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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
殺人鬼少年異世界道中
10/114

別の世界へ

 これは千年前の話―――


 とある村に、コランと言う名の少女が住んでいた。コランは母と二人暮らしで、父は居なかった。


 噂によれば、コランは(ミカド)と悪魔と人間の間に生まれた混血児だと言う。


 はっきり言って胡散臭い話だと思う。しかし、彼女にはそれを信じさせるだけの力があった。


 異能の(たぐい)では無く、力技で何でも出来てしまうその少女を、人々は恐れた。


 少女はそんな人々からの畏怖(いふ)の念に晒される事に、次第に疲れ果てていった。


 そして、少女(コラン)はついに行動を起こす。世界の境界を無理矢理こじ開け、異世界へと渡ったのだ。


 (此処じゃない、何処か別の世界へ―――)


 其処は、無数の巨大な建物が建ち並ぶ都市だった。


 何もかもが未知の異世界の光景に、コランは思わず息を呑んだ。しかし、次の瞬間コランを虚脱感が襲った。


 世界の門を無理矢理開いた事により、体力(エネルギー)をごっそりと持って行かれた彼女は、その場に倒れ込んだ。


 コランが次に目覚めたのは、病院のベッドの上だった。


 「此処は―――」


 「目覚めたか?」


 ベッドの横には一人の少年が居た。少年は椅子に座り、一冊の本を読んでいる。


 「貴方は誰?」


 「僕?僕は石英だよ」


 石英と名乗ったその少年は本から目を離し、コランの方を向いた。その瞳は闇より尚暗く、その表情は能面の様であった。


 その顔に、コランはどきりとする。


 (何?どうしてこんな空虚な瞳が出来るの?・・・でも―――)


