表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

湖に居た金魚

 朱色が水中でひらひら揺れるのを、硝子越しに見たことがある。何度も。

 家族に金魚の趣味があったので、人より幾らか金魚は見慣れている。丸い小さな金魚鉢にそう何匹も入れてはいけないとか、この鱗の色は高価だとか。鰓病の金魚を琺瑯の洗面器に隔離して、水に塩を入れてやるとか。水替えや水温の調整など、見た目以上に手間をかけていたように思う。

 人魚は金魚を見たことがあると言う。

「此処で?」

 つまり、金魚を湖に放した輩が居る。彼女はその知らない誰かを悪者扱いするのに抵抗があるのか「いつやって来たかは知らないけど」と言った。「快適そうに泳いでいたわ。まっすぐ一直線に」

 飼育下ではできないことを持ち出して、彼女は金魚の幸福を語った。そんな非難めいた声を出したつもりも、そもそも義憤に駆られている訳でもないのだが、何故そんなに擁護しているのだろう。

 仕方なく、「余りいいことじゃないなぁ」と言った。彼女は不満そうだ。水槽で飼われているなんて可哀相、とは思っていないだろうに。

「どうして?」

「生態系に影響を与えかねないとか、色々な理由で」

「そんなわけないわ。すぐいなくなったもの」

 だろうね、と私は言った。野生の魚に比べて、余りにも捕食しやすいだろう。深く潜らないだろうから、鳥かな、と思う。

「どんな金魚だった?」

「どんな?」彼女は首を傾げた。金魚は金魚でしょう、とばかりに。「ふつうの金魚だったわ。薄い紅色の、三角っぽいかたちの」

 恐らく、彼女は(そして人魚という存在は)金魚についてそう詳しくない。観賞魚だからね、色んなのがいるんだよ、と言うと、ふうん、と彼女は興味がなさそうに返事した。そしてその声音のまま「見てみたいわ」と彼女は言った。今度写真を持ってくるよ、と苦笑すると、それで手を打ってあげましょう、とばかりに彼女は頷いた。

「その金魚、きみは飼わなかったのかい」

「そんなことしないわ。世話が大変だもの」

 私は笑って、そうだね、と答えた。やはり可哀相とは言わない。

 水中の生きものが水中の生きものを飼う大変さはしかし、想像が難しいけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