さあて、往くか
けたたましい音が、王都に鳴り響いた。警鐘の音だ。その音に、石英とルビは覚醒する。
・・・・・・・・・
次の日の早朝、石英とルビの朝は警鐘の音から始まった。不機嫌そうに目を覚ますと、扉を勢いよく叩く音が聞こえる。どうやら、かなり切羽詰まっているらしい・・・
石英は至極不機嫌な顔で扉を開けると、其処には騎士の一人が慌てた様子で立っていた。かなり年若い容貌の騎士だ。恐らく、黒曜とそう大して歳も変わらないだろう。
「・・・何だ?」
「か、かなりの大軍が王都のすぐ前まで迫っていますっ!し、至急救援をっ‼」
「・・・・・・ああ、理解した。すぐ行く」
そっと溜息を吐くと、石英は身支度をすぐに済ませた。ルビが心配そうな瞳で見ている。
そんなルビに、そっと笑みを向ける。大丈夫だという意思表示だ。その笑みに、彼女は静かに微笑みを浮かべて返した。どうやら、意図は伝わったらしい。
「さあて、往くか」
そう言うと、石英の姿が一瞬で消えた。空間転移の術で移動したのだ。静かにそれを見送ると、ルビは顔を両手で覆い泣いた・・・
やはり、例えどんな理由があろうとも石英が戦場に立つのは彼女にとって悲しい事なのだろう。ルビは静かに部屋で泣いていた。彼女のその姿を知る者は一人も居ない。
・・・・・・・・・
一方、王都の門前・・・金獅子の大門。
王都の門前に転移した石英。その目の前には、やはりと言おうかかなりの大軍勢が居た。コガネの用意した軍勢である。その数、軽く五万近くは居るだろうか?
その軍勢を相手に石英はぽきりと指を鳴らした。その姿を確認したか、敵軍の一人が何かを叫ぶ。
石英の背後に、一人の騎士が駆け寄った。老練の騎士だ。恐らく、かなりの実力者だろう。歳を感じさせない眼光鋭い姿で傍に立つ。
「すぐに軍を準備いたします故、もう少しだけ敵の進行を食い止めて頂きたく・・・」
「いや、その必要はもう無い」
「何と?」
石英の言葉に、老騎士は訝しげな表情をする。しかし、事実その必要性は何処にも無い。
その瞬間、敵軍は一気に吹き飛んだ。比喩では無い。五万にも及ぶだろう敵の大軍勢が、一瞬で盛大に吹き飛んだのである。その姿はまるで、突風の前の塵のようだ。
敵の軍勢は、恐らく一人一人が訓練を積まれた兵士なのだろう。それが、容易く吹き飛んだ。
その姿に、老騎士は呆然と目を見開く・・・
かつて、魔王サファイヤがラピスの軍勢を相手にやった事と同じだ。要は、過程を省略して勝利の結果を出したのである。因果のショートカットだ。
「・・・・・・な、あっ」
「残るは、敵将只一人だな・・・」
その一言に老騎士も気付く。まだ、敵将が残っている事を・・・
目の前に、石英を忌々しげに見る一人の騎士の姿が居た。敵将のコガネだ。




