ブライアンと事件のはじまり
「いやー、本当に助かったよ!君には二度も助けてもらっちゃったね!」
「当然のことをしたまでだ。」
いやー、一時はどうなるかと思ったけど、なんとか酔いも落ち着いたみたいだ。今は海を眺めながら、のんびり船に揺られている。
この戦士、はじめは変わり者だと思ったけど……いや、ちょっと変わり者ではあるんだろうけど。
普通に良い奴じゃないか!
「話にも付き合ってくれてるし」
「……船酔いには気を紛らわすことも大事だ。吐かれたらかなわんからな。」
「そういうことにしておいてあげよう♪」
この戦士、……って。
「そういや、まだ名前聞いてなかったね。」
「いや、別に知る必要も____
「ボクはグレースだ。よろしくね!」
そう食い気味に名前を教えると、戦士は軽くため息をついてから、やれやれと言った様子で応えた。
「……ブライアン。戦士だ。」
「君はブライアンというのか!良い名前だね。改めて、昨日に続いて今日もありがとう!」
「ああ、気にするな。」
グレースは戦士____改めブライアンの方に向き直り、強引に手を取った。
「何かお礼をさせてくれないかな?」
「いや、だから気にするなと……」
「ボクが落ち着かないんだよ。命の恩人に何もしないなんて!」
「命の恩人って、大袈裟がすぎるだろ?」
しつこいグレースに呆れがさしたのか、ブライアンは困ったように眉を下げた。
「そもそも、お前みたいなポンコツに何が出来るって言うんだよ」
「ポ……っ!?ひどいなあ、仮にも勇者だよ!?」
「勇者あ!?!?」
そんなに驚く?
「普通の子供に財布を取られるような救いようのないポンコツが勇者とか……」
「言い過ぎだろ!!!」
ブライアンは本当に信じられないらしく、額を押さえてぶつくさぶつくさ言っている。
「信じられない」とか「見る目がない」とか言ってるのはこの際無視だ無視!!
「まあ確かにボクみたいな360度どこから見ても完璧でカッコ良すぎる中性的なイケメン(♀)が勇者までやっているなんて信じれないのもわかるけど……」
「それはない。」
「もう黙ってくれないか!!」
優しいは優しいけど、こいつオブラートに包むという概念がなさすぎるだろ!
二人はそんな風に言い争っている中____
「きゃあーーーっ!」
一気に船内に響き渡る甲高い女性の叫び声と、何か皿のようなものが割れる声。
一斉に振り返った先には、女性を人質にし、にやりと笑いを浮かべる男たちがいた。