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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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散髪する午後

 切られた髪の毛が風に吹かれていく。

 小屋の前の椅子に座ったボルトの頭に、魔女がハサミをあてている。魔女は器用にハサミを動かし、ボルトの髪を刈っていく。

「──こんなことしてていいんですか?」

「ああ。問題は無いさ。身だしなみをきちんとするのも、戦いの一つさね」

 順番を待っているラチェットが、プリントアウトされたロロドス──あのエルフの魔法使いが書いた報告書と、デジカメの写真を見比べ、読み込んでいる。

「この書によると、脳啜り(ブレイット)は常に祖脳とつながってはいるけど、ある程度の量の情報をやり取りするには近づかないといけないみたい」

「ほう」

「話に没頭して、丸刈りにしないでくださいよ」

 ボルトの言葉を無視してラチェットが続ける。

「祖脳の在りかを知られないように、脳啜りは祖脳を召喚するみたいね。祖脳は別次元にあるわけじゃなくて、この世界のどこかにあるらしい」

「この世界のどこか、って言っても。こんなに広い世界を探すのは……」

 三つ編みを解き、髪を下ろして順番を待つレンチが、ラチェットの髪をいじりながら言う。

「それだから、脳啜りが祖脳を呼ばざるを得ない状況を作る、というわけ。この場合は、脳啜りが『死ぬ』ような状態ね」

「死ぬ状態?」

「脳啜りは、死ぬ間際になると、祖脳に情報を送る必要が出てくる。個体が持つ情報をすべて祖脳に送るためにね」

「と、いうことは?」

 髪をお団子にされたラチェットは、ニヤリと笑った。

「ぎったんぎったんにぶちのめすのよ。死ぬ一歩手前までね」

「シールドガーディアン対策が必要だな」

 散髪が終わり、肩に落ちた毛を払いながらボルトが言う。

「ありったけの対戦車兵器を持って行けばどうにかなる。問題は手数だ」

 レンチが椅子に座り、魔女が櫛で長い髪の毛を梳く。

「そこはここにいる6人しかないさ。それに敵も対策を練ってるだろう」

「臨機応変、ですか」

「それが戦場さね」

 レンチの見事な金髪の毛先をハサミで切りそろえていく。

「ウチらも前よりは攻撃力も防御力も上がっている。それに相手の手札の1枚は知っている。条件としては悪くない」

「手札?」

「シールドガーディアンを使うってことがわかってる、ってことさ。ヤツがこれを使わない、という事は無い。大事な盾だからな」

「それが破れれば、脳啜りを半殺しにできる」

 ラチェットが髪の毛をほどく。

「あたしなら、もう二枚ほど手札を用意するかな?」

「どんな?」

「そうだなー。こっちの戦い方をわかってるんだから、こっちの連携を邪魔するかな」

 ラチェットの言葉にボルトがうなずく。

「そうか。普通の連中とは違い、俺たちは遠距離攻撃が主体だ。近接戦を挑んでくるかもしれん」

「もう2、3体モンスターを用意して、一人一人にぶつけるかな」

「それぐらいはやってくるだろうねぇ」

 魔女はレンチの前髪を梳き、ハサミを走らせる。

「とはいえ、あの部屋の大きさだ。シールドガーディアンの数を考えると、そんなに増援は見込めない」

「途中で召喚してくるか」

「それもあるかな」

 考えれば考えるほど選択肢は多くなっていった。だが、一つ言えることは、シールドガーディアンさえ倒してしまえば、脳啜りの肉体にダメージを与えることができる、ということである。

「そこは火力で削りきるしかないさ」

 魔女は頭の上の伸びた髪を気にしているナットにウィンクする。

「ありったけの火力を短時間に叩き込む。そのための方策も考えている」

「あたしの新兵器も使えるよ」

「そんなのあったっけ?」

 ボルトの問いにラチェットが答える。

「"雷神のハンマー"よ。巨人のとこからもらってきた」

「あれが、そうなのか?」

 ボルトは動甲冑に新しく装備された、無骨な巨大なハンマーを思い出した。

「破壊力じゃあ、あたしの大剣には劣るけど、投げたらほぼ命中するし、勝手に戻ってくる。という優れものよ」

「そんなすげぇモノなのか」

「まさに神々の武器ね」

 前髪をいつものように後ろに梳かしてまとめたレンチが、魔女に礼を言って椅子を立つ。その後にナットが座る。魔女はハサミを鳴らして、ナットの頭の上の髪に向かう。

「うまく使えば、2体同時に戦うことができる。今、練習してるとこ」

「そんなことできるのか?」

「あたしの腕を舐めないでよ」

 ラチェットは両手をさしあげて、指をワキワキ動かしてみせた。

「というのは冗談で。動甲冑にそういう動きを覚えさせておくのよ。トリガー一押しで、ハンマーを、こう」

 ブンっと物を投げる仕草をする。ボルトはそうか、とうなずいた。

「回収の方は、ハンマーが自然に手に戻ってくるからそんなに問題ないし」

「魔法の武器様様だ」

「まぁ、頼りきる気はないけどね」

「そりゃそうだ」

 ナットの頭の毛にハサミが入り、ナット自身が気にしていた部分が切り落とされる。魔女はブラシで髪を整え、ぽんっと背中を叩いて終わった事を告げる。

「それでラチェット、あんたはいいのかい?」

 魔女はラチェットに聞く。ラチェットは髪の先を指でくるくるしながら視線をそらす。

「あー、あたしは……そう、髪は魔力の……」

「エルフの髪が魔力に関係するなら、あのエルフはどうするんだよ。つべこべ言わずに、こっちに来て座りな」

 ラチェットは捕まった猫のように椅子に座らされた。魔女は背筋を伸ばすようにと背を押し、ラチェットの髪に櫛を入れる。

「いっつも逃げてたけど、何かあるのかい?」

「いや……別に」

「他人にしてもらったことがないのかい?」

「…………」

 ラチェットは少し顔を下げた。魔女はその表情から何かを読み取った。

「まぁ、いい。これからはわたしがやってあげるさ。好きな髪形を言いな」

「んーっと──いつもの」

「はじめてなのに、『いつもの』があるかい」

 魔女は笑いながら、ラチェットのプラチナブロンドの髪を梳く。

 午後の日差しの中、ハサミの音が流れる。めいめいは対脳啜り戦の戦略や装備について話している。

「さて、これで終わりさ」

「そんなにかわってない」

「痛んだ毛先を切っただけさ。いろいろできるから、何かあったらいいな」

 魔女はプリントアウトされた図面を見ているリベットに声をかける。

「あんたのそれ……髪の毛なのかい?」

 リベットは頭部の後方から伸びる半透明の髪の毛状のものを指さした。

『これですか? これは体液の冷却システムで、頭髪とは違うものです』

「そりゃ、切るわけにはいかないね」

『散髪という行為には興味があるのですが。残念です』

 リベットの答えに皆が笑った。


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