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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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 この世界には「魔族」と言われている存在がいる。これらは、創生神話において、敗れた神の側についていたとされる者たちで、特に特別な力は無いが差別の対象となっていた。代表的な者たちとして、ダークエルフがあげられる。彼女らはエルフの一氏族であるが、肌の色の違いにより区別され、今に至るまでエルフはもちろん、他の種族からも「魔族」として差別され続けている。

 だが、本当の魔族という者も存在した。魔法に長け、邪悪な思想を持ち、世界に破壊と邪心をふりまく者たちである。彼らは世界の外れの人知れぬ場所に住み、召喚されたり、崇拝する者たちに力を与え、陰から世界に介入しているのだった。

 そんな魔族に仕え、その手足となって生きる者たちがいた。それらは創世神話が伝える神々の戦いの際に、実際に敗れた神を崇拝していた者たちである。数千周期も前にその者たちは神とともに地上から地下へと逃れ、今もそこを住処としている。長い年月は地上の者たちとのつながりを切るのに充分であり、その姿や能力を変貌させることになった。

 グリムロックはかつては地上に住む足長であった。しかし、崇拝する神が地上から追いやられた時に、共に地下へと潜った。地下の生活は、暗闇では役に立たない眼を退化させ、その代わりに聴力と嗅覚を発展させた。グリムロックたちはささやき声で話し、匂いで固体を識別していた。その姿はもはや足長のそれではなく、醜悪に太った姿をしていた。

 このグリムロックの氏族は、智慧の支配者(ナレッジャラー)が住む迷宮の入口に住まいを構えていた。智慧の支配者を、自分たちが崇拝する神の一人だと長い間信じているのだった。神のために働き、それを守ることを一番の事だと考えていた。

 その中の一人が嗅ぎなれない匂いを感じた。遠く入り口から漂ってくる匂いは、どこか甘く、鼻の奥にからみつくようだった。それが何かを確かめるため、彼は岩場から身をのりだした。次の瞬間、上半身が飛び散った。

 ラチェットは暗視モードのディスプレイに映る目標に対して、.50(重機関銃)を撃ち込んだ。もはや手加減や躊躇は無かった。自分たち以外はすべて敵であった。

 グリムロックたちははじめて聞く音に恐慌に陥った。連続した破裂音が響くと、仲間が血を吹いて死んでいくのだ。それでも狂暴で破壊的な性格のため退くことはなかった。歯をむき出しにして威嚇の声をあげ、粗末な棍棒を手に、次々と岩場を飛び出していった。

 ラチェットの動甲冑を盾にして、ボルトとレンチが進む。暗視装置に映る人影に向けて銃弾を放ち、地面へと撃ち倒す。倒れた身体にとどめの一撃をくわえ、さらに奥へと歩を進める。

 グリムロックたちは次から次へと挑みかかってきた。しかし、いくら勇敢で頑丈な体を持っていたとしても、魔女たちの攻撃をかいくぐることなど不可能であった。棍棒が届く距離に近づくこともできず、圧倒的な暴力の前に屈することになった。

 百体はいたグリムロックたちは文字通り全滅した。魔女も誰一人生かしておこうなどと思ってはいなかった。倒れたグリムロックを調べ、生きている者には丹念にとどめを差した。魔女たちは怒りに燃えていた。この迷宮の奥底にいる者を許すわけにはいかなかった。

 腐臭と体液の匂いでむせかえるグリムロックの住処を越えると、水をたたえた地下水脈がある所に出た。水脈を越えて道はつながっている。その左側に小さな地底湖があった。

 そこにはもう一つの種族が住んでいた。魚人である。魚人たちも、神代の時代に信奉する神と共に地底へと逃れた者たちの末裔であった。魚人はタコ型の頭部を持つ外なる神を崇拝しており、同じような姿をしている智慧の支配者=脳啜り(ブレイット)を神が顕現したものと信じていた。その神のために、彼らは外敵と戦うことを喜びとしていた。

 薄暗い闇の中でも見える大きな目と、長い牙の生えた口を持つ魚人は、やってきた魔女たちの前に立ちふさがろうと湖から姿を現した。槍や網、ボーラといった、狩りで獲物を捕らえるために使う道具が武器であった。

