎゅっと握り拳を作る。


 石英を救いたい。これ以上石英を苦しませたくない。石英には幸せになってもらいたい。


 果たして、これは自分の我が儘だろうか?ルビは思わず、顔を俯ける。


 その手にそっと、石英の手が添えられる。


 「・・・石英?」


 「大丈夫か?ルビ」


 その優しげな声に、ルビは涙ぐみそうになる。本当は自分の方が辛い筈なのに、どうしてそんなに優しいのか?


 そんなルビの頭を、石英は微笑みながら撫でた。ルビは更に泣きそうになる。


 ルビは知らない。石英が本当は何に苦しんでいるのか、石英の罪の意識をルビは何も知らない。


 そんな二人を神妙(しんみょう)な顔で見ていた琥珀は、ルビの方を向き言った。


 「ルビ、だったっけ?お前は少し外に出ていなさい」


 「えっ、何でですか!?」


 ルビは思わず反論する。


 こういう時こそ、ルビは石英の側に居たいのだ。石英の側から離れたくないのだ。


 しかし、琥珀は首を横に振る。


 「聞いてなかったか?俺は静かな方が好きなんだ。患者を診ている時に、他の誰かが居ると、俺が集中出来ないんだよ」


 ルビはぐっと黙り込む。


 しかし、実の所琥珀の言った事は半分(うそ)である。静かにしていれば、患者の側に誰が居ようと基本気にしないのである。


 只、今回は石英に少し気を使っただけだ。今回、石英は過去の己と向き合う事となる。故に、石英の苦しむ姿をせめてルビに見せない様にという配慮(はいりょ)だ。


 何だかんだ言っても、男は女に情けない姿は見せたくないのだ。


 その配慮に気付いたのか、石英はルビに笑顔を向けて言った。


 「ルビ、僕は大丈夫だから、少し外に出ててくれないかな」


 「石英・・・」


 ルビは悲しげな顔で、外へと出て行った。ルビが外へ出た後―――


 「ドクター、すまないな」


 「何の事かな?」


 石英は琥珀に礼を言う。しかし、後程ルビを外へ出した事を後悔する事態が発生する事を、この時石英も琥珀も知らなかった。


 そう、事態は既に動き出しているのだ。


 ・・・・・・・・・


 「では、そろそろ始めようか」


 石英が連れて来られたのは、椅子が二つ置いてあるだけの小さな部屋だった。石英と琥珀は互いに向かい合う形で座っている。


 「と、言っても・・・、こんな何も無い部屋でどうするつもりだ?」


 石英の問いに、琥珀は一つ溜息を吐き言った。


 「何も無い部屋で悪かったな。催眠術(さいみんじゅつ)を掛けるのに余計な物なんて要るか」


 「催眠術、ねぇ」


 石英は琥珀の言葉を反復した。琥珀はこくりと頷き、説明を続ける。


 「今からお前に催眠術を掛け、過去を再体験して貰う。お前はもう一度、過去を振り返ってトラウマを克服しろ」


 つまり、過去の再体験とは、過去の記憶(トラウマ)を思い出させる事で自分自身の想いと向き合わせ、心を整理させる催眠術らしい。


 過去の記憶へと回帰させる、逆行催眠と呼ばれる物だ。


 確かに荒療治(あらりょうじ)だが、これでもなかなか効果がある様だ。


 「では、始めるぞ?俺の目を見ろ」


 石英は琥珀の瞳を直視した。


 ドクンッ―――


 瞬間、意識がゆっくりと沈んでいく。恐らくは、魔眼の類なのだろう。眠りへと堕ちていく。


 ・・・意識が過去へと(さかのぼ)っていく。


 ・・・・・・・・・


 同時刻、"龍の心臓"―――


 魔王城、玉座の間にその男は来ていた。吸血種(ヴァンパイア)の長、ネリアである。


 サファイヤは悠然(ゆうぜん)と玉座に座り、問い掛ける。


 「何か用かな?ネリア」


 「緊急事態が起こりました。石英君達は今、何処に居ますか?」


 対するネリアはかなり焦っている。事態の重さを一瞬で察したサファイヤは一転、真剣な顔でネリアに問い掛ける。


 「何かあったの?」


 「単刀直入に言います。アルカディアが動き始めました」

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