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かこのきおく

 異変が起きたのは、丁度開園前の朝のことだった。

 俺はいつも通り塒の更衣室で目を覚まし、顔を洗って歯を磨き終わったところだった。


『アーテステス。マイクはセイジョウ、マイクハセイジョジョジョ』


 突然、園内放送が流れ出して、俺は意識をその放送に持っていかれた。というのも、その放送された声の主が、紛れもないピエロの声だったからだ。


「なんだ……?」


 朝から聞きたくもない声に反応して、心は警戒心で一杯になる。


『んん~キミはダレかな? アタシ、ハトちゃん!』


 ピエロはその放送で一人芝居を始める。しかもその芝居は、鳩さんのフリをして進行する。


『キノウのオ食事会ハ楽シカッタカね? ウン、トテモ楽シカッタ! ソウダヨネぇソウダネ……デモキミは一人だよ? 違ウヨ。アタシの仲間ハここにイル。アタシはミンッ……ハァ! なにそれ、ナニソレ!』


 唐突に、裏声じみたピエロの声が、重くドスの利いた声に変わった。その声は怒っているように見えて、心の底で俺達を嘲笑っている。


『ボクは残念ダヨ、どうしてかキミたちはクルッテしまったみたいだ。デンチ切れのオモチャミタイ。ザンネン一等ショウ! ショウミ期限アブナーイ! ダカラタベヨウ、みんなでノコサズ食べましょう~♪』


 朝の澄んだ空気を、ただ言葉だけでどす黒く変質させていく。こいつのおふざけは、すべて狂気でできているみたいだった。その狂気に含まれた言葉の意味に、俺は寒気がした。

 始まってしまったのだ。ピエロは俺達を食べようとしている。

 そしてさらに、俺達に追い討ちをかけるように、ピエロは告げる。


『オイチかったヨォー、オンナノコはタマゴ入ってなくてもカクベツダネ。アカルク笑顔のひっつじさん♪ で~も中身はブタニクサ♪ ハトちゃんおいチー!』

「……おい、今なんて言った?」


 ただの放送に俺は文句を言う。だがピエロはその言葉を聞いていたかのように、会話をする。


『ハトチャン、食べちゃったの~。シカタナイヨネ。モシ、悪いとオモウ気モチガ少しでもあるならサ、ザンネンのゲンインヲボクに差し出すんだ。モシカシタラ助カルカモヨ……アヒ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!』


