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北の森の魔女 第2シーズン  作者: 鉄猫


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即席部隊

 まず始まったのは、リベットとの意思疎通の方法の確立であった。

 リベットの種族は体内に発音器官を持たず、歯を打ち合わせたり、一種のダンスをすることで会話をしていたのである。ラチェットの魔法で、思考を翻訳することは可能であったが、常にラチェットに通訳させるのは無理な話だった。

 そこで、リベットの【発声音】を機械的に翻訳する装置を作る試みがなされた。

 事情聴取から、リベットは魔女たちの言葉を理解していたわけではなく、ラチェットと同じような思考翻訳を行っていたことがわかった。それはリベットたちの種族の体内器官に備わっている機能で、原理を解明することはできなかった。

 そこで、リベットにはこちらの言葉を習得させることにした。それは子供に言語を覚えさせるのと同じ行程を経ることになった。

 様々な物を見せ、その名前や行為をリベットの言葉で発音させ、それを記録、変換機の翻訳機能へとインプットするのである。同時に文字の習得も行った。魔女たちがいる世界の文字は、文字自体が意味を持つ表意文字で、その数は数千にも及んだ。これは習得には時間がかかるが、発音の違いがあっても意味は変わらないため、王国や同盟、その他この惑星上にいる知的生物の大多数が使っているものだった。一部の種族は独自の文字を持つが、翻訳は容易かった。

 ある程度データができた時点で、ナットとラチェットによって翻訳機が試作された。通常の無線装置を改造したもので、リベットの聴覚器官に当たる部分にヘッドホンを、口の周辺にマイクを設置した。リベットの発声はこちらの言葉に変換され、機械音声が翻訳機につけられたスピーカーや、つながっている無線機のヘッドホンから流れるようになっている。

 魔女たちは根気よくリベットに言葉を教えた。だんだんと精度が上がり、数十日後には子供と同じぐらいのレベルの会話ができるようになった。

 それと同時に、リベットに居場所と装備が与えられた。休息も娯楽も必要としないリベットは、普段は小屋が入っている大木の枝の上におり、そこでずっと森の方を見ていたのだ。そこで魔女はリベットに見張りを行うように命じた。装備の方であったが、リベットの前肢では銃を使うことはできなかった。これすべて凶器と言える、鋭利な爪が生えているからである。そこで、リベットにはプレキャリとトラウザースだけを装備させることにした。そもそも刃物を弾き返すほどの強度を持つ外皮にプレキャリは必要無かったが、装備をそろえ、全員がチームであることを示すことが大事だった。


 6人になったチームの初仕事は、よくある村の近くに現れたゴブリンその他の討伐であった。ゴブリン討伐と言っても、ホブゴブリンやオーガーと言った大型種も目撃されており、半端な冒険者では歯が立たない依頼である。

