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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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死"塔"遊戯

 その塔は、ある日突然村はずれに現れた。高い石造りの塔は不気味な雰囲気を漂わせていた。

 不審に思った村人は傭兵を雇い、塔の探索を依頼した。だが、傭兵たちは塔を守るモンスターに阻まれ、塔の正体を暴くことはできなかった。困った村人は金を集め、北の森の魔女に依頼することにしたのだった。

「あれが、その」

 ボルトは村はずれの小高い丘に建つ塔を見上げた。突然現れたのに苔むした表面の、5段の窓を持つ石造りの塔だった。窓が階に対応しているとしたら5階建てであり、1階分はそれなりの高さがあることになる。

「覗いてみた傭兵によると、デカい怪物がいたそうだ」

「どこまで上がったんですか?」

「1階で跳ね返されたそうだ」

「役立たずが」

 ボルトはへっと笑った。

「ウチらも勝てない相手かもしれん。そこんとこを考えるんだな、ボルト」

 魔女はボルトの頭をゴチンと叩き、HMMWVの座席からM14を取り上げた。それぞれも座席や荷台から装備を取り上げる。ラチェットが動甲冑に乗り込み、大剣を手に取る。

「今回は建物内だ。.50(重機関銃)の援護は無い」

「グレネードも使えないですね」

 ナットはいつもの6連装グレネーダーの代わりにM249軽機関銃を携えている。いつもの火力には及ばないが、それでも十分な威力がある。

「いくよ」

 いつものようにボルトが先頭に立つ。開けた野外ということもあり、互いに距離を取って歩いた。塔以外からの攻撃や伏兵がいないとも限らない。周囲に目を向け、時々大きく振り返ったりもする。

 塔が近づいてきた。窓から射撃武器や魔法での攻撃があることも考えられた。ラチェットは盾を構え、いつでも魔女を援護できる位置に移動する。後方はリベットが守っている。

 塔まですぐのところで止まり、ボルトとレンチが前に進む。塔の入口は分厚い木の扉で閉じられている。話によると罠や鍵の類は無い、とのことだった。それでもボルトはそれらを調べる。

「よし」

 ボルトがレンチにうなずく。ボルトがドアを小さく開け、レンチがドアの下を持って大きく開く。ボルトが中に転がり込む。

 M4の銃口を上下左右に向け、部屋の中を見回す。塔の1階は塔の外見と一緒の円形の部屋になっており、真ん中に上へと続く階段がある。部屋の中に特にモンスターはいない。ボルトは後ろに合図する。

「話と違うじゃないかい」

 魔女が部屋を見回して言う。ナットが窓戸で閉じられている窓に向かう。リベットが中に入ると、その後ろでドアがバタンと閉まった。全員の視線がリベットに向く。リベットは自分はドアを閉めていない、というジェスチャーをする。

「来るよ」

 魔女が部屋の真ん中に向き直って言った。階段の前の空間がじわりと揺れ、そこから巨大な蛙のような姿の怪物が姿を現す。後ろ足で立ち上がった蛙は、口を大きく開け、吠える。

 銃口と大剣が上がる。そこに割って入ったのがリベットだった。

『ここは我に任せてください。皆さんは先に』

「そうだね。相手は腕の良い魔法使いの可能性が高い。時間を与えないほうがいい」

 魔女はボルトに顎で合図した。ボルトとレンチがダッと蛙の横を駆け抜ける。蛙がそれに反応し、顔を向ける。

『あなたの相手は、我です』

 そこにリベットの一撃が放たれた。頬にざっくりと爪がめり込む。

「任せたぞ、リベット!」

『わかっています』

 ボルトを先頭に皆が階段を駆け上がる。リベットはそれを見送ると、前肢を大きく広げ、顎をカチカチと大きく鳴らした。爪を拡げ、相手を威嚇する。蛙の化け物は、それに向かい、吠えた。

 階段を駆け上がり、2階へと転がり込む。

「今度はなんだっ!?」

 2階も1階と同じような円形の部屋であり、同じように中央に階段があった。その前に1体のアイアンゴーレムが鎮座していた。ゴーレムは一行が足を踏み入れると、目にあたる部分に光が点った。機械的動きで立ち上がり、腕を前に突き出す。

「さて、と」

 ラチェットが一歩踏み出すが、それをナットが制した。

「大丈夫?」

 その問いに、ナットは背中のハバーサックを示した。

「行くよ」

 何かを悟った魔女が先に進むように促す。

「気をつけろよ」

 兄の声に、弟は親指を上げて応えた。皆が階段を駆け上がっていくと、ナットはサックの中からジャベリン(FGM-148)を抜き出した。

「さて、3階は、と」

 ボルトが覗き込むと、そこには巨大な両刃剣で床を鳴らす鎧で身を固めたファイアージャイアントの姿があった。

『次はあたしね』

 ラチェットの動甲冑が大剣と盾を構えて前に進む。

「まかせた!」

 3人が走る。ジャイアントはそれをあえて見逃すようなそぶりを見せ、ラチェットに向き直った。グレートソードを構える。ラチェットは唇を舐め、武装を構えた。

 階段を駆け上がり、4階へと登った。その瞬間、鉤のついた数本の鎖が飛来した。ボルトはそれを寸ででかわし、横に転がり、銃を構える。

 部屋の真ん中に身体中に鎖を巻き、両手から数本の鉤のついた鎖をぶら下げた巨躯のヒューマノイドがいた。頭にも鎖が巻かれ、その表情はわからない。部屋の壁にも無数の鎖がさがっている。