 数十体の魚人が湖から地上へと這い上がると同時に、そのど真ん中で爆発が起こった。ナットがグレネードを撃ち込んだのだ。ボルトとレンチも手榴弾を投げつける。水中でも爆発が続き、這い上がろうとしていた魚人も、爆圧で内臓にダメージを受けていた。

「情け無用、撃て」

 魔女はM14を構え、ボルトたちに命じた。ボルトたちも銃を構え、的確な一撃を魚人たちにくわえた。魔女ははなから正々堂々な戦いをする気はなかった。銃の最大の力は、敵の射程外から強力な一撃をくわえられることにあった。.50であれば、数百メートル先から人体を破壊できた。ライフルでも、その半分の距離から有効な打撃を与えられる。数も少なく、傷の回復方法にも限度がある魔女たちにとって、これが最善策であった。

 それでも魚人たちは次々と湖から出てきた。彼らにとって、自分たちが全滅したとしても、神を守ることが大事だったのだ。

「くそっ、キリがねぇ」

 マガジンを交換しつつボルトが毒づく。

「ホントに」

 ボルトの脇で側面を守るレンチが応える。レンチは回り込んでくる魚人に対して射撃を行う。

 ラチェットがじりじりと前進していく。.50を撃ち終えるとそれを背中に回し、大剣を抜き放つ。そして横殴りに魚人たちを薙ぎ払った。切断された上半身が壁に叩きつけられる。

 後方を守っているリベットが接近してくる存在に気づいた。最初の襲撃を逃れたグリムロックたちであった。リベットは爪を鳴らしてそれに立ち向かう。

 洞窟の中を銃声と硝煙が満ちる。血しぶきが飛び、死体が転がる。金色の薬莢が宙を舞い、断末魔の声が吐き出される。「血の饗宴」とはまさにこの事だな、と魔女は思った。今まで幾度となく見た光景。自分たちの科学技術が敵を圧倒する姿である。近接戦闘でおいては力となる「数」も、銃の前には意味をなさなかった。むしろ、密集隊形で殺到しようとする方が対処しやすかった。それらの中にグレネードや手榴弾を投げ込めば、多くの者を殺傷できるのである。止まれば、あとはライフル弾を撃ち込むだけだった。

 さしもの魚人たちの動きも絶え始めた。水辺には多数の死体が転がっており、その向こうで外をうかがっているのだった。魔女は土産とばかりに数発のグレネードと手榴弾を湖に放り込んだ。

 水脈を越えたところで小休止した。戦闘の興奮をおさめ、互いの体に怪我がないかを確認する。携帯食を食べ、水分を補給し、弾薬を充填する。

「どこまで続くやら」

 ボルトは大きく息を吐いた。さすがに疲労している。敵地のど真ん中で緊張するなと言う方が間違っている。

「ほら、荷物を一旦下ろして。ブーツも脱いで」

 レンチがブーツとソックスを脱ぎながら言う。白い肌が薄暗い中ではまぶしかった。休める時には、身体のあちこちを締めつけている装備を外し、身体の緊張を和らげることが大事だった。幸い魔女の一行には、疲労と言う言葉を知らないリベットという存在がいる。リベットは魔女たちが休んでいる頭上に位置して警戒している。

 魔女は煙草をくゆらせた。どれだけ進むかはわからないが、それはこの世界にいる冒険者たちも同じである。未知なる迷宮に潜るのはこれが初めての事ではない。メモ帳を取り出し、道のりと起こった出来事を書き込む。

「そろそろ行くとしよう」

 充分な休息がとれたと判断し、魔女は一行に声をかけた。ボルトたちが返事をし、装備を付けなおす。動甲冑が起動し、配置につく。リベットが最後尾につき、ボルトを先頭に道を歩き始めた。

 迷宮は自然の洞窟に、一部手を入れたもののようだった。罠のたぐいが無いのは、脳啜りが思い上がっているのか、信奉者たちがそのようなものに気づかないからだと思われた。ボルトはM4を構え、油断なく先を進む。

