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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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襲撃

 その日、村の外れに住む薬師ロロドス──あのエルフの魔法使いは、言い知れぬ胸騒ぎを感じた。それは傭兵(冒険者)として、長年戦いの中に身を置いた者だけが持つ、ある種の予知能力だったのかもしれなかった。

 小屋を出たロロドスは、野良仕事をしている配下の魔獣たちを呼びよせ、村長に何かが村に近づいている事を告げた。ロロドスの魔法の力を良く知っている村長は、村の外に出ている村人たちを呼び集めるために人を送った。不思議そうな顔をして続々と村に帰ってくる村人に、ロロドスは神殿に向かうように告げた。

 エルフの魔法使いの予感は的中した。村を野盗が襲ったのだ。獣魔のたぐいを防ぐための柵などはあったが、人を防ぐ城壁のような防御陣地はこんな寒村には無い。それでも数人の野盗であれば、村人たちが人数を頼りに追い払うこともできたかもしれなかった。しかし、村を襲った野盗は数十人の巨大な群れを形成していたのだった。

 村人たちは、村の中でも最も強固な建物であり、このような出来事があった場合に立てこもるために、ある程度の備蓄をしていた神殿に集まった。野盗が村の財産をあらかた奪い去り、いなくなるまでの間、身を潜めることにしたのだ。

 しかし、野盗は村に居座った。飲み食いはしているようだったが、財産を奪い去るような素振りを見せなかったのだ。彼らは明らかにあるものを狙っていた。それは、村人の命だった。

 その様子を見たロロドスは、魔獣たちに神殿の四方を守るように命じた。さすがの野盗たちも、強力な魔獣たちに立ち向かう事はせず、じわじわと食糧や水が尽きるのを待っているようだった。そこでロロドスは使い魔を送り出した。自分が知るかぎりの最強の者たちにむけて。

 数日が過ぎた。ずっと監視を続けていたロロドスの顔には、疲労の色が張り付いていた。粗食には慣れている村人たちであったが、いつまで続くかわからない籠城生活には耐えかねているようだった。言い争いや取っ組み合いなども起こっている。このままでは内部から崩壊する。ロロドスは援軍の早い到着を心から願った。

 それはやってきた。

 聞きなれない重低音を聞きつけ、ロロドスは顔を上げた。疲労で折り重なるように横になっていた村人たちも半身を起こす。その音は、まるで地獄から響くドラムの音のように感じられた。

 野盗たちもそれに気づいたようだった。食糧を食い散らかす手を休め、空を見上げた。

 梢を揺らして1機のMV-22(オスプレイ)が現れた。独特のターボプロップの低い爆音を響かせ、村の上空を一周する。眼下の様子を調べているようだった。ロロドスはその様子を見て、安堵のため息をついた。

『降下用意』

 ラチェットは動甲冑をランプ(後部扉兼傾斜路)の方に進めた。その後ろにリベットが立つ。

『Go!』

 オスプレイが村の広場の地面すれすれまで降下する。そして、動甲冑とリベットが跳び降りる。オスプレイは再び上昇する。

「さあ、来い!」

 ラチェットは.50(重機関銃)を構えると、広場に周りで、オスプレイをぽかんと眺めていた野盗たちに向かって発砲した。奇襲を喰らった野盗たちが慌てふためいて散り散りになる。リベットは前肢を広げて野盗たちを威嚇し、じりじりと後退させる。まずは広場を確保し、後続の降下を援護するためだった。

 ラチェットとリベットが広場をほぼ手中に収めると、オスプレイが再び降下し、魔女とボルトとレンチが降り立った。オスプレイは上昇し、村の外に向かって飛び去って行く。

 魔女はボルトに指示を出す。ボルトがうなずき、レンチを呼んで、神殿の方に向かって走り出した。ラチェットとリベットが魔女を守るかのように周囲を見回している。

 しばらくするとロロドスが、ボルトたちに守られながらやってきた。

「ご足労おかけし、ありがとうございます」

「礼は後だ。状況を」

「は、はい。使い魔に言付けさせたように、数日前に野盗に襲われました。数は百には足りませんが、相当な数です。今まで引き下がらない様子から見て、奴らは村人の命を狙っているようです」

「ふむん」

 魔女は煙草に火をつけた。

「頭目の目星はついているかい?」

「いえ、それが……」

「ほう?」

 魔女はふっと煙を吐いた。野盗というのは、元をただせば元兵士か、傭兵(冒険者)崩れ、崩壊した村の農奴たちである。力を持つ(かしら)を中心に、一種の階層構造を作って部下の支配体制を敷いている。そうでなければ、互いに殺し合いをしかねないのだ。数人の野盗でもそうである。襲ってきた野盗は数十人である。頭がいないはずはなかった。

「これも脳啜り(ブレイット)のしわざだと思うか?」

「おそらく」

 魔女はロロドスの肩をぽんっと叩いた。

「これまでよく耐えた。あとは任せな」

「あ、ありがとうございます」

 ロロドスは頭を下げ、神殿に向かっていった。魔女の戦いを前に、皆を安全な地下に避難させるためだった。

「ボルト!」

「はい、メム」

「レンチと一緒に、村の東側を掃討しろ。わたしらは西をやる」

「わかりました」

「相手は脳啜りの手の者と考えろ。接近はするな」

「i,copy」

 ボルトはレンチに声をかけ、二人は走り出す。

「ラチェット!」

『なに?』

「一緒に来い。リベットはここで待機。抜けてくるヤツらを殺れ」

『わかりました』

 魔女はM14に初弾を装填すると歩き出した。

 ボルトはM4を構え、小屋の間を進む。その後ろを、Mk48を構えたレンチが、時折後ろを振り返りながらついていく。

 小屋の陰に隠れていた野盗が斬りかかってくる。ボルトは腹に1発、倒れた野盗の頭に1発を撃ち込む。頭を撃つのは、相手が脳啜りがくり出す『歩く脳』の可能性があるからだった。

