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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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「智慧の支配者」の部屋で

 爆発音とともに分厚い金属の扉が吹き飛んだ。爆煙とともに転がり込んできたダークノームやダークドワーフたちが、銃撃によって倒される。

「手間かけさえやがって」

 空のマガジンを振り落とし、ボルトは新しいマガジンを装填する。

「って、ここは……」

 その部屋はそれまでの洞窟とは違っていた。壁は小さな方形に切り取られ、それらが段を成していた。壁のあちこちには魔法の灯りがともり、部屋を明るくしていた。床も平らで、光を反射している。奥には階段があり、それが一段高い場所へと続いている。そこに、部屋の主がいた。

「ノックぐらいしたらどうかね?」

「あんだけの爆発が聞こえなかったのかよ。タコ野郎」

 タコを人の体に乗せたかのうような姿をしているそれ──自らを智慧の支配者(ナレッジャラー)と呼ぶ知的生命体は、ボルトの軽口を片手でいなした。

「聞コエナイ、聞コエナイ!」

 智慧の支配者の周りを、羽根を生やした小さな生物が走り回る。使い魔のたぐいであろう。

「こちとらはやくおまえをぶっ殺して、温かい飯と寝床としゃれ込みたいんでね」

 半分外れた扉をくぐり、魔女がやってくる。M14を肩にのせ、煙草に火をつける。

「お初におめにかかるよ」

「こちらこそ。ようこそ、北の森の魔女」

 智慧の支配者は頭の下部の8本の触手を動かしている。どうやら喜んでいるようだった。

「ないぐろっど様ノ前デ頭ガ高イ、頭ガ高イ」

「それがあんたの名前か、脳啜り(ブレイット)

「いかにも。余は智慧の支配者──余はナイグロッドと自称する」

「へぇ……そうかい。けったいな名前だね。脳啜りの分際で」

「まぁ、いいでしょう。ところで、扉の前の部屋にいたキュプロクスはどうしました」

「殺した」

「バジリスクとコカトリスは?」

「殺した」

「地鮫もいましたが」

「みんな殺した」

「ミンナ死ンダ! ミンナ死ンダ!」

 使い魔がナイグロッドの周りを飛びながら、金切り声で叫ぶ。

「さて、残りはあんた一人だね。そのちびも数に入れたら二人だ」

 魔女の前にボルトとレンチが進み出て、片膝をついてナイグロッドに照準する。魔女の脇にはラチェットとリベットが立つ。後ろはナットが守っている。

「こっちは6人。分が悪いんじゃないのかい?」

「それはご心配なく。それと……」

 ナイグロッドが指を差す。その先にはリベットがいる。

「どうやら異世界のお客人もいるようだ。そちらの脳も味わわせてもらおうか」

 リベットが歯を鳴らす。翻訳機も翻訳できないほどの悪態をついているようだった。

「ところで……」

 魔女は煙草を吹き捨てると、新しい煙草に火をつけた。ゆっくりと吸い、紫煙を吐きだす。

「わたしの脳みそに興味があると聞いたけど、何が欲しいのかね?」

 ナイグロッドは触手をくるくると動かして応えた。

「その頭の中には、おまえたちが『地球』と呼んでいる惑星に関する知識が入っている。余は、その世界に興味がある。ゆくゆくは次元を渡り、その地球とやらに手を伸ばそうと思ってな」

 ナイグロッドは近くのテーブルに手にしていたスクロールを置き、階段の手前まで足を進めた。

「聞くところでは、魔法とは違う『科学』というものが発展しているそうではないか。おまえが持つその道具も、その科学によって作られたと。その科学を余は欲している」

「ああ、そうかい。残念だけど、あんたはその科学に敗れるんだよ。わたしを狙った、他の連中と同じようにね」

「同ジヨウニ! 同ジヨウニ!」

 ナイグロッドは触手を震わせた。笑っているのだ。

「そう簡単に行きますかね?」

「そうは思っていないさ」

 魔女はM14を構えた。そして引き金を引いた。飛んでいる使い魔の眉間に穴が穿たれ、使い魔は床に落ちる。

「さっきからうるさくてね」

「それは同意する」

 ナイグロッドは右手を上げた。すると、階段までの床面の6か所の方形が光を帯び、そこに下から何かが上がってきた。金属の鎧を着た騎士だった。方形が床に達すると、騎士の目が赤く光り、顎が上がる。

「こちらも相応の用意はしてあってな。ただではたどりつけんよ」

「さて、わたしを捕まえてごらんよ」

 ボルトとレンチが発砲する。騎士は盾を構えて銃撃をブロックする。後ろからラチェットが跳び、騎士の盾に大剣を撃ち込む。盾を弾き飛ばされた騎士に、ラチェットは横殴りに大剣を叩きこむ。が、それは騎士が大剣の側面にパンチを当てて受け流す。