「ここは一筋縄じゃ行かないようです」

 ボルトが魔女に言う。

「ここは私たちが」

 レンチがMk48(軽機関銃)を腰だめにして前に進む。ボルトもM4の銃口を上げた。

「上で会おう」

 魔女は二人に告げると、階段を登った。鎖男が魔女を見る。

「よう、変人。相手はこっちだ」

 ボルトが挑発の声を上げた。鎖男は両手の鎖を鳴らし、ボルトとレンチの方に向き直った。

 階段を上がると、下とは全く雰囲気の違う部屋に出た。壁には本棚が並び、奥には机もある。その前に部屋の主がいた。太ったエルフの男だった。突き出た腹をローブで隠しているが、隠しきれていない。

「よくお越しくださった。北の森の魔女殿」

 魔法使いはそう言った。


 リベットは蛙の怪物に、真正面から突っ込んでいった。蛙は大きく口を開き、目にも止まらぬ速さで分厚く長い舌を飛ばしてきた。ぐるんとリベットの頭に舌が巻き付く。リベットはその舌を大顎で噛みつき、そのまま開いた口目掛けて突進した。

 前肢の爪が蛙の頬を引き裂く。絶叫を上げる蛙の懐に入ったリベットは腰を落として力を貯めると、必殺のサマーソルトキックを放った。


 起動したアイアンゴーレムの姿を見たナットは、素早くジャベリンを構えた。信管の安全距離設定を切り、そのまま発射する。キャニスターを飛び出したミサイルは、アイアンゴーレムの胸に衝突し爆発した。損害を受けたゴーレムは二三歩下がり、関節からオイルのようなものを噴き出している。ナットはバッグからもう1基のジャベリンを取り出し、構え、撃った。


 咆哮を上げて突進してくるファイアージャイアントに対し、ラチェットは避けもせず、そのまま真正面から挑みかかった。最初の剣撃を盾で受け、大剣を振る。ジャイアントはその大きさからは考えられない素早さで飛びのき、回転して体重を乗せた一撃を放ってきた。ラチェットはそれを盾で受けてから、わざと盾を放した。盾の支えを失ったジャイアントはバランスを崩したたらを踏む。

 そのチャンスに、ラチェットは秘密兵器を用意した。動甲冑の腰に装備していた巨大なハンマーを左手で抜き、ジャイアントに向けてサイドスローで投げつけたのだ。回転しながら飛んだハンマーはジャイアントの頭に直撃し、その瞬間、強烈な雷撃が部屋中を走り、雷鳴が轟いた。


 ボルトとレンチは、絶叫と爆発音と雷鳴を聞いた。

「どうやら優勢のようだ」

「そのようね」

 ボルトとレンチは左右に散った。鎖男がそれに反応し、左右の手から鎖を放つ。ボルトとレンチは前転したり、身体を回転させてそれらを避ける。その動きの中で、射弾を鎖男に向かって放った。銃弾は身体の表面の鎖に当たって火花を放つが、いくつかが鎖の輪を抜けて皮膚にめり込んだ。

 鎖男が何やら叫ぶと、壁の鎖が一斉に動いた。鎖の輪に棘が生え、それが天井や床に向かって伸びる。ボルトとレンチの姿がその中に見えなくなる。部屋中が鎖で満たされ、誰もそれをかわすことができない必殺の罠のように思えた。

「まぁ、こんなとこだ」

「たしかに、すごい」

 鎖男は、ボルトとレンチの姿を見てぎょっとした。壁から放たれた鎖が、見えない壁に当たって2人の身体には届いていなかったのだ。ボルトはキューブの刻印を押して、障壁をキャンセルする。空中にとまっていた鎖が音を立てて落ちる。