 放送の音に、機材をガチャガチャと乱暴に扱うような音も混じる。ピエロは歓喜のあまり暴れているのだ。見えるはずのない俺達の反応を知って、笑いこけている。

 乱暴な物音を最後に放送は終わる。一瞬の思考停止に襲われるも、急いで医務室へと向かう。

 全速力で向かったつもりだが、そこには茜と、静香と、ホーク。すでに三人が医務室の前で待機していた。おそらく彼等もあの放送を聞いてここに来たのだろう。


「啓二さん! ここです、こっちです!」


 いち早く俺に気づいた静香が、オーバーアクション気味に俺を呼ぶ。静香はどうすればいいのか解らないまま周りをウロウロと、いつも以上に狼狽していて落ち着きがない。


「啓二よ、放送は聞いたな?」

「ああ、最悪のモーニングコールだ」


 ホークの声音はいつも通り強く精悍だが、どこか覇気が足りなかった。おそらくホークも、この事態にまだ整理がついていないのだ。


「……」


 そして茜といえば、どうしてか俺達を見もしないで、ただ黙ってそこに立ち尽くしていた。


「あのあ……啓二さん、医務室に鳩さんはいなかったです」

「出てったとかは?」

「わからん、だがあの放送を聴いていれば、わしたちを探すはずだ。おそらくあの放送は、わしたち全員に聞こえるように放送したのだからな」

「わたしも、プラネタリウムから出たらいきなり聞こえて……」

「……」


 鳩さんが食べられたという確証はない。別の視点から考えれば、もっと希望を持てるはずだ。

 なのに、どうしてだろう。全然楽観視できない。


「あのピエロが、ただ嘘をつくためだけに俺達に知らせるわけない」


 あいつはそんな、薄っぺらい脅しで自分の足元を見せるような奴じゃない。


「……やめましょう」


 俺達の嫌な空気に混じって、茜が今日初めて口を開いた。


「やめようって、どうするんだよ」

「この話し合いをしたところで、何にもならないわ。ピエロに歯向かうの? それはとても、勝ち目がなさ過ぎるわ」

「鳩さんが食事会をした原因の、わ、わたしを差し出したら……」

「止まると思う?」


 それをするということは、行動を止めてくれると、ピエロを信じなければならない。いや、これは信頼というよりも、ただ都合よく敵の心情を解釈しているだけだ。


「どうみても、あのピエロが約束を守ったりしない」


 茜の言葉に対して、沈黙が俺達の意見を代弁する。

 ただ茜だけが、事実を肯定して、半ば諦めているのかもしれない。俺達を一瞥してから、茜はどこかへ去るように歩み始めた。


「鷹野茜、待て」

「あなたとは話したくない」


 ホークとは会話すらままならない。代わりに俺が、ホークの言いたいことを口にした。


「茜は、これからどうするんだ」

「抜け道がないか、探索ね」

「まてよ、探す前に一緒に――」

「それが、なんになるの?」


 茜は乾いた笑いを俺に向けたあと。こちらを振り向きもしないままどこかへ行ってしまった。

 いつも、通り。

 俺達にやれることは、とても、とても少ない。これから、皆が協力して脱出を図ろうとしていたその日に、俺達の絆は崩壊した。一人でできることなど、たかが知れている。だけど、集まったところで、何ができるだろうか。

 茜は、知っているのだ。集まったところで、何にもならない。


「……」

「啓二よ」

「なんでだよ」

「わしのせいだ」

「お前のせいじゃねえだろ、なんでみんな自分が悪そうな顔してるんだよ!」


 言いようのない怒りを、ただ怒鳴り声でホークに当てた。

 既に鳩さんはいない。俺はまた、助けることができなかった。俺の手から零れ落ちた二人を思い出す。絶対にあんなことにはならないと、決意したのに。


「あの……啓二さん」

「静香……」


 ホークは俺を遠巻きに、静香は近くに寄り添い、互いが心配そうに、俺を見ていた。


「ごめんな。怒鳴って驚かせちまった」

「わたしも、探してみます」

「静香?」

「それしか、わたしにできることがないんです。わたしは、ここに来たばかりですから」

「おい、待て!」


 俺の手をすり抜けて、静香は逃げていく。茜とはまた別の方向へ向かって、確証もない希望を探すのだ。その後姿はまるで、脱兎のように必死だった。


「彼女たちは強い、この場でできることを自ら考え、ギリギリまで行動している」

「だからって、なんになる」

「貴様は、諦めの早い男だな」


 ガツンと、言葉が頭に突き刺さるようだった。

 それだけは、ダメだ。

 少なくとも、茜と対等にありたいのなら、それだけはなくすわけにいかない。プライドの小さな俺が作った、一つの意地だ。


「訂正しろ」

「訂正しよう、目が変わった」

「……あ」


 もしかしてホークは、俺を励ますために言ったのか?

