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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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その歩みは止まることなく

 深き山への遠征準備は着々と進められていた。ハンディハバーザック(無限の背負い袋)のおかげで、充分すぎるほどの大量の物資を運べる事になり、そこに入れる食糧と水を用意する方が時間がかかるほどであった。

 山と積み上げられたMREやPETボトル入りの飲料水が、ハバーザックの中に吸い込まれるように入れられる。そのすべてを入れても重量は普通のザックと変わらない。予備の武器弾薬や医療品なども入れられた。勢いに乗って、車輛も入れてやろうと試してみたが、それは予想通りできなかった。魔女とボルト、レンチが持つ3個のホールディングバッグ(底なし袋)には、弾薬と予備のライフル、対戦車兵器などが入っている。

 2輌のHMMWVが小屋を出発する。まずは深き山のふもとにある村へと向かう事になった。この村に車輛を置き、あとは徒歩でのアタックとなる。

 魔女は、脳啜りにこちらの動きが察知されていることを確信していた。おそらく、いくつもの待ち伏せや罠を用意してくるであろうと。それなら下手な手を考えずに、真っ向からそこに飛び込んでやろうと思っていた。

 ボルトたちの表情はいつもと変わりがなかった。これまでと変わらず、自信に満ちた顔をしている。決戦への気負いは無いようだった。

 いくつもの村を抜け、川を渡り、峠を越えてHMMWVは走った。途中でハバーザックから取り出した燃料缶から燃料を補給し、旅は続いた。

 そしてついに深き山に最も近い村へと到着した。

 魔女は、村がしんと静まり返っているのが気に喰わなかった。陽は頭上にある。いくら木の伐採や猟で生計を立てている村としても、住民が誰一人外に出ていないはずはない。

 ボルトがM4を片手に車外に出る。レンチが銃座につき、ミニガンのスイッチに指をかける。ラチェットは動甲冑の中に潜り込み、リベットも荷台から地面に降り立つ。

 すると建物のあちこちで動きがあった。戸が開き、村人たちが出てきたのだ。最初は、出てこなかったのは魔女たちの来訪に怯えていたのだろうと思ったが、その手に鉈や弓が握られているのを見て、ボルトは銃口をあげた。

「止まれ! それ以上近づくな!」

 ボルトが警告を発する。しかし人々の歩は止まらない。ボルトは村人たちの眼に光が無いのに気づいた。まるでグールだと思った。しかし陽の光を嫌うグールが、頭上に陽が輝く頃には現れる事は無い。

 ボルトは躊躇しなかった。引き金を引き、もっとも近づいていた村人を撃ち倒す。

 それが引き金になったのか、人々の歩が、駆け足に変わった。

「敵だ! 遠慮はするな!」

 魔女はM14を手にHMMWVから降りる。ナットもグレネードランチャーを手にする。

 矢が飛んできた。ラチェットが盾でそれを防ぎ、その援護下を魔女とナットが走る。

 レンチはミニガンを起動させると、飛び掛かってくる人影めがけてトリガーを押した。人体が発射された銃弾に引き裂かれ、水風船が割れるかのように爆ぜる。

 ボルトの下に魔女とナットがたどり着く。それぞれ背を合わせ、迫る村人に向かって銃弾を送り込む。

「やっぱり罠でしたね」

「ここで来るとは、少し予想外だったがね」

 魔女は走ってくる村人を撃ち倒した。地面に倒れた人影が、しばらくすると起き上がってくる。

「まるでグールさね」

「それは思いました。でも、様子がおかしいです」

 ボルトは弾倉を取り換え、チャージングハンドルを引く。

「グールにしては動きが速いですし、この陽の光の中です。明らかに違います」

 ナットが放ったグレネードが建物の窓扉を貫通し、中で爆発する。

「これも脳啜りの業というわけか」

 魔女は建物を数から村人の数を予想した。戸数から考えられるのは、100人から多くても200人とふんだ。そのすべてが脳啜りに操られているだろう。普通の傭兵なら対処に困るだろうが、魔女たちにはマリンコの技術があった。

 ミニガンの弾雨が敵を薙ぎ払う。レンチは胴体を裂かれた人影が、上半身だけで這い寄ろうとしているのを見た。

「胴体を裂いても死なない!」

 ラチェットやリベットも同じような状況にあった。剣や爪で胴を切り裂いても、敵は上半身が破壊されない限り、突進をやめなかった。

「胸だ。心臓を狙え」

 何らかの方法で不死性を与えられているとはいえ、これだけの速度で人体を動かすには、その動力源となる体液の循環が必要である。スケルトンやグールといったアンデットは、その体液の循環が無いため、動きが鈍いのだ。

 魔女はM14を構え、村人の胸に精確に射弾を送り込んだ。心臓を破壊された人影は倒れ、動かなくなる。

「──!?」

 魔女は倒れた人の頭が割れ、そこから脳みそだけが這い出すのを目撃した。小さな四本の肢を生やした脳は、その姿に似合わぬスピードで物陰に走りこんでいく。

「頭だ! 敵の本体は頭にいる!」

 その声を聴いた面々は、すぐにそれに対応した。ボルトは這いずってくる人影の頭に慎重に照準し、引き金を引く。頭が爆ぜると、人影は動かなくなる。ラチェットとリベットも狙いを頭に変更し、狙いすました一撃を見舞った。

 死闘はしばらく続いたが、やがて動いているのは魔女たちだけとなった。

 弾倉内の弾薬を撃ち尽くしたミニガンの銃身が回る音だけが聞こえている。レンチはモーターのスイッチを切る。

 静まり返る村。

 魔女はボルトに援護するように合図し、転がる死体へと油断なく近づく。頭を吹き飛ばされたその死体の、傷口から中を覗き込む。そこには、あの時見たのと同じ、肢の生えた脳があった。半分を撃ち飛ばされた脳は、さすがに動いてはいなかった。

