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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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新しい仲間

「邪魔するよ」

 北の森に近いとある村。その村の外れにある小屋のドアを魔女は開けた。

「ああ。あなたでしたか。いや、悪いことなどしておりませんよ」

 太ったエルフの魔法使いは魔女を出迎え、椅子をすすめた。

「その頭」

「ああ、これですか。いや、笑えますよね」

 エルフは髪が無くつるつるの頭頂部に手をやって、照れ隠しに笑った。

「いや、笑わないさ。そんな事言ったら、わたしもしわくちゃの婆さんだ」

「そんなことはありませんよ。まだお若い」

「あいにく、あんたよりは年上さね」

 二人は笑い合った。

「若い頃はしゃんとしていたんですけどね。今の半分ぐらいの目方で、髪もありました。まぁ、こう言っちゃなんですが、それなりにモテましたよ」

「それがなんでまた、あんな塔を」

 魔女はこのエルフの魔法使いと出会う事になった、あの塔の話を持ちだした。

「いえ。今までいろんなところに行って、いろんなことを見たり聞いたり体験したりしました。女の子と浮名を流すのもよかったんですが、魔法の研究の方が面白かったし、世界の真理についても調べたり考えたかったんです。あと、この腹では、迷宮の穴を抜けることができませんでしょ」

「そりゃそうだ」

「迷宮で死ぬより、長い余生を過ごしたかったんです。誰にも邪魔されないところで。自慢のモンスターたちだったんですよ。あれでも」

「相手が悪かっただけさ」

 エルフは窓の外に眼をやった。魔女もつられて外を見る。村の畑に、あの蛙の怪物とアイアンゴーレムの姿があった。蛙の怪物は左右の胴体を縫い合わされ、アイアンゴーレムは胸に継ぎが当てられていた。蛙は頭に大きな帽子を被り、農具を振るってせっせと畑を耕している。ゴーレムは掘り出された一抱えもある石を軽々と持ち上げ、近くの森に運んで行っている。村人もそんな怪物たちとともに仕事をしていた。

「へぇ。いいもんだ」

「最初はおっかなびっくりでしたが。僕じゃぁ、畑仕事はできないですし。働かないと食事ができないのが現実です」

「まぁ、金があっても、手を動かさない奴は相手にされん。それが田舎だ。そうだ、ジャイアントと鎖の魔人はどうしたい?」

「ファイアージャイアントは鍛冶仕事一切を取り仕切ってます。鎖の魔人は、羊と牛の世話です。鎖を操るのはお手の物ですからね」

 魔法使いは窓の外を見て、満足げな笑みを浮かべた。魔女は煙草に火をつけ、煙をふっと吐く。

「──そうだ。今日はこれを持ってきた」

 魔女はバッグの中から、黒いケースを取り出した。

「これは……マリンコ(海兵隊)の」

「そうさ」

 魔女はケースを開けた。

「あの時、触媒を探すのに眉間にしわを寄せてたろ。これが役に立つ」

「ガラス、ですか……いや、軽い」

「プラスチックというものだ。まぁ、使い方はこうだ」

 魔女は自分が目の前にかけている道具を示して見せた。エルフは耳につるをかけ、ゆっくりと目の前に寄せ、鼻梁に載せる。

「! よく見えます!」

「『眼鏡』という光学機器だ。この世界ではわたししか使ってなかった道具だ。あんたが二人目だね」

「眼球の焦点をこの透明な部品で補正するわけですね。助かります。魔法で見る方法もあったんですが、そのたびに呪文を唱えるものおっくうでして」

「これであんたもマリンコの仲間入りだ。見えづらかったら、別の度数──もっと見えるものを持ってくるから言ってくれな」

 魔法使いは両手をかざしてみたり、本棚の書物の背表紙を見たりして子供のようにはしゃいでいる。

「さて、本題だが」

「ああ、そうでした。調べてありますよ」

 エルフは一巻きの巻物を取り出した。

「ここにまとめてあります。念のため説明も」

「ああ、お願いする」

 巻物をほどき、テーブルに広げる。

「『脳啜り(ブレイット)』という者は、かなり古くからいるようです。それこそ神話の時代からです」

「その辺の話は知ってる。もっと実戦的な部分を」

「はい。では、この辺は飛ばしまして……脳啜りは数体が一群を形成しており、その中心に『祖脳』という存在がいます」

「それがミソ──続けて」

「ええ。この祖脳とそれぞれの脳啜りは繋がっています。脳啜りは自分の知識や記憶を、祖脳を介して他の脳啜りと共有しています。そのため、脳啜りを倒したとしても……」

「他の脳啜りが引き継ぐ、というわけか」

「そうです。ですから、あなたが対峙している個体を殺したとしても、また別の個体があなたを追うことになります」

 魔女は大きく息を吐いた。

「こりゃ、厄介だね」

「しかし、そうでもないんです」

 魔法使いは本棚から一冊の分厚い本を取り出した。

「文章は書き写していますが、図版は写せなかったもので。今お見せします」

 本を開くと、図版化された構造図のようなものがそこにはあった。中央に渦巻き模様が無数に描かれた円形の物体があり、その八方にタコの頭を持つ人物像が描かれている。

「脳啜りが自分の記憶を祖脳に移すには、祖脳の近くにいかねばならないのです。もしくは、祖脳を呼びます」

「ということは……」

「祖脳を呼ばせるのです。半殺しにして」

 魔法使いは指を立ててウィンクした。魔女はくくっと笑う。

「この図をもらっていくよ。ウチの魔法担当にも見せたい」

「いえ、これはさすがに」

「いや、大丈夫だ」

 魔女はバッグからデジカメを取り出し、本の図版を撮影した。

「それもマリンコの?」

「ああ。『カメラ』という、風景を切り取って記録する道具さ」

「すごいですね」

「マリンコは魔法を使えなかった。その代わりのものさ。魔法も科学技術もいかにして使うかだ。それがわからなければ、無いのも同じさね」

 魔女はデジカメの画面を見せて、どのように記録されているかを示した。魔法使いは感心の声をあげる。

「これがあれば、魔法の書をわざわざ書き写したりしなくても済みますね」

「いや。大切なものは自分の手で書くべきだぞ」

「これは一本取られたようで」

 エルフがハゲ頭をペチンと叩く。魔女は笑った。

「また、いろいろと調べてもらうさ。あと、薬の調合もな」

「いただいた薬を調べてみています。こちらで同じような物が作れればいいですが」

「それができたら、子供たちが死ぬのを半分ぐらいは防げるようになる。世界が変わるさ」

「それは……良い事です」

 魔法使いは深々と頭を下げた。魔女は手を振り、小屋を出ていった。

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