 野盗たちは次々と現れた。ボルトとレンチは互いに援護しあいながら、野盗たちを狩りたてていく。雑多な武器と防具しか持たない野盗が、十分に訓練され、遠くから致命的な一撃を送りだしてくる二人にかなうはずはなかった。

 魔女はラチェットの先を進む。建物の陰から少し顔を出し、様子を見る。野盗の姿を確認すると、その頭に銃弾を撃ち込む。すわと挑みかかってくる奴にはラチェットが.50を撃ち込んだ。

「やけにあっさりしてるな」

「やっぱり、そう思う?」

 レンチは背中合わせのボルトに言葉を返す。

「指揮している奴はいないが、ゆるやかに連携している……おそらく、俺たちを分断しようとしてるんだ」

 ボルトは魔女に自分の予想を送った。

「分断か……そんなとこだろうね」

 魔女は自分たちが吊り上げられていることを感じていた。敵は自分たちが無線を使って連携しているように、脳を直結しているだ。となると、相手の目的がわかった。

「──しかし、戦術は素人レベルさね。リベット、お客が来るよ」

 リベットは魔女からの通信を受け取った。頭を巡らし、相手が来る方を見る。そこに数発の魔法の矢が命中した。続けざまに火球がぶつけられる。爆煙が立ち込める広場に野盗たちが姿を現す。野盗の中には魔法が使えたり、魔法を発動させることのできるアイテムを持っている者もいる。

 爆煙が晴れる。そこには何事も無かったかのように立つリベットの姿があった。

『我を倒すには──少々カロリーが足りないようですね』

 野盗たちが色めき立つ。弓やクロスボウから矢や(つぶて)が飛ぶ。しかし、リベットの強固な外皮はそれを弾き返す。両の爪を開くとリベットは奔った。野盗の間を駆け抜けながら、舞うように攻撃をくりだす。爪で相手を切り裂き、跳躍回転蹴り(ローリングソバット)で上下真っ二つにする。

 野盗たちは神殿にも向かっていた。しかし、神殿を守るロロドスの魔獣たちがそれに迎撃した。蛙の怪物が野盗を頭から飲み込み、ファイアージャイアントが手にした剣で野盗を叩き斬る。アイアンゴーレムが両手で頭を潰し、鎖の魔人が立ち向かった野盗を無数の鎖でバラバラにする。

 リベットの殺戮は止まらなかった。まともな野盗たちであったら逃げ出す状況にありながらも、彼らは無謀にも斬りかかってくる。まるで己の命のことなど何も考えていないようだった。そんな連中を相手に、リベットは精密機械のように攻撃をくり出し、次々と肉塊へと変えていった。

 ボルトとレンチも、自分たちを吊り上げていた野盗を倒しつくし、広場へと向かった。

「って、もう終わりか」

『そのようです』

 爪についた血を振り払ったリベットが応える。広場には野盗だった者たちが転がっている。神殿の周りでの戦いも終わっていた。

「ボルト、周辺を回って生き残りがいないかの確認と、頭が残っていたら、それを潰してきな」

「了解」

 ボルトはレンチとラチェットに手で合図をして、広場を後にする。

「終わりましたか」

 魔女の下にロロドスがやってくる。

「今、残敵の掃討をしている。まぁ、村の中の分は終わりさね」

 魔女は煙草を吹かして、周囲を見渡す。リベットが死体の周りを歩き、頭を切り裂いていく。

「あんまり良い絵面じゃないが、念には念を入れないとね」

「それは……しょうがありません」

「奴らはあんたの事を知ったんだろうね。それで狙った」

「わ、私をですかっ!?」

「あんたはわたしらの参謀役だ。奴らにはいてくれたら都合が悪い。それに、近親者を潰すのは、戦う相手に精神的ダメージを与える」

 ロロドスはぶるっと身体を震わせた。

「なに、わたしらはすぐにでも攻め込むつもりさ。ほんとは、今日にでもだったんだがね」

「で、では?」

「ちょうどよいタイミングだったわけだ。オスプレイに荷物を積んでいた時に、あんたの使いが来たのさ」

 魔女は煙草の先を上下させて笑った。ロロドスはへたりと地面に座り込んだ。

「おいおい、大丈夫かい?」

「いえ、安心したので、腰が抜けたようです」

「なんにせよ、ロロドス。あんたはよくやった。村の連中も、あんたの事を一目置くだろうさ」

 魔女はあらためて辺りを見回した。手足や胴体がバラバラになった死体が、あちこちに転がっている。

「……死体の始末は魔獣にやらせな。万が一があるとまずい」

「そうですね。では、もうひと働きするとしましょう」

「今のあんたに必要なのは、少し寝る事と、抜けた腰を戻す事だ」

 魔女の言葉にロロドスは苦笑した。魔女が笑いかける。

 残敵の掃討と、死体の処理に数日がかかった。魔女は死体を検分し、いくつかの頭部の中から、脚の生えた脳を発見した。

 魔女は一旦小屋に戻り、消費した弾薬を補充することにした。そして、脳啜りの待つ山に向かって、改めて出発した。


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