「どうやら脳を乗っ取るようだね」

 その言葉を聞いて、レンチがうんざりする。眼に見えての判断材料がなければ、相手が敵かどうかわからない。ここから先はそのような敵が出てくるんだろうと、レンチは不安になった。

 それを見透かしたように魔女が言う。

「いいかい? ここから先は、出てくるヤツ、すべてが敵だ。容赦は無用さね」

 ボルトは息を呑み、ナットを見る。ナットもゴクリと喉を動かした。

 それでも魔女は、これから散歩にでも行くようなそぶりで、M14を肩に載せた。

「なに、今に始まったことじゃない。私たち以外は敵。簡単な話さ」

 それもそうか、とボルトは思った。村がこのようになっているのなら、ここから先にまともな人がいるわけがない。

「行くよ」

 村に残余するHMMWVには、ナットが地雷をしかけた。それができる者がいるはずはなかったが、不用意にエンジンをかけると爆発するのだ。

 ボルトが先頭に立ち、深き山へと続くとされる狭い道を歩き出す。用意した地図によると、深き山までは最低でも10日はかかると見積もられていた。あとは、どんな地形や、敵が待ち構えているかだった。

「ん?」

 ボルトは何かに気づき足を止めた。誰かがいる。

 木の陰から、一人の幼い少女が姿を現した。泣いている。

「止まれ」

 ボルトは銃を構えた。

「おかあさんが、おかあさんが……」

 少女は泣きじゃくりながらボルトに近づいてきた。ボルトは一瞬、その子供が村の惨劇を生き延びた、生き残りではないかと思った。しかし、ボルトの闘争本能がそうではないと告げた。

 引き金を引く。銃弾が少女の頭を貫通する。と同時に、少女の服がはだけ、そこに複数のガラス瓶が見えた。

「伏せろ!」

 赤い液体に満たされた瓶が爆発する。

「くそっ」

 ボルトは爆発した瓶の破片と、少女の肉片を浴びていた。それらを振り払い、足元に転がっている半分になった子供の頭を見た。

「おもしれぇことしてくれるじゃねぇか──殺してやる……絶対に殺してやる」

 顔に刺さった瓶の破片はそのままに、ボルトは凄絶な笑みを浮かべた。胸に強烈な黒い炎のような殺意が浮かんできた。相手が神話に出てくる高名な魔物でも構わなかった。必ずそいつの下にたどり着き、とどめの一撃を加えてやると。

 爆発をかわした一行が態勢を立て直す頃、木の枝を踏みしめる音が聞こえてきた。道の左右の森の中から、武器を手にした子供たちが現れる。

「悪趣味なことを……」

 魔女はM14を肩づけすると、近寄る子供の頭を撃った。

「見た目に惑わされるなっ! わたしらは、この子たちの仇を討つために、先に進む! 今は情けを捨てろ!」

 その声にボルトとレンチが応える。銃を構え、トリガーを引き絞る。銃声が森の中に響き渡った。



 その日の夕刻。一行は川のほとりで、一夜を過ごすことにした。

 誰もが無言だった。そこには小屋を出る頃の高揚感は無く、沈んだ空気だけがあった。さすがに、子供の姿をした敵を倒すのは、精神に耐えがたい負担をもたらしていたのだ。

 無言でMREを口に運ぶ。味がしない。もそもそと口を動かす。互いに視線を合わせたりもしていない。

 それを見ていたラチェットが立ち上がる。

「──何落ち込んでるのさ!? メムが言ったように、この先には敵しかいない。あたしらは進み、あたしらを愚弄した敵に刃を叩きこむのよ!」

 ラチェットの演説に、ボルトとレンチが顔を上げる。

「敵は陰険なクソ野郎だ。あたしらをいたぶって、面白がっているんだよ。でも、あたしはそんなのには屈しない。あたしらに歯向かった事を後悔させてやるんだ」

 ラチェットはボルトの頭を叩いた。

「だいたい、ボルト、あんたが悪いのよ! ばか、ぼけ、カス! ──あんたは槍の穂先だ。それが鈍ると、皆が鈍る。だから、あんたは常に笑い、怒り、闘志を燃やさないといけないのさ。わかったか、ボルト!」

 そう言われたボルトは、一瞬呆けたような顔をした。

「そうか……そうだよな」

 ボルトは下を向き、ククッと笑った。

「まんまと敵の手に乗せられてたわけか。ああ、そうさ。俺は──」

 顔を上げる。そこにはいつもの不遜とも思える笑みが浮かんでいた。

「俺は、戦闘機械だ。魔女の右腕。魔女の前に立ち、すべての敵を撃ち砕く者だ」

「そうよ、その意気よ!」

 ラチェットの左眼に涙が浮かんでいた。隠してはいたが、この小さなダークエルフも感情が爆発しそうだったのだ。それを見たレンチが立ち上がり、ラチェットを優しく抱きしめる。

「そうよ。北の森の魔女をナめた事を思い知らせてやるわ」

 レンチは胸の中で泣くラチェットの気持ちを受け止めて、自分も涙を流した。そして、その眼を魔女に向ける。

 魔女は黙って煙草をくゆらせていた。紫煙がたなびく。魔女はしばらく流れていく煙を見、そして、視線を皆に向けた。

「──そうさね。今まで生きてきたことを後悔させてやろうか」

 ぷっと煙草を吐き飛ばす。宙を舞った煙草は、水面に落ちて火が消えた。このようにしてやろうと、魔女は思った。


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