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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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殺戮の群れ

 『ハイーナン』というデミヒューマンの種族がいる。彼らはケイナインに似た姿をしているが、(たてがみ)と短い鼻、ブチ模様の体毛が特徴で、名前の通り直立したハイエナを思わせる姿をしていた。獰猛かつ狂暴で、残忍。あのオークやゴブリン、ホブゴブリンですら恐れるという相手であった。ハイーナンは群れを作り、各地を放浪し、出くわした生き物を狩って生きている。相手が同じハイーナンであっても、戦いを挑むのだ。

 そんな習性のため、足長たちは長い時をかけて、ハイーナンを絶滅させようとしていた。幾度かの戦いの後、ハイーナンたちは山地や森の中に追われ、さらに深い谷間の奥や、洞窟へと住処を移していった。

 そのハイーナンが、数十周期ぶりに目撃されたというのだ。この報はすぐさま王都へと送られ、王は諸侯に対して警戒するようにと命令した。目撃された地域には複数の傭兵(冒険者)の一団が送られ、ハイーナンの足取りを追った。そして、彼らはハイーナンの拠点を発見すると同時に、ハイーナンの襲撃を受けたのだった。運よく生き残った数人が人里にたどり着き、自分たちが見たものを報告した。


「ハイーナンねぇ……」

 魔女は王から送られてきた書簡を片手に、コーヒーをすすった。

「また、仕事の依頼ですか? オークの次はハイーナンですか。また凶悪な」

 ボルトが椅子に座り、マグをテーブルに置く。

「オークより狂暴な相手さ。王国の兵でも手こずるだろうね」

「で、受けるんですか?」

「そうさね……」

 魔女は眉間にしわを寄せて、視線で穴が開くのではないかと思えるほど、書簡を見つめている。

「どうも腑に落ちないのさ」

「なにが、ですか?」

「この前のオークといい、おまえがホブゴブリンの巣で見つけたメモ書きといい、誰かが糸を引いてるように思うんだよ」

「どうやってオークや、ゴブリンたちを? 確かに少々の財宝で釣ることはできますが、オークは軍団を作ってましたよ。そこまで用意ができるとは思えません」

「そこさ。偶然かもしれないが、偶然とは思えない。何か作為を感じるのさ」

 魔女は部屋の中を見回した。リベット以外の面々が魔女の言葉を聞いていた。レンチは息を呑み、ラチェットはあからさまに嫌な顔をしている。ナットは兄の方を向き、少し不安そうな顔をしている。ハイーナンの事は皆よく知っている。その悪名はマリンコ(海兵隊)と同じぐらい、世界中に鳴り響いていた。

「相手はハイーナンだ。今までの雑魚とは違う。さらに、裏で企むヤツが罠を張っているかもしれない。それでも行くかどうか──ここは多数決で決めよう」

 魔女は言った。

「引き下がるが良いと思う者」

 ナットとレンチが恐る恐る手を上げる。

「行くべきだと思う者」

 ボルトとラチェットがスッと手を挙げる。

「北の森の魔女が逃げた、と噂されるのは我慢できません」

 ボルトが硬い表情で、言葉を吐き出す。

 魔女は一同を見回してから、手を挙げた。

「すまないが、わたしもボルトと同じ意見さね。我々は戦う。どこででも。我らの名誉を守るために。それがマリンコだ」

 レンチはため息をついてナットの方を見た。ナットはボルトを見て、頷いた。

「オークからは聞きだせなかったが、もしかするとハイーナンの連中からは手がかりが得られるかもしれん。この、モヤモヤを消したいんだよ。わたしは」

 魔女は顎に手をやり、口元をなでた。

「誰かの掌の上で踊るのは性に合わない。これが偶然なのか、それとも違うのか。それを見極めたい」

「3回の偶然は偶然じゃないって、言いますからね」

 レンチが肩をすくめる。

「なら、早い方がいいですね。ナット、車の用意。レンチは武器弾薬を集めろ。ラチェットはおもちゃの準備だ」

「おもちゃって言うな」

 ラチェットはボルトの頭を叩くと、小屋を出て行った。ナットはレンジの火を落とす。レンチは倉庫に向かった。

「正直なところ、行きたくはないんですが」

 ボルトは魔女と二人きりになったところで、心情を吐露した。

「今回は相手が相手です。誰かが死ぬかもしれない。それが自分なのか、他の誰かなのかはわかりません。俺はそれには耐えられない……」

「──心配は無用さ。今まで通りに戦えばいい。おまえは一人じゃない。友がいる。背中を任せるんだ」

 魔女はボルトの頭をくしゃくしゃと撫でると、背中を叩いた。

「しんみりするのは柄に合わない。さぁ、とっとと武器を集めに行け」

「i,copy」


 魔女の一行は翌々日の夕方に、生き残った傭兵が転がり込んだという村に到着した。村はすでに無人となっており、逃がし遅れた家畜がそこここで草をはんでいる。

 魔女はハイーナンがここに来ると読んでいた。HMMWVを村の中央に配置すると、銃座にレンチとナットをつかせた。ラチェットは動甲冑の背中にウェポンステーションを積み、機動的な火点となるようにした。リベットは後方に待機させ、魔女とボルトは建物の屋根に登った。

