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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
黄金―アルス・マグナ―
25/114

お前達は馬鹿なのか?

 封魔(ほうま)の山・樹海―――


 "龍の瞳"の南東に(そび)える神山、そしてその周りに広がる樹海である。星の魔力に満ちた魔の樹海。


 樹海に満ちた魔力は心身を安らかにさせる効果があり、遥か昔から聖地として崇められてきた。


 しかし、最近は山賊の根城になっており、森の中に入れず人々は困っているのだとか・・・。


 その樹海に石英とルビは居た。周りには二十人前後の男達が取り囲んでいる。


 男達の顔には、笑みが張り付いている。ルビはびくびくと怯え、石英は心底面倒そうな顔で男達を観察している。


 男達はそれぞれ武器の様な物を持っている。友好的では無いのは明らかだ。その表情から、既に勝利を確信しているのだろう。何せ、数の上では圧倒的に有利なのだから当然だ。


 どうしてこうなったのか?石英は小さく溜息を吐いた。


 ・・・・・・・・・


 話は戻って今朝の08:25頃―――


 "龍の瞳"のとある安宿で朝食を()っていた石英とルビに、一人の男が訪ねてきた。オールバックの金髪にカイゼル髭の老人、昨日の酒場のマスターだ。


 「昨日のマスターか。何か用か?」


 「その前にまずは自己紹介を、私は酒場"龍爪(りゅうそう)"のマスター、サードニクスといいます」


 「石英だ」


 「ルビです」


 酒場のマスター、サードニクスが自己紹介をすると、石英とルビも軽く頭を下げて自己紹介した。


 石英は抹茶の様な味の飲み物を一口飲む。無色透明なこの飲み物、とある薬草を(せん)じた物で、二ライカナイでは一般的に飲まれている飲み物らしい。


 見た目は無色のお湯なのに、味は抹茶。中々面白い。


 話が逸れた―――


 「で、こんな朝から僕達に何の用だ?マスター?」


 抹茶モドキを(すす)りながら問う石英に、サードニクスは軽く苦笑しつつ答えた。


 「ああ、実は君に頼みたい事があってね。君達、封魔の山の樹海に行くんだろう?なら、其処を根城に暴れ回っている山賊達を、樹海から追い出して欲しいんだよ」


 頭を下げて頼み込むサードニクス。しかし、石英は今の言葉に疑問を覚えた。


 「ちょっと待て、何故僕達が樹海へ行く事を知っている?」


 「ああ、まあ此処は情報都市だからね。その中央広場であれだけ騒げば一瞬で情報が広まるよ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 どうやら、あの場所で騒動を起こしたのがまずかったらしい。既に石英の事はこの"龍の瞳"で知れ渡っているだろう。石英は心底面倒そうな顔をする。


 そして、何人もの男達をあっさりと撃退したその腕前から、山賊達も撃退してくれる事を期待しているのだろう。


 「何て人任せな」


 「まあ、そう言わずに頼むよ」


 うんざりとした顔で溜息を吐く石英に、サードニクスは再び頭を下げる。それでも、石英はあまり乗り気では無い様だった。


 「石英・・・」


 くいっとルビが石英の服の裾を摑む。その顔は、自分でもどうすれば良いのか解らない感じだ。


 恐らくはサードニクスの頼みを何とかしたいけど、同時に石英を心配してもいるのだろう。


 「・・・はぁっ」


 石英は再び溜息を吐く。


 ・・・何故、こんなにも面倒事ばかり増えるのだろう。そう、石英は軽く憂鬱(ゆううつ)に思った。


 ・・・・・・・・・


 ―――10:32―――


 石英とルビは、樹海の中を歩いていた。森の中は澄んだ空気に木々や植物特有の香り、そして心を安らかにさせる何かを感じた。


 これが樹海の魔力だろうか?


