皆殺しの歌を歌おう
目の前に立つ耳が長く鼻梁の無い、黄緑色の肌の人型生物。金属鎧を着こみ、腰に剣を下げている。それを見て、その者たちがそれなりの文化を持っていることが見て取れた。
魔女は片手をあげて、皆を制した。ボルトたちは銃口を下げたが、トリガーにかけた指は外さなかった。
「北の森の魔女と見るが」
黄緑色の肌の者は、標準語で再び言った。その者たちは「ギメヌ」という魔族であった。かつてはエルフであったが、神々の戦いの後、敗れた信奉する神と共に地に潜ったのである。その後は、智慧の支配者の支配下におかれ、エルフであった事も忘れ去られていた。ただその耳に血の流れを残すのみである。ギメヌたちは、智慧の支配者の命じるままに足長たちの村や、冒険者の一団を襲い、その脳を献上することで生きることを許されていた。
魔女は自分の前に立つ者が、この群れの長であることを感じ取った。長の背後でギメヌたちが円を描くように魔女たちをゆっくりと包囲していく。ボルトたちはそれに合わせて、背中合わせになって全周を向く。
「まぁ、そんなとこだね」
魔女はM14をかつぎ、煙草に火をつけた。そして紫煙を長に向かって吐きかける。長は目をしばたいて、煙を手で払った。
「そっちは脳啜りの番犬かな? 洞窟の中にいたデブと生臭い魚と一緒の?」
ギメヌ達がざわついた。今までこのような口を聞くものには出会った事がなかったのと、その支配者と同様に自分たちが選ばれた者たちである、という自負があったからだった。
長はギリッと歯を鳴らしたが、魔女の方を向き続けた。
「魔女であるならば、我が主の下に迎えよう」
「それは自分たちでやる。道をあけろ」
「それはできぬ」
「はぁ?」
魔女はわざとらしく首を傾げた。長が続ける。
「主の下に迎えるのは、北の森の魔女だけだ。手下たちはここから去るのだ。手下の命は助けよう」
「手下って言いやがったな」
ボルトがささやく。背をあずけているレンチが肘で抑えるように言う。
「そうかい。それはできかねるね」
魔女はM14を左手で持ちかえると、右手を上げた。その手には、いつ抜いたのかもわからないほどの速さで抜いた、.45があった。そして、銃口をこめかみに当て、煙草をくわえる口元を曲げて見せた。
「な、なにをする」
「あんたらの目的はわたしの脳みそだ。主の下に、あんたのミスでそれを届けられなかったらどうする? 地べたにぶちまけられた脳みそをすくって持って行くかい?」
魔女は凄惨な笑みを浮かべた。
「この中で確実に生き延びることができるのは、わたしだけだ。誰もこの頭を砕くことはできないのだからな」
こめかみの銃口をさらに押しつけて見せる。
「あんたの主は、わたしのこの頭の中身を必要としている。死んでいてもいいらしいが、生きている状態の方がいいに決まっている。あんたはどうするつもりだ? わたしがこの引き金を引く前に、わたしを殺せるのかい?」
長の顔が歪んだ。今すぐにでも弓兵に合図し、魔女を殺そうと逡巡したが、その前に魔女が拳銃の引き金を引くのは確実である。そんなことを許したら、自分たちは智慧の支配者によって皆殺しにされる未来しかない。
そんな長の気持ちをつかんだのか、魔女は一歩歩を進め、長の間近に迫った。長の顔目掛けて紫煙を吹きかける。
「わかったのなら、道をあけろ。脳啜りに皆殺しされるか、わたしらにそうされるか?」
「……この気狂いめが」
「前からそう言われてる」
魔女は少し顔を動かし、ボルトにウィンクを送った。それを見たボルトが魔女の意思をくみ取る。
「構えろ」
ボルトが銃口を上げる。それに合わせて、レンチも銃口を上げた。周囲のギメヌたちは、弓や剣を構えてこちらの様子をうかがっている。
「今欲しいものがある」
「なによ、こんなところで」
「そんなんじゃない。欲しいのは『きっかけ』だ」
「きっかけ?」
「相手に先に手を出させる。しかも、へっぴり腰のな。対峙している場合は、先に手を出した方が負けだ」
緊張が辺りを包んでいる。こめかみに銃を押しつけている魔女は、笑いながら煙草を吹かしている。対する長は返事を探っている。周囲のギメヌたちも、どうすればいいのか迷っていた。しかし、ボルトたちは何をすればいいのか理解していた。
ナットはグレネーダーを肩づけし、ラチェットも.50を構える。リベットは静かに前肢を拡げた。
レンチは流れる汗を感じていた。しかし、背中合わせのボルトとともに姿勢を維持したまま動かない。
