勇者降臨
「爆砕光剣に斬れぬ物なし!!」
すれ違いざまにボスを斬り抜け、大見得を切って剣を振るとボスは爆発して死んだ。
「すげえ、やっぱりヨセフは本物の勇者だ!否、廃人だ!!」
「おい、ボブ!それは褒め言葉じゃないぜ!廃神って言え!!」
アホな仲間達と一緒にこの私、ヨセフ・ヴァンシュタインはVRMMO『オンライン』をプレイしていた。このゲームは典型的なファンタジー世界で、剣と魔法とあといくつかのテンプレートを踏襲している。私はごく普通のプレイヤーだ。だが仲間はみんな廃神様とか言ってくる。まったく失礼な。一日6時間も働いて、きっちり税金も収めている私をニート共と同列にしないでほしいものだ。
攻撃力もカンストしていないし、まだこの世界の至宝と呼ばれるレア武器を全部入手したわけではない。ざっと数えてみたが9割か。まだまだ若輩者の私がそんな廃神なわけがない。
「ヨセフ、ボスが爆発したところ光ってるぜ?」
ん、なんだこれは?見たことがない。
歩いて行った先で俺は驚いた。周りは石壁に囲まれた空間に変わっていた。俺はさっきまで城の一室にいたはずだが。足元には魔法陣。ははーん?これは開発スタッフの挑戦に違いない。さっき倒したボスはレアボスだったしな。よし、やってやろうじゃないか。
目の前に老人がいた。
「勇者様!!お助けくだされ!!」
どうみてもテンプレートです。日本の小説投稿サイトにはこの手の文献がいっぱい残っていた。そのあたりのパクリかな?
「まずは、話を聞かせてもらえないでしょうか?」
VRMMOのNPCは高度なAIを搭載していることが多い。普通に会話してやらないと、感情エンジンの調節によっては敵対関係になってしまうこともあるのだ。NPC相手でも私は慎重にいくぞ!
「はい、私は宮廷魔術師のソーンと言います。今この国は危機に瀕しております」
「それはどのような?」
「隣国のセントハイムがアンデッドの群れに落とされました。生存者はほぼゼロ。その後アンデッドの群れはこちらに向かってきております。距離からすると早ければ2ヶ月後には攻め込まれるでしょう」
攻城戦か!?やばい、こんな熱いイベントあるんならもっと早くに教えてくれよ。
「こちらの戦力は?」
たぶんボブやジョンもどこかに来てるんだろうが、今は個別イベントなのかもしれない。作戦はあいつらと一緒に立てたいところだったが、まずは手持ちの戦力の確認だ。
「はい、アデナスト皇国は2000人の騎士団を持っておりますが、アンデッドどもは1万は超えているかと」
うん、これ無理だな。どう見ても騎士団が全滅するフラグにしか見えない。
「わかりました。騎士団は全員待機。皇国守備に全力で当たらせてください。私が倒してきましょう」
「は?」
「ん、危ないから私が倒してくるって言ったんですよ?何か問題でも?」
アンデッド1万体は前にやったことがあるから問題ないはずだ。というか前より今の私の方が強いしな。ただ、あいつら臭えんだよな。あと汚い。
「いや、いくらなんでも勇者様だけでそんな!?士気をあげていただければと思ったのですが」
この爺様、私の実力を過小評価しすぎだ!
「はあ!」
剣に気力を込めて擬似的に聖剣を創りだす。青白い輝きが剣を包み込む。
「そ、それは!?」
「私の剣技は聖なる属性が使えるのです。アンデッドの1万体程度ならばなで斬りですよ」
ソーンとか言う爺様を置いて石室を後にする私だったが・・・・・・問題はセントハイムがどちらか知らないことだった。まあ適当に移動できるとこを回ってればたどり着くだろう。ゲームなんてそんなものだ。しかしボブとジョンはどこだ?