 コランはその瞳を何処か寂しそうだと思った。


 もしくは、彼女は石英の心に残った悲しみを理解したのかもしれない。


 「君は?」


 「え?」


 「いや、君の名前だよ」


 「え、あっ、コラン・・・私の名前はコランだよ」


 コランは何とか自分の名前を名乗る。石英は一つ頷くと、次の質問をした。


 「ふむ、コランね。じゃあコラン、君の家は何処だ?」


 「それは・・・」


 コランは言葉を濁す。彼女は異世界から来たのだ。


 当然、この世界の何処にも家など無い。


 「あの、えっと・・・私、家を飛び出して来て・・・」


 「ふむ・・・」


 石英はコランの瞳をじっと見る。コランも真っ直ぐに石英を見詰め返すが、耐え切れずにすぐに視線を逸らす。


 石英は少しの間考え込むと、何気ない口調で言った。


 「じゃあ、僕の家に住むか?」


 「え?」


 コランは呆気に取られた顔をする。石英は何かに気が付いた様に付け加えた。


 「ああ、勘違いしないで欲しい。別にやましい気持ちは無いよ」


 「じゃあ・・・、何で?」


 コランはこてんっと、可愛らしく首を傾げた。石英は其処でふっと笑みを浮かべる。何とも無感情な笑みだ。


 「一言で言えば君の事が気に入ったから、かな」


 「私の、事が?」


 「ああ。で、どうする?一緒に住むか?」


 石英は真っ直ぐに手を差し伸べて言う。コランは少しだけ考える仕種(しぐさ)をして、少しだけ迷った後その手を取った。


 それから、石英とコランは一緒に暮らす様になった。少年と少女の二人暮らしを周囲の人間は反対したが、その反対を押し切り、色々と説得した。


 まあ、半分以上は脅しが混ざっていたが・・・。例えば、ソイツ等が過去に行った不正とか悪事とかを全部徹底的に調べ上げてバラすぞと脅した訳だ。



 まあ、実際調べてみれば色々と、それこそばれたらマズイ事実が明らかになったのだが。


 賄賂(わいろ)とか・・・横領(おうりょう)とか・・・。


 結果、石英はコランの身元を引き取り、ほぼ一年近くを共に過ごす事になる。


 その間、コランは石英からいろいろと学んだ。例えば、感情のコントロール法などだ。


 石英はコランに、如何に自分を受け入れ自分と向き合うか、その方法を教えたのだ。


 そうしている内にコランは石英に好意を抱く様になる。そして、石英もその好意に気付いていた。


 こんな日々が何時までも続けば良いと思っていた。


 こんな日々が何時までも続いて欲しいと願っていた。


 しかし、それも永くは続かなかった。


 ある日、石英が家を出ている間の事―――


 「ようやく見付けたぞ、コラン」


 「だっ、誰?」


 突然目の前に現れた少年とも、青年とも、老人とも見える男。


 その男はコランの前に立つと、そっと抱き締めて来た。


 「!!?」


 「ようやく会えた、我が娘。僕の名はミカド、コランの父親だ」


 ミカド―――その神名にコランは愕然とする。


 「っ!?じゃあ、あの噂は本当だったの!?」


 あの噂―――


 コランは神と悪魔と人の間に生まれた混血児(ハイブリッド)だと。


 その問いに対し、ミカドはこくりと頷いた。


 「ああ、コランは僕と母親のパール、そしてこの世界出身の悪魔であるメフィストフェレスの間に生まれた混血児だ」


 パールとは、コランの母親の名前だ。


 話を聞くとどうやらある時、メフィストフェレスと言う悪魔が"神の方舟"に迷い込み、其処でミカドとパールに出会った様だ。


 そして、人間であるパールを同時に見初めた神と悪魔はその場で大喧嘩、それをパールが止めた事で関係が始まったと言う。


 話を聞き終わった後、コランは何かを警戒する様に問う。


 「私の出生については解ったけど、じゃあその神様(おとうさん)が私に何の用?」


 それを聞いた瞬間、ミカドの目が真剣な物に変わる。その目付きの鋭さに、コランは思わず身を竦ませる。


 「お前はこの世界に居るべきじゃない。今すぐ元の世界に帰るんだ」


 「いっ、嫌だ!!」


 コランは悲痛な顔で拒絶する。しかし、ミカドはそれを許さない。


 黙って首を横に振る。


 「コランの気持ちも解る。お前はあの世界で何時も異端扱いされていた。それに、恐らくこの世界で良い出会いもあったんだろう」


 「なら―――」


 「けど、お前はこの世界では本当の異端者(イレギュラー)だ。この世界の人々に、お前の出会った大切な人にも迷惑を掛ける事になるぞ」


 コランは悲しげな顔で黙り込む。コランの頭の中には、石英と過ごした楽しかった日々が鮮明に浮かんでいた。


 石英と別れたくない。


 けど、石英に迷惑を掛けるのはもっと嫌だ。


 暫く考え込んだ結果、コランは―――


 「解った、帰る」


 元の世界へと帰る事にした。


 ・・・・・・・・・


 「そうして私は元の世界に帰って、その後魔王(サファイヤ)として一国を造ったんだよ」


 魔王の城、謁見の間にてサファイヤは石英とルビの二人と話をしていた。


 しかし―――


 「ううっ、ぐすっ」


 「もう泣くなよ」


 ルビは未だに泣き止まず、そんな彼女を石英は慰めていた。


 「いや、本当にごめんって。別に石英の事を盗ったりしないからさ。ほら、泣き止んで」


 「ぐすっ、うん」


 まだしゃくりあげて泣いてはいるが、ルビは何とかサファイヤを許す事にした様だ。


 石英とサファイヤは一先ずほっとする。そして、石英は顔を引き締め直すとサファイヤの方を向き問い掛けた。


 「なあ、コラン。コランは僕と出合ったのは千年程前だって言ったが、僕がコランと出合ったのは三年前の事なんだが?」


 「えっ?」


 サファイヤと石英の話の食い違いに、ルビは首を傾げる。出会った時間が合わないのだ。


 それを、サファイヤはなるべく解りやすいように噛み砕いて説明した。


 「ああ、それはこの世界と石英の居た世界が別の時間軸に存在しているからだよ」


 「・・・・・・・・・そういう事か」


 石英は一人納得した。


 しかし、ルビは納得できずに混乱する。


 「えっ、あれ?どういう事?」


 「つまり、世界が違えば時間の流れも違うと言う事だ」


 詳しく言うと、数多の世界は様々な可能性という名の時間軸、次元が交差し合う事で出来ている。


 要は、可能性の数だけ宇宙(せかい)は分岐するという事だ。


 これを人は多元宇宙(たげんうちゅう)と呼ぶ。


 ルビは解った様な解らない様な、そんな難しい顔をしている。・・・どうやら難しすぎた様だ。


 「ところでコラン、少し頼みがあるんだが」


 石英がそう言うと、サファイヤがコクリと頷いた。


 「うん、解ってる。私も石英と一緒に居られればそれで良いよ。石英とルビの事、匿ってあげる」


 サファイヤは、花が咲く様な笑顔で了承した。その時―――


 「サファイヤ様!緊急事態です!!」


 謁見の間に突然、ムーンが現れる。その顔は焦燥(しょうそう)に彩られている。


 サファイヤの顔が一瞬で引き締まる。


 「どうしたの?」


 「境界の山脈、星央神殿が陥落!山の民の長老と護衛の戦士、計二名がサファイヤ様に面会を求めています!!」


 「っ!?今すぐ通せ!!」


 その言葉と共に、謁見の間に山の民二名が現れる。ウレキとシディアだ。


 シディアは石英の姿を見付けると、その胸元にがばっと飛び付いてきた。石英は慌ててシディアを受け止める。


 そして、シディアの口から衝撃的な言葉が出て来た。


 「山が、山がアルカディアに襲撃されました・・・」

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