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ボガードとシリウスと俺

「うお、すげー!?」

 俺がボガードに連れられて入った街は、セントハイム王国の砂漠都市『デザートローズ』というところらしい。砂の薔薇とはまたキザな名前だが、どうもここは標高が海より低いらしく、標高8,000mに位置するセントハイムの首都『センターセントハイム』から見ると、その外壁や町並みが砂でできた薔薇に見えるんだそうな。

「もし仮に外壁がやられても、街の中は仕切りが無数にあるからな。ここは堅牢な砦にもなるんだ」

 俺のいた世界の中東みたいな感じかと思っていたが、むしろヨーロッパの町並みに近い。意外だった。ヨーロッパ自体は行ったことがないが、映画で見たローマや、チェコのような、イメージといったら伝わるだろうか?とにかく無数の感動があった。

「俺、海外旅行は行ったことないから感動だよ」

 まるきりおのぼりさんな俺にボガードは笑顔で返す。

「そうだな、ついでに名物の食物でも食わせてやろうか」

「え、いいのか!?俺金もってないぜ?」

 ポケットをまさぐると財布はあったのだが・・・・・・小銭で1200円くらいしか入っていなかった。

「ネオ、それ見せてもらってもいいか?」

 ボガードが興味深そうに1円玉を凝視している。

「ああ、これ俺がいたところの金なんだけどやっぱ使えないよな?」

 ボガードは1円玉を片目で見たり、軽く噛んだりしている。

「ネオ、これは大事にしまっておけ。俺の見立てだとミスリルだ。間違いなく高値で売れる!!」


 ぶぼ!!


この世界のミスリル=アルミニウムぽいことがわかった。ボガードが目利きの才能がないだけかもしれないが、とりあえず街の買取商に持込みすればかなりの高値で売れるとのことだった。

「嬉しい半面ショックだわ・・・・・・」

まさかアルミがミスリルとかファンタジー好きにはだいぶショッキングな事実だ。

「なんでショックなのか知らんが、お前これで路頭には迷わないで済むぞ?」

 だいぶありがたいわけだが、こんなことなら全部1円で持ってればよかった。

「じゃあ、後で換金できたら飯おごるよ」

 ボガードは親切な上に信頼しても良さそうな人物だ。そもそも怪しい外国人で、おまけに高価な品を持っている俺に対して嫌な感情を一切見せない。人間ができているというか、良い人なんだろう。

「よし、じゃあ夕飯はお前にたかろう!」

 のりも良さそうだ。

 道中、骨付き肉のような物、たぶん漫画肉というもので合ってるだろう。生まれて初めて食ったわけだが、すごいボリュームだった。

「うまいか?」

「うめえけど量がやばい!!」

 俺はひたすらかじったが、どう見ても2キロじゃすまない量の肉だった。

「これがここの名物、王様の肉だ!!」

 なんでも王族のフルコースに入ってるらしい。味はいいのだが、毎回これが出たらちょっと胃がきつそうだ。

「泥棒だああああああ!!捕まえてくれ!!」

  叫び声が聞こえた。どこだ?と俺が警戒しようとしたら後ろからタックルをくらってふっとばされた。しかも結構な勢いで。

「邪魔だ!」

 泥棒とおぼしき奴が走っていったが、ボガードが即座に飛びかかる。5mくらいジャンプしてるように見えた。

「俺の目の前で泥棒とはいい度胸だ」

「げ、ボガードの旦那!?」

 ボガードに捕縛され、どうやら泥棒も観念したらしい。

「いてて、おいテメー!!痛えじゃねえか!!ふざけんなよ」

 一発ぶっとばしてやろうと近づいて俺は驚愕した。犬だ。頭が犬の人だった。

「いぬ?」

「ちげえよ!狼だよ!!」

 絶対嘘だ。シベリアンハスキーみたいな顔ならともかく、どうみても柴犬にしか見えない顔をしている。

「ん、こいつは獣人だな。犬か狼かは・・・犬じゃないか?」

 ボガードも同意する。ボガードは小さな笛を取り出して仲間を呼んだ。

「お前ら、盗賊だ。被害状況を調べて他に何かないか確認してくれ」

 忍者みたいな動きで集まった部下数名にてきぱき指示を出していく。

「ボガードってすごいんだな」

 俺がそう言うとボガードは照れくさそうな顔をしている。

「そうか?」

 謙遜になってない謙遜をしているが、まあいいか。

「お、そろそろつくぞ」


 占星術師の館に到着した俺は本日数回目のショックに見舞われた。占い師がいる小屋みたいなものかと思っていたら、城みたいな豪邸だったのだ。

「占星術師って儲かるのか?」

「うーん、どうだろうな?ただ国の政治にも関わってるし、貴族みたいなもんだからな」

 そんな偉い職業だったのか・・・というかボガードはそんな相手のところに胡散臭い俺を連れてくとか危険性は考えないのだろうか?強いからだいたいのことはOKなのか?


