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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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戦闘開始

 谷間にターボプロップの重いドラムのような重低音が響く。作業をしていた魚人たちは顔を上げそちらを見た。大きなぎょろりとした眼が、両の翼に緑色の光輪を持つ、見たこともない鉄の鳥に釘付けになる。

「進路そのまま。降下」

 魔女はギメヌの谷にMV-22(オスプレイ)を侵入させ、そのまま降下させた。みるみるうちに地面が迫ってくる。エンジンポッドが徐々に上を向き、オスプレイの車輪は地面をつかんだ。

「Go! Go! Go!」

 ランプ(後部扉兼傾斜路)が降りると同時にラチェットの動甲冑が飛び出す。続いてリベットが、その後ろをボルトはレンチが走り出る。ナットはエンジンをカットし、シートベルトを外す。コクピットから後部へと向かい、魔女の手助けで装備を装着する。

 オスプレイの差し上げられた両のプロペラが、惰性で回っている。その脇を魔女たちはすり抜け、かつてギメヌの樹が立っていた方に向かう。ギメヌの樹は魚人たちによって切り刻まれ、魚人たちの住処の材料や煮炊きに使う燃料とされていた。奇襲を受けた魚人たちは何もすることができず、魔女はそれらを無視した。弾薬は1発でも惜しかった。使わないですむのなら、それがいい。

 ギメヌの樹の下を通りトンネルへと入る。ナットが起爆装置を点火し、オスプレイを爆破する。燃料は片道分しか積んでいなかったのだ。

 ボルトを先頭に一行は進む。かつて攻略したトンネル内は構造はそのままだったが、新たな敵が配置されていた。

「こいつはでけぇや」

 部屋に踏み込んだボルトは唸った。目の前には巨大な体躯が見える。クラウドジャイアントはボルトを見下ろす。

「脳啜りの番人とは……落ちぶれたもんだな。あんた」

 ボルトはM4を構え、ジャイアントに射弾を浴びせながら左側に走りこむ。その後ろからラチェットが踏み出した。左手に"雷神のハンマー"を提げている。

「これでも、喰らえ!」

 ハンマーが飛ぶ。ハンマーは自力で宙を舞い、上下左右に複雑な軌道を描き、ハンマーを受け止めようとするジャイアントの手をかわす。そして、クラウドジャイアントの頭に命中した。めりっとハンマーが頭にめりこむ。同時に雷鳴が轟き、雷撃がジャイアントの頭から足先までを奔る。

「やべぇ武器使うなっ!」

 雷撃の余波を受けて、ボルトの体毛が総毛立つ。ボルトは岩の陰に飛び込み、ジャイアント以外の敵がいないか、周囲を警戒する。

 動甲冑の手にハンマーが戻る。ラチェットはハンマーを腰のラッチにつけると、大剣と盾を構えた。

「やっぱりこっちじゃないとねっ!」

 頭から血を吹くジャイアントは拳を振り上げ、ラチェットに向かって放った。その一撃を盾で受け流し、振るった右腕に大剣を叩きこむ。鈍い音がして、大剣はジャイアントの肉に食い込み、丸太のような橈骨(とうこつ)を粉砕する。

 右腕を破壊されたジャイアントが吠える。ラチェットは動甲冑をジャンプさせると、腰めがけて大剣を振るった。骨盤に刃がめり込む。レンチがMk48を構えた。が、それを魔女が制する。

「ここはラチェットに任せよう。弾は温存さ」

 魔女の言葉を受けたのか、ラチェットは大剣支えにジャイアントの腰に足を踏み込むと、最大出力で蹴りだした。その反動で跳ぶと、ジャイアントの左腕に着地し、大剣を首に向けて放つ。

 ラチェットの裂帛の気合がヘッドホンを震わせる。大剣はクラウドジャイアントの首を一閃した。

「まったく、雷鳴より酷いさね」

 魔女が耳鳴りがする耳からヘッドホンを外して、元に戻るのを待った。その向こうでジャイアントの頭が地面に落ち、大きな音をあげた。そして、その脇にラチェットの動甲冑が着地する。