 ハイーナンは夜目と鼻が利く。家畜の糞の匂いをたどってくるだろう。魔女は暗視装置で周囲を見渡す。

「──来たぞ」

 魔女の視野の中に、ハイーナンの斥候の姿が入った。斥候と言っても隠れることなく、道を走ってくる。魔女はM14を構えると躊躇なく引き金を引いた。発射された弾丸がハイーナンの頭部に命中する。強靭な顎の筋肉を支えるため、分厚い頭蓋骨を持っているハイーナンだったが、7.62㎜弾の破壊力には抗じきれなかった。頭蓋骨が割れ、脳が引き裂かれる。

 流れる血の匂いを嗅ぎつけたのか、村に続く谷間から百を越えるハイーナンたちが姿を現した。魔女は無線でその旨を伝えると、一体でも多く村へ近寄らせまいと狙撃を続けた。

 レンチはミニガンを起動させると、暗視装置の中の殺到してくるハイーナンたちに向かって射撃を開始した。それに合わせてナットも.50を撃ち始める。ラチェットもそれにくわわり、ミニガンとグレネードランチャーをハイーナンたちに向けた。

 発射炎と曳光弾の光で、辺りが照らし出される。道から村に突っ込んできたハイーナンの一団が、あっという間に血だまりに沈む。それを踏み越えてさらに一団が突っ込んでくる。中には、裂かれた死体を貪る者もいた。ハイーナンたちは、飢えと血の匂いに逆上し、興奮していた。

 魔女が照明弾を打ち上げる。パラシュートが開き、強い光が辺りを包む。

「左右に分かれたぞ!」

 屋根を伝ってハイーナンの動きを追ったボルトが、上からハイーナン達目掛けて銃撃を加える。しかし、それぐらいでは殺到するハイーナンたちを止めることはできなかった。

『9時、来る!』

 ボルトの声にレンチが反応し、家々の間から飛び出してくるハイーナンたちに銃弾を浴びせかける。吐き出された薬莢が車内に散らばり、山を作っていく。

「あらよっと」

 ラチェットが右腕のミニガンで、逆の方向から飛び出してきたハイーナンたちを迎撃する。建物の壁に銃痕が走り、そこに血で描かれた不気味な模様が重なる。

 ハイーナンの一群が村の後ろに回った。そこで待ち構えるのはリベットだった。しゃがんでいたリベットはゆっくりと立ち上がり、両手を動かし、触れ合う爪が音を立てる。そして一陣の風のようにハイーナンたちに向かって走った。

 リベットがすれ違うと、ハイーナンたちの頭部や脇腹が裂ける。リベットは後肢を振り上げ、突っかかってきた一体を真っ二つにする。しかし、そんな事で怯むような相手ではなかった。冒険者たちから分捕ったと思われる様々な武器を振り上げ、リベットを打ち据える。しかし、リベットの外皮はその攻撃を弾き返した。リベットの前肢が円を描くように振り抜かれ、胸や腹を切り裂かれたハイーナンが吹っ飛ぶ。

 魔女はM14でハイーナンたちを狙撃していた。同時に、どこかにいるはずの部族長を探していた。ハイーナンは一種の階級制度を持っていた。戦いや狩りの先陣を切るのは若者であり、その一群を指揮する年かさの者、そして群れの頂点に立つ部族長の雌がいる。魔女はその部族長を突き止めようとしていた。

 ボルトはHMMWVに近づこうとするハイーナンを撃ちながら、魔女と同じ目標を探していた。ハイーナンには、得物から分捕った光る石や、輝く金属、得物の体の一部などで着飾る風習があった。それが確かなら、リーダーは戦利品の多くを身に着けているはずだった。

 レンチはナットに援護を要請すると、ミニガンの弾倉を交換し始めた。その隙をついて、一体のハイーナンがHMMWVに駆け寄り、車内にいるレンチ目掛けて飛びかかってきた。それを横目で見たレンチは拳銃を抜き、弾倉が空になるまで引き金を引き続けた。至近距離から15発もの弾を受けたハイーナンは荷台の上で死体となった。

 ラチェットは弾薬が尽きたウェポンステーションを投棄すると、背中の大剣を引き抜いた。そして、それで敵の一団を横殴りにする。両断された上半身が民家の壁に激突し、ずるりと地面に滑り落ちた。

