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砂漠のトラベラー

 よくある世界、よくある設定、この世界で一番人気なのか、テンプレートなのか異世界に行くという話は非常に多い。


いわく、交通事故に遭って気がついたら病院・・・ではなく、異世界だった。

いわく、いきなり魔法陣に巻き込まれて気がついたら勇者にされていた。

いわく、寿命を迎えたら赤ん坊に転生していた。

いわく・・・・・・きっかけを挙げるときりがないが、とにかくこういうものは日々を平々凡々とすごす者の憧れではあるのだろう。物語の参加者としては申し分ないとは思うが、当事者の苦労は実際になってみないとわからないもので、憧れている奴には殺意も湧き上がる。


 さて、前置きが長いとだれるので本題に入るが、この俺、松戸まつど 新生ねおは馬鹿親父につけられたDQNネームのせいで昔からことあるごとにからかわれていた。馬鹿親父は当然全日本DQN[統一トーナメントがあったら優勝できてもおかしくないくらいの猛者(考え方が致命傷な方の)だったため、ケンカをしたら勝つまで帰ってくるな、が当たり前の環境で育った。気がついたら俺のあだ名はマッド・ネオになっていた。どこのアメリカ人だよ。当然名前が上がれば敵も増える。勝たねばならないので鍛える。そして更に強い敵が、と悪循環を繰り返していたところで、唐突に終わりが来た。

「ここが貴様の墓場となるのだ、死ねぃ!!」

 俺が今までにない程の会心の一撃をケンカ相手に放とうとした瞬間、空間が裂けた。

轟音とともに裂けた空間に落ちた俺は気がついたら砂漠に立っていた。


 しばらく呆然とした後に俺は確信した。異世界キター!!と。

 問題は、この場合俺はどういったタイプの異世界トラベラーなのかが重要だ。はっきり言って俺のこの道に関する考察はだいぶ素人離れしていると言っても過言ではない。DQN親父の家庭環境の雰囲気のせいで、ゲームやプラモなどオタク趣味っぽいことは全部×、勉強もロクにできないわで、俺はこういった世界は真のオタクのためではなく、俺のような望まれない環境で強く生きることを強いられた者にこそ与えられる機会だと思っていた。生まれて初めて感謝した。というかチート能力くれる神様でなくても感謝できるとか俺っていったい・・・。

 そう、俺は特にチート能力をもらっていない。更に死んでもいないし、見た感じ転生した感じはしない。強いて言うなら事故?この分だと、普通に移住して適当に日々平穏に過ごすのがベストなパターンかもしれない。

 そう思った俺の目の前の砂丘が蠢き、巨大なサソリの化物が現れた。でかい、親父の友達が乗っていたカウンタックを思わせる低い重心、シャープなフォルム、しかし自動車にはない攻撃的な器官がある。手元に武器は皆無。

こんなときどうすればいいか俺はよく知っている。

「ふん、かかってきやがれサソリ野郎!!」

とりあえず先手必勝!ありったけの力で蹴っ飛ばす。俺の靴のつま先は鉄板が入っているのだ。武器ではないが下手なハンマーよりも高い威力がある。思ったより柔らかい。鋏の部分を蹴っ飛ばしてみたのだが一応ダメージは与えられるようだ。ひびがはいった鋏をかばうようにひっこめる。いけるか?いや、こういうときはこうだ。

「一発くれたらとんずらだあああああああああああ!!」

 ひるんだらその隙に逃げるべし。はっきり言おう。多少攻撃がきくかもしれないが、どう調子こいたってあんなサイズの生き物が倒せるはずがない。俺はさっさと走って逃げる。

 砂漠のど真ん中に放り出されたものかと思っていたが、かなり高い石壁、城壁らしきものが割と近くに見える。後ろではサソリがこちらを警戒したまま頭上にクエスチョンマークを出している。アホめ、それが狙いだ!このまま一気に逃げ切るぜええええええ!!!

 と、俺が猛ダッシュをしていると前方にバスくらいのサイズのイモムシ?が出現。回れ右して帰りたいがそうもいかない。速度をゆるめず一気に駆け抜ける。城壁の門にはやはり門番がいた。

「おーい!助けてくれえ!!」

 息を切らせながら駆け込むと、門番が何事かとぞろぞろぞろぞろ出てくる。その数18人。多すぎだろ。

「む、デスワームか!全員突撃槍構えー!」

隊長ぽいおっさんが指示を出すとロングスピアを構えて・・・なんと全員で突撃していった。どうみても兵士1とか兵士Aとかどうでもいい人達に見えたのに、各々飛びかかってデスワームとかいうイモムシに猛攻撃を加える。デスワームは瞬く間に倒されてしまった。

「つえー」

 俺がアホみたいなセリフをはくと、隊長ぽいおっさんが俺に声をかけた。

「お前どこからきたんだ?どう見てもこんなところまでこれる装備じゃないんだが・・・まさか追い剥ぎにでもあったか?」

 おっさんに適当な話は通じそうにないので自己紹介をし、ここまでの経緯を説明してみた。

「むう、にわかには信じがたい話だが見たこともない衣装に身を包み、なんの荷ももたぬままこの街にきたとなるとお前の話を信じたほうが辻褄が合うな」

「あても何もなくてどうすりゃいいのか全然わからないんだ」

 来て早々に襲撃されたため、俺はここまで途方にくれる暇がなかったわけだが、安全なところに来れたこともあり、急に不安が首をもたげてきた。

「そうだな・・・・・・俺も詳しくはわからないが、街には占星術師がいるから占ってもらおうか?異世界からの転移者となると、ひょっとしたら重要な人物かもしれん。不審人物だからとお前を牢にぶちこむのはいつでもできるしな」

 おっさんの冗談だったのだろうが笑えない。たまたまこのおっさんだったから良かったものの、一歩間違えればマジで牢送りだったんだろう。どうやらまだついているようだ。

「助かるよ。あ、ところでおっさんの名前は?」

「俺は守備隊長のボガードだ。待ってろ、部下に伝令をとばしたら俺が送ってやろう」

 こうして俺は初めての異世界の街へと足を踏み入れた。


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