『さすが、"白銀"の名は伊達じゃないね』

 お褒めの言葉をもらい、ラチェットはコクピットの中でふふんと鼻を鳴らした。

 ボルトが先に進む。一行は倒れたジャイアントを横目に、それに続く。

 坂道を駆け下り、陰から飛び出してくるオーガの胸に2発、頭に1発を撃ち込み、それが床に転がる前に次の目標に弾を送り出した。20体ほどのダークドワーフとオーガを倒すと、前にバジリスクなどがいた広い部屋に出た。

「こいつは……」

 ボルトが眉間にしわを寄せる。視線の先には、武器を構える足長たちがいた。多くが成人の男女だったが、老人や子供もいる。

「おそらく、脳啜り(ブレイット)の信者だろうね」

 魔女が低い声で言う。その数は200人を越えているように見える。これほどまでの人に種を植えるのは現実的ではない。幾人かは歩く脳だろうが、それ以外は自分の意志でここにいるのだと判断した。

 人々は槍や柄のついた農機具などを構えて、じりじりと近づいてくる。ボルトの脇にレンチが立つ。ラチェットは.50を用意し、ナットもグレネーダーを構える。

「嫌な演出だね。こっちが悪者に見えるじゃないか」

 魔女は煙草を吐き捨てるとM14を構えた。

「いいか、情けは無用だ。レンチ、おまえは情け深い。だが、それで死にかけた事を忘れるな」

「わかってる」

 レンチは脇腹に残るナイフの傷を思い出した。この世は生きるか死ぬかの劇場である。死んだ者は舞台から去るのみだ。自分はまだ袖には行かない。レンチはそう心に誓った。

 リベットが両前肢を広げて、歯を鳴らす威嚇の声を上げる。後ろからオーガの群れがやってきた。

「いくよ」

 魔女はM14を撃ち放った。それが合図になったかのように信者たちが走り出す。ボルトたちも銃撃を開始した。人の群れの中でグレネードが爆発し、ひと束の男女を吹き飛ばす。ラチェットの.50は、鎧なぞ着ていない人体をいとも簡単に破壊した。信者たちは「神の敵」に向かって、怯む素振りもみせずに突進してくる。

 ボルトとレンチはまるで機械のような精確さで撃った。腹を撃たれた人が倒れる。それを踏み越えて信者が進む。

「身体につけた弾倉には手をつけるな。まずはホールディングバッグの方からだ。いつ魔法を遮断されるかもしれないからな」

 レンチはバッグの異空間から弾倉を取り出し、銃にとりつける。弾帯をかませ、チャージングハンドルを引く。そして反動で跳ね上がる銃を制御して、弾幕を浴びせる。

 信者たちは弧を描くように倒れていく。腕をもがれ、脚を粉砕され、胸を射貫かれる。それでも人の波は止まらなかった。

「そんなにまで、タコ頭に魅力があるのかねぇ?」

 魔女は煙草に火をつけ、紫煙を吐いた。満足な飛び道具も魔法も持たない信者たちは、ボルトたちに任せて大丈夫だと判断した。自分は身体をフリーにして、敵や部屋全体を観察する。信者たちに指揮をする者はいないようだった。ただ、宗教的な熱狂感だけで突き動かされているのだ。前に魔女たちが殲滅した、緑色の石像を崇拝していた邪教の信者たちと同じ眼をしていた。

「いやだねぇ……まったく」

 魔女はため息をついた。この世界に神を信じない者は、一部の変わり者以外には存在しなかった。それぞれがそれぞれの神を信奉している。すべてを司るとされる神。この世を混沌に戻そうとする神。約束の地へと導こうとする神。日々の苦悩から解放してくれる神。それらは知的生命がこの地で生きていくためには欠かせない、時には力を、時には庇護を、時には心の安寧を与えてくれる存在だった。反面、それは思考の停止をも引き起こす。神の命じるまま、神の声だという誰かの言葉を聞き、自分の意志ではない行動へと駆り立てるのだ。まさに、今、この瞬間のように。