「ボガード様、マッド・ネオ様、お待ちしておりました」

 要件を伝える前に入口にいた受付のお姉さん(すごい美人)が俺とボガードの名前を呼んだ。すげー。あらかじめわかってたのか?でも俺はあだ名のほうかよ・・・。


 応接室のような部屋に通された俺達はしばらく待機させられた。10分くらい待って退屈してきたところで奥の部屋からぞろっとした装飾のついたローブを纏い、顔をヴェールで隠した美人ぽい人が出てきた。

「お待たせしました」

 どこかで聞いたような声だ。

「シリウス様、毎回そのような冗談はお止めいただけないでしょうか?」

 丁寧に、しかしもう飽きたよってため息混じりにボガードが言う。

「ボガード様、こういうのは様式美ですわ」

 あ、わかった。この人さっき会った受付のお姉さんだ!?

「えっと、着替えてたから時間かかったんですか?」

 俺は聞いてみた。

「ごめんなさい、この衣装着るの大変ですの」

 やめればいいのに!!

「まあ、よろしいですが・・・・・・ところで今回こちらにお邪魔したのはこのネオのことなのですが」

「ええ、どうやら異世界からのトラベラーみたいですよ」

 あ、やっぱりそうなんだ。

「では、やはり伝説の勇者様のような何か特殊な使命を持って降臨されたのでしょうか?」

 あー、最初に言ってたけどボガードは俺が勇者か何かの可能性を考えて厚遇してくれてたのかな。もし俺が勇者だったらボガードの悪いようには動かないだろう。意外と気遣いも細かいのかもしれない。

「それが・・・・・・どうも何もないみたいなんですの」

 占星術師のシリウスはとんでもないことを言い出した。何?俺ってそういう仕事とか役目とか宿命とかナッシング?

「どういうことでしょう?」

 ボガードも目が点になってる。

「この方の未来は真っ暗ですの。何かに邪魔されて先が見えないのではなく、動いた結果初めて未来が出るみたいですの」

 つまり、この世界の連中は運命が決まってるかもだけど、俺はそういうの無いってことか?

「俺ってフリーダム?」

「ですの」

「では勇者の可能性も?」

 ボガードはしきりに勇者を気にしている。

 シリウスは憂いの表情で俺に言った。

「この世界に勇者が来ると、だいたいろくでもないですの。勇者が来て相応の敵が出たり、勇者とケンカして国が滅んだり。とにかく勇者だったら要注意ですわ。でも今のところその傾向はみられませんわ」

 あ、勇者って危険人物なのか。ボガードが気にするくらいならけっこう危ないのだろう。

「とりあえず俺は何したらいいんだ?」

 うーん、と悩んだ末にシリウスは続けた。

「まずは冒険者として外を見てくるといいですの。今はレベルが低いから最適な未来が見えないですのよ」

「ステータスを見てみろ」

 ボガードに促される。しかしどこを見ればいいんだ!?

「あ、ステータスは頭の中でステータス出ろ!って念じれば見れますわ。あと見せたいって意思があれば他人にも見せることができますのよ」

「お、これでいいのかな?」

 俺の頭の横に吹き出しのようにもわもわがでてステータスを出す。


マッド・ネオ

レベル1


強さ999

賢さ3

敏捷さ45

運2


「・・・・・・なあ、これっていいの?悪いの?」

「何だこのアンバランスな数値は!?」

 ボガードの顔が驚愕に歪む。

「有り得なくもないでしょうけどすごい数値ですわ」

 ボガードがステータスを見せてくれた。


ボガード

レベル45


強さ120

賢さ100

敏捷さ110

運110


ボガード45もあるのか、でも強さが俺のほうがだいぶ高いぞ!?

「ボガード様の数値は人間としてはトップクラスですのよ。ネオ様の数値がおかしすぎですの」

 そう言ってシリウスも見せてくれる。


シリウス

レベル40


強さ100

賢さ150

敏捷さ60

運300


シリウスも結構すごかった。でも俺の数値って一体・・・・・・。


「これは、やはり冒険者になって外を見てくるべきだな。これだけの強さがあるなら、お前だけの道があるはずだ」

「ですわ。でも賢さがお粗末すぎですから、しばらくはボガードと私のところでお勉強してから旅立っていただいたほうがいいと思いますの」

お粗末って言うな!!

「じゃあ、しばらくお世話になります!」

こうして俺はしばらく勉強させられることになった。おかげで俺は重大時に取り残されることとなったが、それがわかるのはもっとずっと後のお話。

 


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