ぷろろーぐ3
「私は、まだ諦めてないわ」
二人だけの会話が部屋の中に響くが、気にしてはいられない。
「確かに、対策だって見つかってないし、いつ私たちの番になるのかも解らない」
状況は絶望的だった。
現にピエロは動き出し、未だ正体も掴めず。だけどピエロの食事は始まった。既に一人の人間が食べられている。
「でも、諦めたらそこで終わり。だったら、諦めちゃだめ」
彼女は絶望の淵にいても、希望に満ち溢れている。彼女のような人間が、将来上に立てるような人間なのだ。
「最低でも、あのピエロに触ることが出来ればいいのに」
彼女を、食べさせるわけにはいかない。
思考をめぐらせて、奴の対策を練ろうにも、俺にピエロは見えなかった。
どんな姿をしているのか、そして食べるとは、どういう概念なのか。
「ねぇ」
考え事をしていた彼女が、俺に目を向けていた。
「なんだ?」
「もし、もしもよ」
念を押している。もしもとは、最悪の事態だ。絶対に、あってはならない。
「私に何かあっても、あの子だけは、守って」
あの子とは、彼女の妹のことだ。
二人で来たはずなのに、不幸にも巻き込まれてしまった二人の姉妹は、ただ不幸に泣き寝入りなどしない。むしろ、二人は背中を支えあうように、互いを助け合っていた。
なら俺は、彼女に期待通りの言葉を返すだけだ。
「ああ、もちろんだ」
「ありがとう」
それだけで、すぐにまた作戦の話に戻った。
助けてみせる。
俺がたとえ、この遊園地に誘拐されていない人間だから、ピエロが見えないとしても。
彼女たちを救いたいという気持ちは、本物だ。