ぷろろーぐ2
「逃げるんだ! もっと速く!」
俺と少女は、暗闇から逃げていた。
「こっちだ、ついてきて!」
どこにいるかもわからない暗闇から逃げ続けるために、俺は少女と手を繋いで走る。すると、こんな状況なのにとても暖かい気持ちになった。
「助けるから! 絶対に、助けるから!」
そう、俺は決意したんだ。
暗闇はどこにいるのかわからない。もしかしたら、もうすぐそこにまで、指先が当たっているくらい、近くにいるのかもしれない。
でも、あきらめちゃだめだ。少女がいるのだから。
「大丈夫か?」
俺は息も絶え絶えに、さらに疲れているであろう少女に安否を問う。
「はい、だいじょ……けほっ!」
少女が、咳をしている。もともと、体が強くないのだ。
「がんばって、あと少しだ!」
「はいっ……!」
嘘、いつ終わるかもわからない、鬼ごっこ。それでも少女は、一生懸命逃げている。
「がんばって」
「あの……お姉ちゃんも……助けて」
「大丈夫! 必ず、君たちをここから出すから」
姉さんも、さっき同じこと言ってたよ。妹を助けてって。
ああ、この姉妹は俺なんかよりも、ずっと生き残るべき存在だ。孤独にありながらも、彼女たちは決して、一人ではないのだ。
「よかっ……た。私、帰ったら……お父さんに……会わないと」
「そうだ、だから」
「ダカラ?」
一瞬、俺たちの会話にノイズが走った。
「なんだ……?」
すると突然、少女は軽くなる。
握っている手は暖かいのに。
その小さな手は、まだ俺をつかんでいるのに。
それ以外のものが、すべて食べられてしまった。
俺には、少女の手しかない。