「なかなかやるなっ!」

 ラチェットは唇を舐める。相手は6体いる。この壁を崩し、ボルトとレンチを前進させるのが、ラチェットの役目だった。大剣を振るい、騎士たちに挑みかかる。

「こいつら……ゴーレム?」

 ラチェットは相手が生身では無い事を悟り、それを皆に知らせた。ゴーレムともなれば、攻略するのはそれ相応の時間と装備が必要となる。しかし、今は階段の上の脳啜り一体を殺せばいいのだ。と魔女は考えていた。

 ナットが不意に口笛を吹く。魔女が振り返ると、扉の向こうからダークノームとダークドワーフの一団が姿を現したところだった。鉱脈探しや迷宮で作業していた者たちが、おっとり刀で駆け付けたようだった。魔女はリベットに指示を出す。リベットは身をひるがえすと、黒い風となって後ろからやってくる一群に向かっていった。

 ボルトはM4が有効打を与えられない事を知ると、ホールディングバッグ(底なし袋)からAT-4(対戦車無反動砲)を引き抜いた。同じようにレンチもAT-4を構える。

「準備よし」

「こっちも」

 2人はほぼ同時に発射ボタンを押した。後方から盛大に塩水が発射され、反動を相殺する。飛び出した成形炸薬弾が騎士の一体に同時に着弾する。さしもの騎士も鎧に穴を穿たれ、片膝をつく。

「行くぞ!」

 その隙をついて、ボルトとレンチが騎士を乗り越えて、騎士の壁の抜ける。

「待たせたな、タコ野郎!」

 ボルトがM4を構えて銃撃する。弾頭が続けざまにナイグロッドの体にめり込んだ。

「な、なに……?」

「効いてない……」

 ボルトとレンチは愕然とした。鎧の類もつけてない脳啜りに弾を防ぐ手段は考えられず、現に弾が身体に吸い込まれるのを見た。

「どういうカラクリだ!」

 ボルトとレンチは銃を構え、発砲した。ナイグロッドはそれらの銃弾は意に介さず、呪文を唱えた。空中に現れた魔法の矢がボルトとレンチを襲う。打撃を受けた二人は転がり、床を滑ると壁に激突した。

「大丈夫か?」

「なんとか」

 ボルトは素早く膝立ちすると、脳啜りに向かって銃撃をくわえた。確かに当たっている。が、脳啜りは平気な顔をしている。

「メム!」

「ラチェット!」

 通信を受けたラチェットは戦闘の真っただ中で、脳内を検索した。そして一つの答えを見つけた。

『シールドガーディアン! シールドガーディアンよ! アミュレット(護符)の持ち主が受けるダメージを代わりに受けるという』

 ラチェットは騎士の一撃を盾で受け、大剣をめり込ませる。

『ダメージを代わりに受けるこいつらも戦闘に使えるという、便利な存在だよ』

 魔女はふむんと唸った。ラチェットの説が正しければ、この騎士全員を倒さなければ、脳啜りに有効打を与えられないことになる。非常に不利な状況であることがわかった。

『この6体を倒さないと……本体は死なない、というわけ──』

 ナットが矢継ぎ早にAT-4を騎士に向かって撃ち込んだ。騎士=シールドガーディアンも、アイアンゴーレムと同等の耐久性を持っているらしく、数発のAT-4では倒すことができなかった。魔女は冷や汗が流れるのを感じた。

 リベットが後方の敵をほぼ殺し終え、魔女の横にやってくる。

「あの金ぴかのをやるんだ」

「了解しました」

 リベットは飛び上がると、騎士の一体に組み付き、床へと押し倒す。そして両方の爪で頭を引き裂きはじめる。

「マジかよ……」

 ラチェットの言葉を聞いて、ボルトは自分ががくりと肩を落とすのを感じた。バッグの中のAT-4もそんなに数があるわけではない。が、手にしたライフルが騎士にはまったくと言っていいほど効かないのだ。

「ボルト! 聞いて」

 そんなボルトにレンチが発破をかける。

「身代わりになるというのなら、本体を攻撃し続ければ、そのガーディアンと言うヤツも許容量を越えて……」

「そうかっ、それだ!」

 ボルトは銃を構えなおすと、ナイグロッドに再攻撃した。ナイグロッドは呪文を唱え、空間が爆発する。ボルトとレンチは床を滑っていく。

 運悪くレンチは階段の下に転がってしまった。壁にあたったボルトが叫ぶが、その間に騎士の一体が割り込んだ。

 その様子を見ていたナイグロッドは、レンチの姿を確認すると、階段をゆっくりと降り始めた。レンチはHK416を構え、銃撃する。弾が当たるとのけぞるのだが、ダメージはまったく受けていないようだった。弾が尽き、レンチは拳銃を抜いた。そして、すぐそばまで近寄って脳啜りに最後の打撃をくわえた。

