お前達も異世界へ来い
「話が纏まった所悪いが、後は署で聞こうか?」
そう言って、ペリドットとホタルの二人が手錠を握り締め近付いてくる。一瞬で警戒する青年。そんな青年を守ろうと前に立つアリア・・・。場の空気は緊張している。
そんな状況下で、石英はゆっくりと四人の間に割って入る。警察二人は鋭く石英を睨み付ける。アリアと青年は愕然と目を見開いた。そんな中、石英は警察に向けて告げる。
「残念ながら、この二人は僕が預かろう。異論は認めない」
「お前も、署まで同行して欲しい物だが?殺人鬼?」
そう言って、尚も距離を詰める警察二人。そんな状況下で、石英は不敵に笑った。
この状況下で笑う意味が理解出来ないのか、警察二人は怪訝な顔をした。しかし、次の瞬間何かに気付いたように表情を変えた。そう、石英は未知の力を行使出来るのだ。
しかし、気付いた時にはもう遅い。
「っ、しまった!!!早く確保しろっ!!!」
「はっ、もう遅い!!!」
次の瞬間、石英、ルビ、黒曜、スイショウ、アリア、青年の六名が一瞬で姿を消した。その光景に警察二名は呆然と立ち尽くした。余りにあっけない。まるで、最初から誰も居なかったかのようだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
二人は、しばらく呆然とその場に立ち尽くすのみだった。そして、その後断頭の死神と赤い青年による連続殺人事件はそのまま終息を迎えた。二度と、この世界にその二名が現れる事は無かった。
そう、もう二度と・・・
・・・・・・・・・
・・・何処とも知れない、純白の空間。其処に、石英達六名が居た。
何処までも無限に続くような、広大な世界。純白の世界。其処に、何時の間にか立っていた。
この光景に、アリアと青年は混乱しているようだ。まあ、当然だろう。何処か解らない場所に、いきなり転移したのだから。この反応は至極当然の反応だろう。
むしろ、この状況下で全く無反応な他四名がおかしいのだ。
「っ、こ・・・此処は何処だっ!!!」
「此処は次元の狭間。つまり、世界と世界を繋ぐ境界だよ」
此処は次元の狭間。世界と世界の境界線だ。故に、此処は何処でも無いし何処でもある。もはやそうとしか言えないような、至極曖昧な場所だ。無の世界、或いは無の次元とも呼ぶ。
そして、そんな世界にいきなり放り込まれた青年は当然、石英を睨み付ける。
「こんな場所に放り込んで、お前はどうするつもりだ?」
「別にどうも?只、お前を異世界に招待しようと思ってな」
「・・・・・・異世界に?」
青年は、怪訝な表情で石英を睨む。アリアは、黙って石英の話を聞いている。そんな彼らに、石英は掌を静かに差し出して告げた・・・
「お前も、お前達も異世界に来い」
「・・・・・・っ」
その何処までも真っ直ぐな眼差し。それに射抜かれた青年は、何も答えられない。じっと身動きすら取れずに言葉に詰まる。それでも、石英は掌を差し出したまま動かない。
何も答える事も出来ない青年。そんな青年の手をそっと握る手が一つ。その暖かい温もりに、青年は思わず顔を上げる。其処には、優しい表情の女が一人・・・
アリアだ・・・
「大丈夫。貴方はもう、大丈夫です・・・。きっと貴方は何処にでも行ける筈・・・」
「アリア・・・」
「私も、貴方に付いていますから。だから、貴方ももうこれ以上悩まないで・・・」
貴方はもう、これ以上悩む必要は無いのですから・・・
そう言って、アリアは青年に微笑み掛ける。そんな何処までも裏の無い笑みに、青年は心の底から救われた気がしたのだった。だから、気付いたら青年はそんなアリアの前で涙を流していた。
そんな青年を、アリアはそっと抱き締める。その抱擁は、何処までも人の温もりに満ちていた。
アリアの優しさに、青年は救われた気がした。
「ルベライト・・・」
「はい?」
「俺の名前はルベライトだ。アリアも、そう呼んでくれ」
「はい、解りました。ルベライト」
その時のアリアの笑みは、とても眩しくて花が咲くようだった。