 見ると辺りには、まばらだが部外者の姿が目に入る。どうやら開園時間を過ぎたようだ。

 情けない。また助けられてしまったようだ。


「どうやら、情けないなりに貴様の心には芯があるようだな」

「芯が出掛かってた、杭を打ってもらって助かったよ」

「それは、貴様の恐怖からか?」

「それだけじゃない。俺はピエロの食事を見たことがある。二人の悔いは晴らさないとな」

「……二人だと?」

「ああ、そういえばホークには話してなかったよな」


 俺はここ五ヶ月間の記憶がないということ。そしてその記憶を毎日夢で見るということ。


「だから俺には、最初から強い思いがあったんだ」


 それを一通り話し終えても、ホークはただ沈黙を守って動かなかった。


「キャプテン・ホーク?」

「……啓二よ、わしがなぜ茜に嫌われているのか、お前は知らないだろう」


 長い硬直を破りぬけるように、ホークは体を翻し俺に背を向ける。


「ついてこい、貴様に教えてやる。記憶が戻るかも知れぬぞ」

「どういうことだ?」


 返事はなく、ただホークはどこかへ歩き出す。俺はホークの言葉の真意が知りたくて、ただ金魚の糞見たくホークの後ろをついていった。



 そこは丁度、俺が地面で寝転がっていた場所の近くだった。洋風の建物が立ち並ぶ、入口近くの街エリアだ。

 ホークはあれから一言もしゃべらないまま、俺をどこかに連れて行く。仮面の風貌も相まって、何を思っているのかもわからない。すれ違う人々も、俺とホークを見ては忘れていく。


「あと、どれくらい歩くんだ?」

「……あそこだ」


 ホークはゆっくりと一つの建物を指差した。そこには他の建物と遜色ない……いや、よく見ればあの建物だけ、どこか俺達から隠れるように、他の建物に紛れて雰囲気を隠している。

 もしホークが指を刺さなければ、俺達のように一目見て忘れてしまいそうな建物だった。


「あの建物が、どうしたんだ?」

「わしの、アトラクションだ」


 そのままホークは、他のオフジェと同じような色合いをしたドアに手をかける。オフジェの扉のはずが、ホークが指差した建物だけは本物の扉らしく、なんの障害もなく開いた。

 建物の中は真っ暗で、壁にはカーテンが掛けられているが、窓はなかった。ただ部屋の中心に一つだけ椅子がある。尋問でもされそうな、不思議な閉鎖空間だった。


「そこに座れ」

「あ、ああ」


 なんだか、見覚えがあるな。

 俺が座ったまま待っていると、ホークが操作をしたのかひとりでにカーテンが天井に消えていく。そして壁と天井、はたまた床にまで、六面すべてに大きなスクリーンが映し出された。


「うわっ!」

「安心しろ、ただのシアターだ」

「シアター? どの壁から映像が出るんだ?」

「どれでもいい。勝手に変わる」


 隣に立つホークもまた、光に包まれるように、白く光を反射している。


「スピーカーはどこだ?」

「頭に響く」


 要領の得ない質問をしながら、俺は落ち着きもなくきょろきょろと視界を回していた。だが突然、画面が強く光ったと気づくと、俺は別の場所にいた。


***


 行方不明の娘を探してほしい。

 もともと便利屋などという仕事は、雑用や恨みを買うばかりの、日雇いの汚れ役だ。仕事の内容に文句なんて言わない。だが今回の仕事は、俺よりも警察に言うべきではないかと思う。


