石英と同じ、転移者だよ
「・・・・・・つまり、どういう事だ?」
石英は怪訝な顔をして問い返す。対するサファイヤは至極眠そうな目を擦りながら、答えた。
「つまり、ですね?王国アルカディアで内乱が起きたのです・・・。事実上、アルカディアは二つの勢力に内部分裂しました・・・ふぁっ」
欠伸を噛み殺しながら、サファイヤが告げる。しかし、かなり眠そうである。恐らく、昨夜は一睡もしていないのだろうと思われる。石英は静かに溜息を吐いた。
しかし、内乱か・・・。石英は顎に手を当てて考え込む。分裂というからには、恐らくその内乱はかなりの規模なのだろう。それこそ、文字通り王国を二分する程の規模だろう。
「で?その内乱の首謀者は?誰か解っているから僕を呼んだんだろう?」
「うん・・・。その首謀者は威狩コガネ。石英と同じ、転移者だよ・・・」
転移者という言葉にふむと頷き、再び考え込む。転移者、つまりは石英と同じく別の世界から来た来訪者という事になるか?それも、石英と同じという事は恐らくは同じ地球の出身者だろう。
・・・と、いう事はだ。それこそが、石英を呼んだ理由なのだろうか。
石英はサファイヤに問い掛けてみる。
「それで、僕に内乱を収めてほしいと?」
「うん・・・。正直、気は進まないだろう・・・けど、よろしく頼んだ・・・よ・・・zzz」
そして、そのままサファイヤは眠ってしまった。それはもう、熟睡である。
これは・・・。よほど眠かったのだろう。ぐっすりと安らかな寝息を立てて眠っていた。
そして、石英はというと・・・
「・・・・・・・・・・・・うわぁっ、めんどくせえ」
心底面倒臭そうな顔をしていた。それはそうだ。
・・・・・・・・・
そして、家に一度帰った石英はルビ達に状況を報告する。皆、事態を重々しく受け止めていた。
特に、ルビは顔を蒼褪めさせている。まあ、それもそうだろう。かつて、ルビは王国で酷い仕打ちを受けてきたのである。死神と呼ばれ、洞窟に封印されていた。
恐らく、その事を未だに忘れられないのだろう。
そして黒曜は不安そうな表情で、けど石英の顔を真っ直ぐと見て問い掛けてきた。
「それで、父さんは行くの?」
「うん、まあ仕方ないだろう?」
石英は諦めたように、そっと溜息混じりに言った。
仕方ない。そう、仕方ないのである。内乱が起きた以上、それを早急に鎮めなければどうなるか解らないだろうと石英は考えている。それ故、面倒臭くとも行かねばならない。
黒曜は黙り込む。深く考え込んで、やがて諦めたように溜息を吐いた。
・・・一方、ルビは。
「石英・・・」
「うん?何だ?一緒に行きたいというなら止めた方が良いぞ?」
「・・・あうっ」
ルビは勢いをくじかれて僅かに唸った。その様子を見て、石英は僅かに溜息を吐いた。
いや、何故連れて行って貰えると思ったのだろうか?
「あのな?ルビ———」
「でもっ、でも・・・私も行かなきゃ、何時まで経っても・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
石英は黙り込んだ。ルビの言いたい事は、正直解る。恐らく、ルビは王国に行って自分も以前の確執を乗り越えようとしているのだろう。ルビも、前に進みたいのだ。
しばらく見詰め合う、ルビと石英。やがて、石英は溜息を一つ落とした。
「はぁっ、解ったよ。ただし、無理そうならすぐに帰すからな?」
「っ、うん‼ありがとうっ‼」
ルビは弾けるような笑顔を浮かべた。対する石英は、そっと溜息を吐いた。
———全く、甘い事だな。