 以前、石英がこの世界に来たばかりのあの始まりの森とは別の、神聖さを感じる。聖地として崇められるのも解る気がする。


 「・・・・・・・・・」


 しかし、石英は樹海に入った時から複数の視線を感じていた―――


 まるで、獲物を狙う獣の様な視線。ルビもそれに気付いているのか、ビクビクと怯えている。


 数分後、懐から投擲用(とうてきよう)のナイフを取り出し、「はぁっ」と溜息を吐いた後―――


 ルビの方に向けて投げた。


 「えっ?」


 ルビの呆けた声。飛び散る血。


 ―――ナイフは、ルビの背後から近付いていた男の左肩に刺さった。


 「ぐあっ!!」


 男は肩を押さえて、崩れ落ちる。驚いたルビは、慌てて男から離れる。


 直後、石英とルビの周りを囲む様に、木の陰から男達が現れた。その手にはナイフや鉈など、様々な武器を持っている。ナイフや鉈はともかく、(ひも)はどうかと思う。


 「へっへっへっ、大人しくその女と金目の物を置いて行きな」


 「そうすれば、命だけは助けてやるよ!」


 何ともありがちな台詞(せりふ)を言ってきた。


 石英は黙ってルビを抱き寄せる。突然抱き寄せられたルビは、顔を真っ赤にして縮こまった。


 これが返答だと言わんばかりに、石英は山賊達を睨み付ける。


 「はっ!そうかよ、ならばお望み通り殺してやるよっ!!」


 そう言って、一斉に襲い掛かってくる。しかし―――


 瞬間、山賊達全員がまるで凍り付いた様に、ぴたりと止まった。


 よく見ると、鋼線(ワイヤー)が張り巡らされて山賊達の身体に絡まっていた。


 「お前達は馬鹿なのか?何の準備も無く、山賊の居る森に入る訳も無いだろう?」


 「ぐっ!」


 山賊達は鋼線から何とか脱しようと身体に力を入れるが、逆に血が(にじ)み出るだけだ。


 石英はそれを無感情な目で見ている。


 「如何する?この森から出て行って、二度と悪さをしないと(ちか)うか?」


 「ぐっ、誰がお前なんかに―――」


 「あっそ」


 石英は溜息と共に、鋼線をクイッと引っ張った。それだけで鋼線は更に強く締まり、山賊達の身体から血が噴き出した。


 「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ」」」


 樹海の中を、山賊達の悲鳴が響き渡る。


 「五月蠅(うるさ)い。で、どうするの?誓うの?誓わないの?」


 「「「ごめんなさい!誓いますので、許して下さい!!」」」


 殺気の籠った声に山賊達はあっさりと許しを乞う。石英は山賊達をじとっとした目で見詰めた後、張り巡らせていた鋼線を(ゆる)めて回収した。


 山賊達は自分の身体が自由になった事を確認すると、石英をじろりと睨み―――


 「「「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」」


 石英は溜息を吐き、短刀を握る。そして―――


 「お前も、いい加減にしろっ!!」


 またもやルビの背後から近付いていた男の、今度は右肩に投擲用(とうてきよう)ナイフを投げつける。


 「ぎゃあっ!?」


 二度もナイフを喰らった男は地に沈んだ。


 ナイフを投げた隙を突いて、男の一人が鉈で切り掛かってくる。石英は、男の腹部に後ろ回し蹴りを喰らわせる。


 今度は左右からナイフを持った男達が挟み撃ちを仕掛けてくるが、その片方の男の腕に手を添え、相手の勢いを利用してもう片方の男に向けて投げ飛ばした。


 「ぐあっ!」


 「がはぁっ!」


 全方位を囲まれ、一斉に突っ込んで来るも、今度は全く認識出来ない内に全員が斬られる。


 こうして、ものの数秒で山賊達は全滅した。


 ルビは終始、呆然としていた。


 一時間後―――


 「「「ごめんなさいもうしませんから許してくださいっ!!!」」」


 山賊達は額を地面に付け、土下座した。


 「本当に反省しているんだろうな?」


 平身低頭(へいしんていとう)で謝る山賊達に、石英は仁王立ちで睨み付ける。その視線だけで虎も睨み殺せそうだ。


 それに対し、山賊の頭は若干涙目で額を地面に思いっ切りぶつける。その姿は、むしろ笑いを誘う物ですらある。


 「本当にごめんなさい!本当に反省しております!!」


 「「「すいませんでしたぁっ!!!」」」


 あまりにも無様。一人の少年に対し、大の男が何人も土下座している姿にルビは少しだけ引いた。


 石英の説教はそれから一時間も続いた。


 ・・・・・・・・・


 アルカディア・首都アルカス―――


 王城玉座の間。その奥の玉座に一人の青年が座していた。


 腰まで伸びた黄金色(おうごんいろ)の長髪に同色の瞳、すらりと引き締まった容姿は男女問わず目を引く程美しいのだろうが、目付きの鋭さと隙の無さは一目で只者ではないと解る。


 この男が、"星の騎士(アストラル)"リーダーであり、アルカディア現王である。


 その名は、タイガ=アルカス。


 「時は満ちた、今こそあの男に復讐(ふくしゅう)を果たす時」


 憤怒と憎悪に満ちた声で、そう言った。

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