 魔女が信じる神はこの世界にはいない。魔女はその神への信仰を捨ててはいなかったが、神の指図を受ける気はさらさらなかった。自分は神の信奉する人間である前に「海兵隊員(マリンコ)」である。それは死ぬまでそうであり、死んでもそうである。天国への道は、今まで散った幾多の海兵隊員の血で舗装されているのだ。魔女はそれを強く信じていた。

 ボルトがマガジンをヘルメットに軽く当てて、銃に装填している。その脇ではレンチが暴れる機関銃を、魔法の力で抑えつけて射撃している。ラチェットは大剣を振るい、ナットはグレネードを人の波の後ろへと撃ち込んでいる。魔女の背後では、リベットがオーガを料理している。

 脳啜りさえいなければ、この殺戮は起こらなかったのだ。と魔女は自分を納得させた。だが、死にたくなければ、相手を殺すしかない。それが戦いでのルールであり、それがこの世界で生き残るための最良の方法だった。立ちはだかるものには、武器をもて排除するのだ。

 人の波の勢いがとまっていく。立っている人数は数えることができるようになっていた。死にかけの人が発する声が聞こえてくる。魔女は紫煙を吐いた。

「前進!」

 ニーリング(膝立ち)姿勢で射撃をしていたボルトが立ち上がり、死体の中を歩きだす。それにレンチが続き、ラチェットがその後を追う。魔女は新しい煙草に火をつけ、ナットとリベットを引き連れて歩を進めた。

 ボルトはまだ立っている信者に高速弾を撃ち込みながら進む。対モンスター用に設計された高殺傷弾は、足長程度であれば、胴体に当たれば即死させられるほどの威力がある。次々と的確な射撃で倒し、道を拓いていく。レンチは天井や脇道からの敵がいないか、銃口を上下左右に動かしながらボルトの後を進む。

 最後の信者が倒れた。部屋にはムッとするような血の匂いで満ちている。脳啜りはこんな光景を見てほくそ笑んでいるのだろう。神話に語られる「智慧の支配者(ナレッジャラー)」にとっては、足長をはじめとする様々な知的生物など下等生物であり、その命の行く末など考える余地もない、と言わんばかりであった。

 ボルトが立ち止まり、振り返り、顎で前を指す。脳啜りの部屋のドアである。魔女はナットに合図する。ナットはハバーサックからジャベリンを取り出し、慎重に照準してドアに向けて放った。

 対戦車ミサイルの直撃を受けたドアが吹き飛び、埃が舞う。ボルトとレンチが素早く中へ飛び込み、その後を魔女たちが続く。

 あの因縁の部屋であった。淡い青い光で満たされた部屋の奥。階段の上のフロアに、脳啜り──ナイグロッドと称する者がいた。手に魔導書を開き、ドアが吹き飛ばされたことなぞ、何も気にしていないかのように振り返る。

「ドアはノックしたぜ?」

 ボルトが完璧な平面の床を、慎重に一足一足進めながら言う。どこに罠があるやもしれなかったからだ。

 ナイグロッドはそんなことはしない、とばかりに口元の触手をうごめかした。

「邪魔するよ」

 魔女がナイグロッドに声をかける。ナイグロッドは魔導書を閉じ、もったいぶった動きで本棚にそれを差し込む。

「さて、この前の続きといこうじゃないか」

「脳を献上しにくるとは……おまえも愚かな女だ」

「最近、五月蠅い(うるさい)蠅がつきまとってね。枕を高くして眠れやしない」

「どうだ? 余を殺す算段はついたか?」

「それは、自分の眼で見るんだね」

 魔女は煙草を口にくわえ、先を上下させる。そして、口の端を挑戦的に曲げた。

 ナイグロッドは手を腰のあたりまで上げると、すっと横に振った。それに呼応するように床が光を帯びる。

「無駄な事だ。北の森の魔女。余のものになれ!」

 床から6体のシールドガーディアンが現れる。

「ボルト! レンチ!」

「yes,メム!」

 二人が駆け出し、シールドガーディアンが起動する前にその列を滑り越える。

「では、はじめようか」

 魔女は戦闘開始を高らかに宣言した。


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