「話をしたのですが、警察では相手にもしてくれなかったんです」

「どうしてですか?」

「戸籍に、名前がないんです」

「どういうことだ、隠し子でも探せというのか?」

「どうしてか、なくなっているんです。記録や、子供たちの写真まで」

「ならなぜ、娘がいるとわかるんです?」

「私の記憶にあるんですよ! 最後に見たのはそう、ピエールランドとか言う遊園地に遊びに行く準備をしていた娘の顔でした」


 記憶だけにある娘か、それだけ聞くと、まるで架空の家族をこの親が作り出しているようだ。


「わかりました、少し込み入った話をします」

「はい、おねがいします! まず、娘は二人いて――」


 どうあれ、話を聞こう。、困っているのなら助けなければなるまい。

 俺の仕事は、そういうものなのだ。


 そこで、場面が少し早送りされる。俺、鳥乃啓二はこの場面をシアターで覗き見ていた。便利屋の目で、この映画は上映されている。


「すこし、聞いていいかな」

「あなた、誰?」

「お姉ちゃん、どうしたの?」


 ピエールランドの捜索から、今日で二日目、今回は人目を避けるように歩き回り、昨日とはまったく違う場所に来ていた。

 すると話は早く、二人いた娘はすぐに見つかり、それでこの依頼は終わると思っていた。「あなたも、誘拐されたんですよね?」


「俺が?」


 それからが、大変だった。

 ピエール・ピエロというこの遊園地のオーナーが、彼女たちを誘拐したという、行方不明ではなく、誘拐事件だという事実。にわかには信じがたい魔法のようなルール。

 そして一番の問題。これが魔法を信じるきっかけになったのだが、この遊園地で経験した二人のことを忘れてしまうということだ。

 かろうじて、俺自身が施したメモと、ランドの外から得た二人の情報は消えないようだ。

 綱渡りのような記憶をたどり、かろうじて彼女たちとコンタクトを取ることに成功していた。


 それから時は巻き、メモによりたどられた記憶から、すこしずつではあるが彼女たちとの親睦を深めていく。

 その中の一つに、俺が夢に見た、会話の内容も含まれていた。

 そして、ピエロの食事は唐突に始まる。一人の被害者が、食べられたのだ。

 そこからは、俺が見てきた夢の内容を繰り返すように、俺の知っている内容ばかりをフラッシュバックさせる。

 彼女と話し合いをして、少女を守ろうとする。

 手分けをして少女を探し、少女を見つけながらも、ピエロに見つかった。そして消えてしまった少女を悲しみ、残された少女の片腕を、抱いた。

 彼女は、そんな彼を見て言ったのだ。

 裏切り者と――


「ヒヤッハァ! とくもりご馳走さマァ……」


 彼女が食べられるところを、ただ見ていることしかできなかった。


「貴様が、このピエールランドのオーナーか」

「オナオナオーナー、キミはダレダイ? おシンイリ?」

「俺の名前は鷹野隆司。便利屋だ。とある人物に頼まれて、ここにきた」


 初めてピエロをこの目で見たが、予想以上に陳腐で、それでいて不気味だった。


「タノマレタ、タノマレダ! ソレッテ、アノ子タチノお父さんに頼マレダー!」

「なんで、そのことを知っている……」

「シッテル、キミが嘘ツキダッテ全部知ってル。最初からあなたのことヲ、見てたのヨ♪」


 ピエロはわざとらしくナヨナヨとした態度を取って俺の神経を逆なでする。

 こいつは、俺が隠れてここにいたことを知っているのか。


「ダカラ、イママデ見てきたキミに初めて出会エテ、ボクはハッピー!」

「俺も、できれば彼女たちが消える前に出会いたかったね」


 俺は最後の手段を使い、ピエール・ピエロと戦うことを決心していた。一度もアトラクションに乗らず、こいつと対峙する。一か八かの直接対決を、挑むつもりだった。

 だがこいつは、その賭けに出た俺を揶揄するように、一向に姿すら見せなかった。


「アノ子達はザンネンだったねぇ、ボクも悲しいよ……オイシクナクテネ!」

「貴様!」


 俺は激昂し、ピエロに掴みかかろうとする。

 だがその手は空を切り、ピエロに触れることすらかなわなかった。


「ノンノンノン。握手にはまだハヤイヨ、オテテを差し出してもカマワナイケド……あれ! アレレレ! キミにはあのショウジョチャンの手がノコッテるジャナイカ、心配ナイね!」

