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心の距離と、人の距離

作者: さなぎ

 時刻は夜の11時を過ぎようかという頃のことだった。私は一人、静かに読書に勤しみながら電車に揺られていた。そんな時、コミカルな電子音が、電車内の空気をぶち壊した。


 電車の中ではお静かにという暗黙の了解――私はそう思ってるけど、実際のところどうなんだろう?――を破った不届き者を探すように、乗客の眼が左右に走る。


 私も釣られるようにして、音の発生源を探す。音楽はワンサビを終えて、再び繰り返される。ようやくそこで、騒音の居場所が分かった。それは私のものすごい近くで鳴っていて、自ずと皆の視線がそこに集まる。そう、私の鞄に、だ。


 さっきまで、どこの誰が? とか宣っていた私。灯台下暗しってよく言うじゃないですか―、なんて呑気なことを言う気も起きず。周囲からの、早く消せよ、と言っている視線がバシバシ私に刺さる。そさくさと、鞄からうるさいスマフォを出して、発信相手を見てみた。


 表示されていた名前は、高校からの友人の名前。ここ最近連絡を取っていなかったのに、いきなりどうしたんだろう? もちろん出るわけにはいかないので、切ってから後でかけ直す事を伝える。可愛らしい絵文字と一緒に、了解の二文字が送られてくる。


 それにしても、何の用だったんだろう。気にはなるものの、後で連絡した時にでも聞けばいいや。ふぅ、と一息ついて、電車の背もたれに深く腰掛ける。なにか、一つの山場を超えた気分だ。


 そういえば、とLINEの履歴を遡る。しばらくスクロールしていると、ようやく目当ての相手を見つけることが出来た。


 アイコンも名前も、最後に見た時と変わっていない。最後に交わされたやり取りは、私からの質問で終わっていた。


『何の用?』


 シンプルな言葉に、返信はされずに放置されたまま、一年が経過しようとしていた。就職活動やら何やらで忙しなかったので、すっかりと忘れていた。


 タップしてみると、それまでの会話がズラッと表示される。くだらなくて、一貫性のないやり取りがそこでは交わされていた。そして、一番新しいところには、相手からの二度にも渡る不在着信と、私のそっけないとも取られる返信。


 今となっては真相は闇の中。……気になってきたけど、どうしようか。懐かしい友人の電話で、少し昔のことを思い出してしまった。


 よく、世間では今は便利な時代だとか言われている。電話とかメールとかもそれの一つで、自分が思ったことをすぐに相手に伝えることが出来るようになった。けれど、本当に伝えたいことは、直接伝えないと。メールとか電話とかで、距離の都合はなくなったけれど、心の距離は今も昔も変わらないのだから。


 ……謎ポエムすぎる。アイタタタ、と自分の考えを頭をブンブン振って追い出す。横のおじさまに咳払いをされた。じっとしていよう。まぁ、要するにそう何度も電話をかけてくるくらい大事なことなら、直接言いやがれってことだ。


 アナウンスが、ようやく私の地元の駅を告げる。よいしょっと立ち上がって、出口の前に立つ。電車はどんどん減速していって、止まる。


「あっ」


 どちらが先に声を出したのだろうか。目の前に、一年間返信をすっぽかし野郎が立っていた。ぷしゅーと扉が開いて、私は敢えてスルーしてみる。そう、敢えて私からははないかけないでおこう、そう思ったのだ。


 もし、大事なことなら向こうから話しかけてくるはずだろう、そんな期待を込めて、私は後ろから追いすがるような声に笑みをこぼした。

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