「問題は、刻印を押し間違えないことだ」

 ボルトとレンチは銃口を上げ、鎖男に連射を叩きこんだ。



「おまえがこの塔の主、というとこかな?」

「そうです。あなたのような方を迎えられて光栄です」

 魔女は煙草に火をつけ、ふっと煙を吹いた。

「で、何をしてるんだ?」

 魔女の問いに魔法使いは答えた。

「長年の夢を叶えるんですよ! 塔を建て、誰にも邪魔されずに魔法の研究をするんです!」

「村の連中が怖がってる」

「そんなのは気にしません」

「討伐されるぞ」

「下のモンスターに勝てる者はそうはいませんよ」

 その時、下から悲鳴と爆発音と雷鳴と重なった銃声が聞こえてきた。

「そうでもないようだね」

 魔女はM14を構えた。

「さて。命をもらおうか」

 魔法使いが動くより速く銃弾が飛んだ。銃弾は男の額まで飛んだが、徐々に速度が落ち、肌に当たる寸前で止まった。

「はぁ……よかった。護符のおかげです」

「なるほど」

 魔女は銃口を下げるとスッと足を進めた。魔法使いは手から何やらを投げつけると、呪文を唱えた。

「!」

 不意に魔女に無数のバッタが群がった。余りの数に前が見えないほどだった。バッタは周りを飛び交い、身体にまとわりつくとガジガジと齧ってくる。魔女は銃で払いのけながら、前転して壁まで移動した。ほっとする間もなく、魔法使いの指先から青白い光が飛んだ。とっさにM14を振り上げ、それを受ける。一瞬でM14が凍りつく。

「やるじゃないか」

 魔女は笑うと、銃を捨て、低い姿勢で魔法使いに突進した。バンッという衝撃が走った。魔女は見えない壁に衝突して、床に転がった。それを見た魔法使いがほっと息を吐く。

「…………」

 魔女は膝立ちになり、射るような視線を魔法使いに向けた。曲げた口元で煙草が動く。そのまま人を殺せるのではないかと思える視線に、魔法使いは震えあがった。机の上やローブのポケットのまわりを手が動き、いろいろなものが床に散らばる。それは魔法に使う触媒の類だった。焦って手につかないのだ。その滑稽な姿に、魔女は思わず肩の力を抜いた。

「なにしてんだい。そんなのでよく生き残れたね」

「戦闘は仲間やモンスターがやっていたもので。えーっと、これがあれで……いや、これは……」

 魔女は半分呆れながらも、相手の実力を評価していた。自分に対しての対応や、下で待ち受けていた強力なモンスターを統べることができることなど、目の前の男の腕は半端なものではない。惜しい、と思った。

 そこで、魔女はポケットから黒い布を取り出した。そして、ぱっとそれを床に広げた。

「えっ……あっ!」

 黒い布は穴に変わった。そこに魔法使いが転落する。魔女は布を引き寄せ、ぱたぱたと畳む。

 2本目の煙草に火をつけ、ふーっと大きく吸う。時計に目をやり、とある時間に達すると、布をまた床に広げた。

「ぶはーっ」

 穴の中の魔法使いが大きく息を吐き、そして吸った。

「降伏するかい?」

「だ、誰が、ま、まだ手はあるぞ!」

 魔女はまた布を畳んだ。煙草に火をつけ、吸う。時計に目をやり、またある時間が経つと、布を拡げた。広がった穴の中の魔法使いが大きく息を吐き、吸う。

「こ、このなかじゃ、こ、呼吸するく、空気がっ!」

「こっちは続けてもいいんだが」

「中には音も光も無いんだっ! 気が、気が狂う!」

「じゃあ、また」

 布を畳もうとする魔女に、魔法使いは叫ぶ。

「わ、わかった。降参する! だから、もう、もうやめてくれっ!」

 魔女は紫煙を吐くと、魔法使いに手を差し伸べた。

「じゃぁ、停戦だ」

 魔法使いは魔女の手をとり、穴の外に出て、床に転がり、大きく息を吐いた。



「そういうわけだ」

「見た目とは裏腹ですね」

 ボルトは床にへたり込んでいる小太りの男を見て言った。ボルトとレンチが戦っていた鎖男は一種の悪魔で、魔法使いが降参した後に、別次元に送り返された。蛙の怪物は真っ二つにされ、ゴーレムは残骸に、ジャイアントは頭を割られていた。

「殺すには惜しい人材さね」

「か、勘弁してください」

 魔法使いは床に手をつき、頭を下げている。ナットもラチェットもどうしたもんかい、という顔をしている。リベットは興味が無いのか窓の外を見ている。

「そうさねぇ……」

 魔女はぽりぽりと頬をかき、しばし考えていた。そして、言った。

「わたしの言いつけを守れるかい?」

「は、はい。死ぬ以外でしたら、なんでも!」

「この塔は消せるかい?」

「は、はい。すぐにでも」

「じゃぁ、塔を消したら、わたしが言う村に行き、そこで薬師になれ」

 魔法使いがなにごと、と顔を上げる。そこに魔女が顔を寄せる。

「村人のためにその知識を使うんだ。そして、わたしが知りたいことを教えろ」

 魔法使いは顔を回し、部屋の中にいる面々の様子を見る。皆、魔女の申し出に不思議そうな顔をしている。

「悪事を働いたら、すぐにあんたの命をもらう。わかったかい?」

 魔女の言葉に、魔法使いは床に額をこすりつけて返事をした。

「さて、一件落着といったとこだね」

 魔女は拍子抜けしている面々を見て、両手を広げ、肩をすくめた。

 

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