「さぁ、道をあけな!」
魔女の大声にびびったギメヌの一人が、反射的に矢を放った。緊張で震えていたのか、びっくりしたのか、矢は魔女をかすめただけだった。しかし、それが合図となった。魔女は.45を長に向けると、胸に2発、頭に1発の銃弾を叩きこんだ。
血を吹きながら長が地面に倒れる前に、ボルトたちはトリガーを引き絞っていた。銃声が響き、ギメヌたちが倒れる。リベットが跳び、背後にいた数人をその爪で切り裂く。
ラチェットは.50の銃口をあげると、木の上にいる弓兵に対して銃撃を浴びせた。ギメヌ達も鎧は着ていたが、薄い金属製の鎧では.50の圧倒的は破壊力を受け止めることはできなかった。次々と上半身に大穴を開けられて地面に落ちる。ナットもグレネードの連射を横殴りに叩き込んだ。爆圧で剣も持って殺到しようとしたギメヌたちは吹き飛び、肉片をまき散らしてバラバラになる。ナットは薬莢を排出すると、グレネードを装填する。
矢がまとまって飛来した。元エルフだけあってか、弓の精度は高かった。数本がボルトの背中に突き刺さる。
「ボルト!」
「気にするな。自分の仕事をしろ!」
レンチの声にボルトは応える。
「こいつはライフル弾も防ぐ。矢ぐらいでは貫通しねぇ」
ボルトは銃口を、自分を撃ったのになぜ動くのかと驚愕しているギメヌに向けるとトリガーを引いた。銃弾が飛び、弓兵が後ろに吹っ飛ばされる。
数人が弾幕を抜けて斬りかかってきた。それにラチェットが応える。.50の銃身で剣を受け止めると、動甲冑の右肘を振り抜いて弾き飛ばす。態勢を立て直すと同時に至近距離で.50を発砲。相手を粉砕した。
長を欠いたギメヌの攻撃はまとまりが無かった。さらに浮ついた時に逆襲されたため、勇敢さも無かった。一方的な攻撃を受け、連携を取れぬままそこここで孤立し、銃弾で命を奪われていった。
魔女はその光景を、銃も構えず、新しい煙草に火をつけながら見ていた。ボルトとレンチの射撃は的確で、おっとり刀で攻撃してくるギメヌを確実に撃ち倒していた。ラチェットとナットの射撃は破壊的であり、ギメヌらの住居である曲がった大木に相当のダメージを与えていた。リベットは背後を守りつつ、近づくギメヌをスライスしている。
ナットのグレネードで曲がった大木の枝に火があがった。エルフの習性を残すギメヌにとっては、その大木は神聖かつ種族を残すためにも重要なものであった。あわてて火を消そうとする者と、戦闘を続けようとする者たちが枝の上で交錯し、そこにグレネードが撃ち込まれる。
パニックが発生した。ギメヌの中で指揮する者がいなくなり、それぞれがてんでバラバラな行動をし始めたのだ。あちこちで走る者がぶつかり、前進する者と後退する者が鉢合わせとなり混乱となった。そこに木が燃える火と煙が拍車をかけた。こうなってはギメヌたちに勝ち目はなかった。
しばらくすると飛んでくる矢も少なくなり、剣を手にかかってくるギメヌもいなくなった。曲がった大木は半分が炎に包まれ、煙を上げている。生き残ったギメヌは距離をとり、物陰に身を隠してこちらの様子をうかがっていた。ボルトたちも射撃を止め、マガジンを交換している。
魔女は.45をしまうと、右手をあげた。親指を天に向け突き上げると、それを地面に向けた。
それを見たラチェットが動甲冑を前進させた。.50の射撃で遮蔽物ごと敵を撃ち抜いていく。ボルトとレンチも、陣地としていた魔女の背後から前に進み、逃げるギメヌに銃弾を撃ち込む。リベットも疾風のように動き、爪を振るう。見逃した敵はいなかった。
ギメヌたちは文字通り皆殺しにされたのである。魔女はあの時に慈悲は捨てていた。立ちふさがる者は誰であれ殺しの対象だった。後ろを進む者たちも同じ気持ちだった。誰一人残さない。それほどまでに思うほど、彼らは憤激し、同時に敵の強さを理解していた。
魔女が四本目の煙草に火をつける頃、銃声がやんだ。ボルトが倒れているギメヌの間を歩き、息があるものに銃弾を撃ち込んでいる。レンチやラチェットも同様に回り、銃剣や大剣でとどめをさしている。ナットは魔女の背後について警戒している。リベットは持ち前の機動力を生かして曲がった大木に這い上がり、そこの生き残りを探していた。
魔女は死んだギメヌの長を見下ろした。おそらく、その眼を通して脳啜りはこちらを見ているであろうと思った。魔女はそれに1発の銃弾で応えた。




