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原発作業員達の葛藤

それと同時に政府は、原子力発電所からの電力供給が断たれたことによる代替電力の確保もしなければならなかった。火力水力双方の発電量を増やし、点検中の火力発電所急遽運転させるように指示をした。パニックに陥りつつも可能な対策は講じようとはしていたのだった。


しかしそれを嘲笑うかのように原子炉の暴走は止まらなかった。


防護服に身を包んだ獅子倉修一郎ししくらしゅういちろうが手動でハンドルを回し、制御棒を挿入していく。だがさすがに手動では遅々として進まなかった。普段なら決してやらない運動量に既に体は悲鳴を上げ始めていた。風を通さない防護服の中は汗にまみれ湿度が上がり、バイザーが曇って視界が悪くなる。だが獅子倉修一郎は懸命に作業を続けた。娘や妻の顔を思い浮かべ、一心にハンドルを回した。


だがこの時、獅子倉修一郎の防護服に付けられた線量計は、許容被ばく量を大きく上回っていた。とは言え、それは平時に設けられた理論上許容される数値よりはるかに厳しく設定されたものだったので、すぐに身体に影響が出るレベルではなかった。が、さりとてこのまま浴び続ければ何らかの影響が出ないという保証もなかった。


『逃げたい…、ちくしょう…!』


心の中では今すぐ投げ出してこの場から逃げ出したいとも思った。なまじ知識があるだけに、少々放射性物質が撒き散らされようと、線量が十分に低ければ不健康な生活よりも実はリスクが低いということが分かってしまっていて、それ故、このまま抑えることが出来ずに最悪の事態に至ってしまっても娘と妻を連れてとにかく線量の低いところに逃げた上で健康的な生活を心がければそんなに心配する必要がないのだからもうそちらでもいいんじゃないかって思ってしまいそうになる自分自身を『何を考えてるんだ!、自分達がここを投げ出してどうするんだ!』と自らを叱責し、折れそうになる心を奮い立たせた。


とにかく、まるでナメクジが這うようなペースでも、続けていればいつかは終わる。それを言い聞かせて作業を続けた。それでもやはり心の中では、


『ちくしょう…、ちくしょう…、なんでこんなことに…!』


と何度も何度も繰り返していた。人間ならばそう思っても仕方ないだろう。それをすさまじい精神力で抑えつけ、自分の役目を果たそうとしてたのだ。精神論や根性論では物理の壁は越えられないが、そこまで行かない範囲であれば、効果もあるということだった。作業に当たっていた作業員の多くが、そのようにして、逃げ出したい投げ出したいと考えてしまいそうになる自分に抗っていたのだった。


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