「後ろは任せて」

 ラチェットの言葉に、レンチとナットがうなずく。弾薬を補充し終わったレンチは再び銃座につき、側方からやってくる群れに銃弾を浴びせた。ナットは真正面の敵に向かって銃撃を続けていた。

 敵の軍勢の圧に押されたリベットが、ラチェットの前に転がり込んでくる。

「大丈夫?」

『はい、問題はありません。ただ、一つ言わせてもらえれば、相手が多すぎます』

「なら、二人で行こうか」

 動甲冑とリベットはそれぞれ身構えると、突進してくるハイーナンたちを、大剣と爪で薙ぎ払った。

 戦闘は佳境を迎えていた。村の中やその周囲は、ハイーナンの死体で埋まっていた。中にはまだ生きている者もいたが、傷を負い、動くことはできなかった。だが、ハイーナン達の波は続いていた。しかし、その数は明らかに減っている。

「ボルト。聞こえるかい?」

『yes,メム』

「そろそろ親玉が顔を出すよ」

『了解』

 ボルトは屋根を走り、村の入口まで移動する。

「あれか!」

 ハイーナンの一群の中に、ひときわ目立つ者がいた。宝石や金の装飾品で鎧を飾り立てている。剣を携え、数体のハイーナンとともにこちらに向かってくる。

「護衛はまかせる」

 魔女は部族長であるその雌ハイーナンがやってくるのを待った。部族長は跳躍し、屋根に着地する。続くハイーナンたちが同じようにしようするが、それをボルトが銃撃で阻止する。

 魔女とハイーナンが屋根の上での対峙する。

「おまえが、北の森の魔女か」

 部族長は標準語で話した。魔女はそれを意外とは思わなかった。

「そうさ。やはりわたしが目的かね」

 部族長は剣で魔女を指さす。魔女はそれを意に介さず、部族長に向き合った。

「そういうことなら、誰かがあんたに吹き込んだわけか」

 魔女は部族長をまっすぐに見つめた。部族長は口元を少し曲げた。

「そう、我らは王国を得る。おまえの屍を捧げればな」

「それは物騒な話さね」

「残念だが、おまえには死んでもらう」

「生憎と、まだ死ぬわけにはいかないんでね」

 魔女はM14を背中に回し、.45を抜く。

 部族長は剣を振った。斬撃を後退しながらかわし、屋根から屋根へと飛び退る。魔女は他のハイーナンから充分離れたと思えたところで立ち止まり、.45を構えた。

 部族長が剣を振り上げ、突進してくる。魔女は慎重に照準すると、銃弾を放った。銃弾は部族長の両肩と両肘を正確に撃ち抜いた。剣が落ち、がしゃりと音を立てる。突然の激痛に耐えかね、部族長は膝を落とした。

「悪いがホローポイントを使わせてもらったよ。残念だが、もう両腕は使えない」

 魔女は、部族長の顔すれすれまで顔を寄せた。

「わたしを捧げるって? それは誰に?」

 部族長は魔女の視線を避けようと上半身を動かした。魔女は手を伸ばし、肩をつかむと、傷口に親指を突っ込んだ。

「さあ、言うんだよ。そうすれば、生かして帰してやろう」

「そ、それは……」

 魔女は手に力を込める。部族長の口から苦しい息が吐き出される。

「わかった……それは……」

 と言いかけた部族長の眼に光が差した。魔女は何かを感じ、飛び退った。

 次の瞬間、部族長の眼と口から炎が迸った。

「何が起こったんですか?」

 ボルトが屋根づたいにやってきて、燃える部族長を見て、魔女に問う。

「──どうやら、わたしの身柄を欲しがっているやつがいるようだね。理由はわからんが」

「どんなヤツですかね?」

「さぁ? でも、こんな芸当ができるやつさ。並の者ではないようだね」

 ハイーナンの襲撃は終わった。村へやってきたハイーナンは、魔女たちの火力の前に文字通り全滅した。

「これだけ燃えちまったら、何を持っていたかわからん」

 魔女は焼け焦げた部族長を見下ろした。

 数日後、村に到着した王国の兵たちが見たのは、数百体のハイーナンの死体だった。無数のハエが飛び交う地獄絵図に、兵士たちは言葉を失った。彼らは村に火をかけ、地図上からこの村を消した。何周期かが経ち、死体が土となるのを待つしか方法がなかった。


 魔女は考えていた。どうすれば、相手の正体がなんなのか。相手はどこにいるのか。それがわかる方法はなにか。

 このような戦闘を続けていれば、ボルトの言うように誰かを失いかねない。それは避けねばならないことだった。

 手がかりは無い。

 魔女は、とある危険な賭けに打って出ることにした。


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