「ソーン様、勇者様はどこへ!?」
「一人でアンデッドを倒すと行ってしまわれた」
「馬鹿な!?1万はいますぞ!!急いで連れ戻さねば犬死だ!!」
しかしソーンはヨセフならあるいは、と思わざるを得なかった。ヨセフのレベルは90を超えていたのだ。
いくらリアリティを追求したからといって、リアルタイムで3日も歩かされるのはさすがにしんどいものがある。親切な街の人に聞いてみたら、この街道を4日程歩けばセントハイムへ続くもう一つの街道に出るとのことだった。道中は快適とは言えないものの、ひたすら移動に専念したため、このまま行けば到着は早い自信がある。
「しかし暇といえば暇ですね」
一人ごちる。ますます暇が強調されて精神衛生上よろしくないので無闇に爆砕剣をばら撒きながら歩く。近くの木が消し飛び、少し離れた岩も粉砕。ついでにその裏にいたらしいモンスターもぐちゃぐちゃの肉になって転がる。しまった、うっかり暇つぶし相手を瞬殺してしまった。
「だめだなこりゃ」
私はいよいよ暇に飽きたので走ることにした。これならもっと早くイベントに間に合うだろう。走りながら食料をインベントリから取り出す。長期保存、大容量の圧縮と何かと便利だ。適当にパンをほおばりながら走っていると腹が膨れる。おかしいな?味はするのだが腹は膨れないのがVRMMOの食べ物なのだが、満足感がある。まあ大したことではないか。私はそのまま一昼夜走りきった。
これは・・・・・・大惨事だな。
アンデッド1万体が泥のようにずるずるぬるぬるとアデナストへ向けて歩いていた。
「最初から飛ばしていくぞ!ブースト!!」
私は全身のアミュレットを起動し、1分間だけ全身のステータスをあげる。速度も威力も全てが1.5倍まで跳ね上がる。
「くらえ!!ホーリージャッジメント!!」
青白い火柱を纏い、全長100m程の光の剣を振り下ろす。一気に両断されて動きの止まるアンデッド達を更に横凪にする。完成した光の立体十字に向かい、全ての光をそこへ集中させる。
「グランドクロスエクスキュージョン!」
十字の火柱が上がる。これで大体半数は片付いたはず。後は手当たり次第に斬るのみ!!
手近のずるむけアンデッドを両断し、その余波で周りの数十体を吹き飛ばす。スキルポイントが再びマックスになったところでマックス状態で発動すると威力が上がるスキルを放ち、1000体近くをまとめて消し飛ばす。
私が軽快に大掃除をしていると、アンデッドの後方から何か巨大な塊が飛んできた。
「レイドボスか!」
集団戦が必要な高難易度ボスならば、レアアイテムを落とす可能性がある。こいつは私の獲物だ!
「貴様、何者だ?我が不死兵団は王命によりアデナストを滅ぼすのだ。邪魔をしおったからにはただでは済まさんぞ」
黒い、10mくらいはある巨大な虫だった。蠅をベースにトゲやら鋏やらなんやらを加えたらこんな姿だろうか?どうも背中の羽を振動させて会話してるようだ。音が聞きにくい。何よりムズムズする。
「お前こそレアアイテムを落として行かなければ大変なことになるぞ?」
私の尊敬する日本の廃神が言っていた。『レアは気合で引け!』今こそ実践するとき!!
「冥途の土産に教えてやろう。我が名はカイザードラゴンフライ。レベル50の大悪魔よ!!」
「ハズレか・・・・・・」
私が期待していたのはレベル100超えの高難度ボスだったのだが、これではせいぜい変わったアイテムが手に入るかどうかだな。
「行け!アンデッドボール!!」
雑魚をボール状にして次々と私に投げつけてくる蠅。しかし直撃しても守護方陣が全て吹き散らす。カウンターで雑魚ボールは血しぶきを飛ばして分解していく。しかしグロテスクだ。
「汚いから退場してもらいましょう」
私はSP全消費技、フィールドデストラクションを発動する。聖なる力を剣に込め、地面に突き刺すとアンデッドの残りがまとめて大地に落ちていった。そしてこのスキルの長所だが、空中にいる敵も落ちる。
「な、なに!?」
一気に引っ張られて叩きつけられ、そのまま瓦礫にぶちゅぶちゅ潰されていった。
「こんなところかな?」
結局レアアイテムなんてなかった。骨折り損である。だが、まだ残りがいる可能性もあるので私はそのままセントハイムへと足を伸ばすことに決めた。