「ふざけるな! その口引き裂いてやる」

「フザケテルノハキミのほうさ」


 突然、ピエロは俺の目の前まで迫りよって、俺の目を指差した。


「キミはナンで、アノ子達が孤独になったのかわかるカイ? 二人一緒に来たオンナノコが、なんで孤独にナッチャッタノカナア~?」

「今はそんなこと関係ない!」

「ソンナコトジャナイ、理由がア・ル・ノ♪」


 さらに俺の言葉をさえぎるように、その俺と同じくらいあった体格を、さらに大きく変容させる。マグマが煮えるように、ぐつぐつと不気味なまでにピエロは膨張していく。


「アンナニ信頼シアッテル二人って、ヘンだよね。アノ二人、喧嘩モしたことナインダヨ」

「なにが変だ、あれは信じあっている証拠だ!」

「信ジルッテ、都合ヨク互いにカンショウシナイコト? タダ妥協シテ、ジブンノ意見をカクシトオスコト?」


 ピエロの台詞に、前にあった少女との会話を思い出す。少女は、彼女の好みを知らなかった。俺の書類を秘密というだけで納得し、何の詮索もしてこなかった。


「アノ子達はネェ、信じるってコトバで、互イをツゴウよく解釈してたダケ。ヒトはダレもカンペキじゃない、カチカンノ違いだってアル。だからヒトは衝突シテ、分カリアオウトスルるぅ!」


 ピエロの言葉が、俺の存在をうそ臭くする。俺は、二人がただ巻き込まれた善良な被害者だと決め込んでいたのだろうか。孤独が前提のこのテーマパークの本質を、見損ねていた。


「ヒトはキレイナモノじゃないね、自分ヲ見れば解るジャナイカ。とてもヨクバリでガッツイテ、衝動的なの! なのにキミたちは臭イモノニ、蓋シテ、他人ヲ知ろうともシナイ。ズルイヨネ! ダカラ『コドク』ダッタノ!」

「なにがいいたい、何も知らないお前が何を言ってるんだ」

「シッテルヨ! ボクはニンゲンがダイダイダーイ好きダカラネ!」


 ピエロは両手を不気味に震わせて、俺を脅かすようにふるふると見せ付ける。


「タノシカッタのん♪ でもアジケナイんだネ! ダッテ、他人にアユミヨラナインダモン」

「おい、まて」

「意見ニハ手をアゲテ~」


 俺の手がひとりでに、上を向く。かまわず俺は聞いた。


「俺がなにもしなかったから、もし彼女達に歩み寄れば、助けられたのかもしれないのか?」

「イイヤ、テオクレダヨ。デ~モ、あんなカワイソウナ最期には、ナラナカッタヨネ♪」


 彼女の最期、それを聞いてあの言葉を思い出す。

 裏切り者と、彼女は死ぬ間際にそう言って、食べられてしまった。


「ボクはただヒトコト言っただけさ。弘司クンもボクの仲間だって。そしたら信ジテクレタンダヨ♪ 仲間だったキミよりも、敵のボクを信ジテネ」


 俺はその言葉を、嘘をついた代償だと思い込んでいた。だが違ったのだ。


「ケッキョク、アノ子はダレを信用スルにもテンビンが一緒、信用ヲ重ねすぎて、どれがホンモノカわからないの~。ヒドイ最期ダッタオーーウ!」


 彼女はもとから、俺を本質的に信用していなかった。

 うわべだけの付き合いに、一片の信頼などなかったのだ。


「キズツクノガ恐い? 優しくスゴシタイ! ソレもキミのエゴ!」

「もういい!」


 俺は大声を張り上げて、ピエロの言葉を耳から遠ざけた。


「……ソウイエバ、キミはまだタベル気がオキナインダ。ハヤスギルシネ」

「俺を、生かしておくのか?」

「ソレダケジャツマンナ~イ。ダカラア、ゲームしようよ」

「ゲーム?」

「アノ子たちの親が思い出したミタイニ、キミの家族にも君の記憶ヲ返してあ・げ・る。コンドはだ~れが来ルカナ~」

「おい、まて! 俺の家族に手を出すな!」

「キメタ! 次のショクジハ、キミを探シニ来たヒトがキミを見ツケタラ始めようぅ! タノシイゾオォ……ワクワクするゼ!」


 ピエロの手が家族に及ぶ。それだけで俺の頭は、冷静とは程遠い場所にまで吹っ飛ばした。


「……俺が見つからなければ、ゲームは始まらないんだな?」

「ウン! キミとボクの、ヤクソク!」

「だったら、始まる前にお前を絶対に殺す」


 俺は握る拳を押さえることもなく、ピエロに届かぬ殺意を見せ付けた。


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