ぷろろーぐ4
そこには、俺と少女がいた。
「どうした?」
俺はいつもの古びたジェットコースターに来ている。ピエールランドは暗闇などに包まれていなければ、俺には良質な遊園地だった。
俺は、誘拐された人間だと、嘘をついている。
俺はそれを隠すように、笑顔を作って少女を見る。嘘のある笑顔は、とても心苦しかった。
「あ、おじさん!」
「おじさんはやめてくれ」
挨拶代わりに交わされる、少女とのいつもと変わらないやり取り。
俺は今日も何もできないだろう。少女の笑顔を見続けている俺は、偽善者だ。
「あのね、お姉ちゃんの好きなものって、なんだかわかる?」
「好きなもの……か、わからないな」
俺も彼女のことは、ここ数週間の記録しか残っていない。
「うん、私と一緒」
「君も、わからないのかい?」
「うん、でもいいの、お姉ちゃんは何をあげても喜んでくれるから。だから、何でもいいから気持ちを渡すの」
よく見ると、少女は花を持っている。これも、彼女へのプレゼントなのだろうか。
「最近お姉ちゃんが元気なくて、だから元気出してもらおうって」
「ああ、いいことだ」
俺がそう答えると、少女は笑顔でうなずいた。俺も釣られて、また笑顔になる。
「なんで、お姉ちゃんは元気ないんだろうね」
「聞かなかったのか?」
「うん、聞いちゃいけないよ。だって、話したくなさそうだったんだもん。だから私は、元気を出してもらおうと頑張るだけだよ」
健気な少女の、ささやかな頑張りだった。
俺は、何をしているんだろう。
この子を救わなければならないのに、何もできることがなかった。
少女でさえ、小さな花を渡すことができるのに。
俺は、このままで大丈夫なのだろうか。