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おまけ

要視点です。

「山田、って何」

「……っ」


 きっと知らない。澄香は。

 俺がこれを聞くのにどれだけ勇気を振り絞ったのかなんて。


「何って、なんで、山田君のこと……」

「母さんと夕飯作ってる時、話してるの聞いた」


 ぎゅっと強く胸の辺りを掴んでこちらを見てくる澄香を見返す。どんな表情の変化だって見逃す気はない。


「やっぱり……。聞かれてたなんて……」

「安心してよ。聞こえたの途中からというか最後くらいだけだし声が遠くて全部は聞こえなかったから」


 母親が居なくなった時以上の衝撃はないのか普段大抵の事には動じない澄香が、あからさまにほっとした様子を見せた事に目を眇める。


「おそらく、澄香に誰か好きな奴がいて、告白でもしようとしてたのは分かったけど」

「……っ!!」

「……へえ。図星みたいだね。その、山田って奴が相手?」


 威圧的になっていたのは分かっていたけど、苛立ちを止められなかった。母さんと他の男の事を話しているのを聞いた時の怒りと焦りもない交ぜになって言い放った言葉は、自分でも最低だった。


「やめときなよ。澄なんて相手する物好き、居る訳ないでしょ」


 ああ、まただ。絶対後悔するのにいつまでたっても治らない。

 俺は昔から、澄香に対してだけは素直になれない。

 初めて澄香が1人で作った夕食がすごく美味しかったのに、しょっぱいとか何とか言って文句つけた。

 同級生が興奮して見せてくる巨乳アイドルのグラビアなんて何とも思わなかったけど、浴衣を着て髪を綺麗に結い上げた澄香の白いうなじに目が釘付けになった。なのに浴衣なんて似合わないと言って傷付けた。

 同じ高校に行くのか聞かれて、敢えて離れた所選んだ。すっきりしたはずなのに、家以外で会わなくなって、他の学校で澄香がどうしてるのか、他の男からどう見られてるのか気になって仕方なくなった。

 振り払いたくて告白されるまま彼女作ったけど、澄香に似てる所を探す自分に気付いて別れた。

 さっき家に居た澄香にきつい言い方で追い出したのだって、本当はもっともっとやんわり誘導するはずだった。

 早く澄香に家に帰って貰って、こうして二人だけで話がしたいだけだった。


「山田君を物好きなんて言い方しないで。そんな事言う為にわざわざ来たの?」


 目を瞠った。

 今までどんな事言っても怒る事なんてなかった澄香が、静かに、だけど確実に怒りを顕わにしてる。


「……っ。そんなに、その山田ってヤツが好きなの?」

「な……?」


 何だよ、これ。

 すごい、胸が痛い。見えない鋭いナイフが何度も俺の心臓を突き立ててくる。

 思わず胸をぎゅっと掴む。

 苦しい。

 澄香とずっと一緒に居たのは俺なのに。

 悔しい。

 優しくしてやれない俺なんかより、そいつの方が良いってこと? 

 嫌だ。

 俺はこんなに痛いくらい……澄香の事が好きなのに。


「……私が好きなのは、要だよ」

「…………は?」


 嫌な事聞きたくなくて、耳が俺のいい様に働いてる?

 目もおかしくなってる。ついさっきまで怒っていたはずの澄香が、怒るどころか。潤んだ目でまっすぐ俺を見て顏を真っ赤に染めてるなんて。


「……気付いたのは今日なんだけど。山田君が気づかせてくれた。私、きっとずっと昔から、要の事が好きだよ」

「……」


 澄香から伝わるまっすぐな想いが、これが幻覚でも幻聴でもない事を教えてくれる。夢見心地なのは変わらないけど。


「……話聞かれてたなんて思わなかったから、どうしていいか分からなくなって心臓がおかしな事になったよ。でも良く考えたら、誰に告白するか幸恵母さんにも話してなかったから、焦る事なかったんだよね」


 心臓がおかしな事になってるのはこっちだよ。一生懸命言葉を紡ぐ澄香が可愛くて、暴れまくってる。


「要は、いつも仏頂面だし、憎まれ口ばっかりだったけど。文句言ってても私が作ったご飯、残さず綺麗に食べてくれるし、浴衣着て夏祭り行った時なんて、似合わないとか言っておいて、浴衣に合わせた簪くれたよね。すごく、嬉しかった」


 小遣いはたいた過去の俺、良くやった。


「高校離れてから、今頃何してるのかなっていつも考えてたよ。彼女ができた時は嫉妬した。幼馴染でさえいられなくなったらって無意識に気持ち閉じ込めちゃったけど。あの頃にはきっともうそれだけ、要の事好きになってた」


 嫉妬。澄香が、俺に? 思わず、顏がにやけそうになるのを意識して顏に力を入れてごまかす。


「要は、私が寂しい時、いつも傍に居てくれた。本当にありがとう。これからも、これからは、彼女として傍に居てもいい?」


 一度も目を逸らさずにまっすぐに想いを告げてくれた澄香が、耐えかねたようにぎゅっと目を瞑った。

 ふるえるまつげを見つめる。真っ赤な頬、今は強く結ばれた、ちょっとカサついた唇。

 かぶりつきたいのを必死に抑えて、ゆっくり澄香に近づいた。


「馬鹿じゃないの?」


 ……!!? 何、言った。何言ってんだ、俺! 馬鹿なのは俺だあああ!


「ご、ごめ、ん。そ、だよね……。ごめ、違、は、なし……聞いて、くれてありが、」

「ああもう!」


 一気に距離を詰めて、澄香をぎゅっと力いっぱい抱きしめた。


「かなめ……?」

「……っ」


 深く深呼吸して気持ちを落ち着ける。

 せっかく一生懸命気持ち伝えてくれた澄香に、応えたい。

 お願いだから。いつもの減らず口は黙ってて。   


「……決まってるでしょ」

「え?」

「澄香は俺だけ見ててよ」

「……! それって、ん」


 これが今の俺の精一杯の素直。

 言葉の代わりに気持ちが伝わるように、想いを込めてキスをした。

 いつかちゃんと、今度はもっと素直に。

 好きだよって、伝えたい。

 


読んで下さりありがとうございます。本来こちらが本編の後編でした。ツンデレが書きたかったハズが半分へたれな奴になってしまいましたが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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