「さて、魔女の家畜は何を知っているのかな?」

「家畜じゃないわっ!」

 レンチは脳啜りの口が開くのを見た。円形をした口の周りの触手が伸び、頭を覆う。

 ガチンという音がした。ヘルメットに歯が当たったのだ。触手はヘルメットを外そうと隙間に潜り込む。さらに耳の中や口腔にも滑り込んでくる。

 レンチはおぞましいものが口や耳に入ってくるのを感じて悲鳴をあげ、触手をつかみ、ジタバタと足を動かした。だが、その悲鳴は喉一杯に広がった触手によって塞がれてしまった。

「ぼ、ボル……」

 レンチの身体が力を失い、脳啜りの腕の中でだらりと垂れ下がった。

 その様子を見ていたボルトは怒りに身体を震わせた。目の前の騎士に銃弾を浴びせる。騎士はそれを気にせずに前進してくる。すると、黒い影がボルトの前に立ちふさがった。

「ここは我にまかせて。行ってください、ボルト。彼女を救えるのはあなただけです」

 リベットは騎士の腕をとると、力いっぱい振り回して、壁に激突させた。道が開けたボルトは奔った。

「俺の女にきたねぇ手で触るんじゃねぇ!」

 ボルトの銃撃が脳啜りの頭部を連打する。さすがの脳啜りも、膨れた後頭部を撃たれてただでは済まなかった。大きくのけぞり、からんでいたレンチを床に落とした。

「れ、レンチっ!」

 ボルトは走るとスライディングし、倒れているレンチの横に滑り込んだ。ヘルメットは半分噛みちぎられてはいたが、頭に傷は無かった。口に手をかざし、呼吸が無いことを確認すると、胸を何度も大きく叩いた。げふっという声とともに、粘液の塊が口から飛び出してきた。荒い呼吸が戻る。

『レンチはどうだい!?』

「戦闘不能!」

 ボルトはレンチを肩に担ぐと、銃を手に取った。

「逃がしません」

 ナイグロッドは態勢を立て直すと、呪文を唱え始めた。そこに魔女からの銃弾が飛ぶ。両目を撃たれたナイグロッドは眼を伏せ、ダメージが消えるまで間喘いだ。

 魔女は戦況を見ていた。2体の騎士を倒したが、こちらも一人分の戦力を失っている。重火器も少ない。このまま戦闘を続けるのは不利であった。

「──撤収する!」

 魔女の声にボルトたちはざわついた。それは、今まで無かった命令だった。無敵とも思えた分隊(スクワッド)が撤退するというのだ。

 しかし、そこは身体に刻み付けられた本能にも近い戦闘技法が動いた。ラチェットとリベットが壁を形成し、魔女とレンチを担いだボルトを守る。魔女はバッグから羽根ペンを取り出すと、空中に起点を差し、対角線上にペンを動かして、ディメンションドア(空間移送扉)を作る。ナットはザックから出した爆薬で簡易爆弾を構成する。

 最初にボルトとレンチがドアを潜った。次に魔女が続き、リベットが入り、振り返ってその前肢で援護する。その隙間にラチェットとナットが滑り込み、ドアが閉められた。閉まると同時に向こうで爆薬が爆発した衝撃がわずかに伝わってきた。

 皆は小屋の中にいた。何が起こったのか、数瞬理解できていなかった。すぐに立ち直ったのはリベットだった。すぐに小屋を出て、小屋の周りに怪しいものがいないかを探る。続いてラチェットが小屋を出ていく。

 ボルトは、ぐったりとしているレンチをソファに下ろすと装具を外しはじめた。レンチは呼吸はしていたが、意識が無かった。魔女が瞳孔反射を見る。

「──大丈夫。気絶してるだけさね」

 魔女は半裸になったレンチを担ぎ上げると、風呂へと向かった。そしてシャワーを全開にしてレンチの身体の隅々を洗った。脳啜りの体液を流し去るためだった。

「げほっ……ここは……」

 途中でレンチが覚醒した。魔女は大丈夫だと声をかけ、レンチに何度も水を含ませ、そして吐き出させた。レンチは自分が何を経験したのかを思い出して身体を震わせた。魔女は流れ落ちる水の中で、レンチを強く抱きしめた。


 北の森の魔女の「敗北」。

 それは皆の心に大きな傷を残した。


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