「ん?」

 ボルトが警告を発する前に、奥から棍棒が飛んできた。ボルトが咄嗟に身をかがめ、その頭をかすった棍棒をラチェットが盾で防ぐ。

 道の奥から現れたのは2体のトロルであった。脇に置いてあった棍棒をつかみ上げ、威嚇の咆哮をあげる。

「また厄介な奴が……」

 トロルは強度の再生能力を持っている。それを防ぐには傷口を焼くしかなかった。魔女はナットに指示を出す。ナットはグレネーダーに装填していた弾を抜き、サーモバリック弾(焼夷弾)に替える。

 そのための時間を稼ぐため、ボルトとレンチが発砲する。通常弾であっても、損傷させることと、足を止めることはできる。

「膝だ! 膝を狙え!」

 ボルトがレンチに言う。レンチは照準をトロルの膝に変え、トリガーを引く。膝を壊し。突進を防ぐのだ。その脇をラチェットが進む。

 ラチェットの大剣がトロルの肩口から腹までを寸断する。ずるりと上半身が滑り落ちるも、その途中で半身は止まる。再生したのだ。しかし、半分落ちた上半身のため、バランスが保てずにトロルは無茶苦茶な動きをする。

 膝を撃たれたトロルも同じであった。破壊された膝が中途半端に再生してしまい、歩行が難しくなったのだ。

 魔女がM14を構え、トロルの目を狙って撃つ。再生されるとはいえ、視覚を奪うのは時間稼ぎになる。その後ろでナットが再装填を終えた。魔女は先頭で戦う3人に合図した。

 タイミング合わせてラチェットが剣を振るう。首周りに大剣をめり込ませ、そのままえぐるように剣を動かす。あらわになった傷口に、ナットがサーモバリック弾を撃ち込む。傷口を焼かれたトロルは叫び声をあげた。

「後方に射撃集中!」

 魔女は頭部を支えるために棍棒を手放したトロルを無視して、その後方で今にも投擲しようとしてトロルに、攻撃を集中させた。ボルトとレンチの射撃が右肘を破壊し、棍棒が地面に落ちる。それを見たラチェットが、前にいるトロルの腰を薙ぎ払いながら前進、剣を上段に振り上げると、頭から股間までを両断した。

「すげぇ……」

 ボルトがラチェットの剣技を見て、改めてその腕前に関心した。どういうからくりなのかはわからないが、ラチェットはこの動く鎧を操縦して、この技を繰り出しているのだ。

 サーモバリック弾が寸断されたトロルを焼く。半身が離れ離れになったトロルはさすがに動きを止めた。それを確認し、ボルトはレンチに前にいるトロルに矛先を向けるように指示した。腰が再生しつつあるトロルの左膝に射撃を集中する。膝を撃たれたトロルはバランスを崩し、膝をつく。そこにラチェットの振り返りざまの一撃が襲い掛かった。

 トロルの首が飛んだ。首は壁に叩きつけられ、ずるりと落ちる。頭を失ったトロルの体は、自分の頭を探すかのように腕をあげ、何も無い空中を触っている。そこにナットがサーモバリック弾を放った。首の傷口を焼かれたトロルはそのまま前のめりに倒れた。

「まだ生きてやがる」

 転がったトロルの首は、恨みがましく口を開いたり閉じたりしていた。ボルトは銃身下のショットガンを向けると、弾倉内7発のドラゴンブレス弾を全弾撃ち込んだ。燃える塊となったトロルの首は動かなくなった。

「さて、前に進むかね」

 魔女はメモ帳にこの交戦の事を書き込むと、ボルトに進むように言った。


「こ、これは……」

 先頭を歩いていたボルトが思わず立ち止まった。洞窟に出口があったのだ。そこは洞窟の天井が大きく裂け、谷間になっていた。足元には草が生え、奥には歪んだ大木があった。

 そこに人影があった。一人や二人ではない。数十の人影が、大木の上や脇からにじみ出るように現れたのだ。

「ようこそ。北の森の魔女」

 その中の一人が言った。その者は、黄緑色の肌を持つ、鼻の無いエルフのような姿をしていた。


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