 2輌のHMMWVに分乗し、村へと向かう。1輌目の荷台にはラチェットの動甲冑が、2輌目の荷台にはリベットが乗っている。

「ほんとに大丈夫か?」

 ボルトは荷台に乗り、辺りを見回しているリベットに話しかけた。リベットには顔が無く、表情から今の状況を判断することができなかった。

「問題ありません」

 リベットはカチカチと歯を鳴らした。それが翻訳され、スピーカーから中性的な声が流れる。リベットの種族には性別というものがなく、それに合わせることにしたのだ。

「相手はゴブリンという連中だ。わかるか?」

「資料には目を通しています」

「そういえば、おまえの眼はどこだ?」

「いい質問です。我にはあなた方のような、光学的に周囲を見る器官はありません。電磁波を感知します」

「でんじ、は?」

 ボルトはリベットの説明の後ろ半分が理解できなかった。

「いわゆる可視光線より広い範囲を【視る】ことができます。ボルト、あなたが使う暗視装置と同じです」

「ほう、そりゃ心強い。相手は穴倉にいる連中だ。薄暗い洞窟の中で戦うことになるからな」

「戦闘の方は任せてください。我は働き蜂です。外敵を屠ることが仕事です」

 ボルトは思わず身震いした。森にいる肉食の蜂を思い出したからだった。

「肉団子にするのだけは勘弁な」

「心配ありません、ボルト。あなたは我の家族ですから」

「そりゃ結構……」

 ボルトは座席に戻り、大きなため息をついた。なぜこんな得体のしれない奴と組むことになったんだと、不安になっていた。

 しかし、その不安はすぐに解消された。

 隊列の先頭を進むボルトのすぐ後ろにリベットがいた。リベットは、暗視装置のためどうしても視野が狭くなるボルトを見事にバックアップしていた。しかも、その四肢を使って、壁や天井に張りつき、そのまま前進することもできたのだ。これで、ボルトのすぐ後ろにいるレンチの射界が確保され、前進火力を維持できた。

 何度かのゴブリンの襲撃を跳ね除け、洞窟の半分を攻略したところで休憩を取ることになった。

「なんかすごい」

 ハイカロリーバーを齧りながらレンチがボルトに話しかける。

「まさか天井に張りつくとはな。他にも隠し技を持っているんじゃないか?」

 ボルトは、床に座り込んだ魔女たちを守るように洞窟の奥を見つめているリベットの方を見た。

「おっと、忘れてた」

 ザックの中に手を突っ込み、ボルトはビニール袋に包まれたものを出す。そして、リベットの肩を叩く。

「飯だ。喰え」

「これはありがとうございます。さすがに腹がすきました。これが『空腹』というものですね」

 リベットは包みをその爪を使って器用に開けると、中身を取り出した。それはモグラの肉だった。リベットは口を大きくあけて、噛まずに飲み込む。

「モグラの肉が好きとは……変なの」

 コーヒーを飲むラチェットが言う。

「まぁ、畑にいっぱいいるから調達には困らないさ。もっと入手が難しいものだったら大変だったからね」

 魔女はボルトとレンチと何やら話しているリベットの方を見た。異種族がその垣根を越えて連携している。それは良い事だと思った。

 休憩を終えた一行はゴブリンの寝床や、ガラクタだらけの部屋を抜け、奥へと進んだ。

 先頭を歩くボルトが姿勢を低くし、握りこぶしを上げた。一同が立ち止まり、姿勢を低くする。

「この先に何か居ます。匂いからして……ゴブリンでは無いようです」

 ボルトがリベットに指示を出す。リベットは天井を這い進み、奥の様子を探る。体が発する赤外線を感知し、部屋の中に何がいるのかがわかった。

「──中型種が5体。大型種が2体です」

 リベットからの機械音声がヘッドホンから流れる。

「行けるか?」

『もちろんです。メム』

「ボルト」

『わかってます』

 ボルトはスタングレネードを用意すると、レンチに向かって頷いた。タイミングを測って、ボルトがスタングレネードを投げ込む。レンチは光と音に備えて顔をそむける。

 一瞬の光と轟音が洞窟内に響く。その光の中をリベットが飛ぶ。光学器官を持たないリベットにはスタングレネードの影響は皆無であった。

 リベットは一番遠くにいたオーガーに組みついた。そして、両前肢の先の爪で、その顔と胸を引き裂いた。

ウーラー(Oorah!)!」

 鬨の声をあげ、ボルトとレンチが部屋に突入する。スタングレネードにより感覚器官に衝撃を受けているホブゴブリンとオーガーに銃弾を叩きこむ。

『あたしの出番が無いような……』

「それがいいのさね」

 魔女は不満たらたらのラチェットに言う。

「後方警戒はおまえの仕事だ」

『yes,メム』

 ラチェットはコクピットの中でぶーたれていたが、スクリーンの隅で動くものに気づいた。カメラの感度をあげ、それを見る。

「トロル!」

 それはオーガーより大型の、巨人と言ってもよい巨躯の二脚歩行生物だった。ラチェットは大剣と盾を構え、後方に現れた敵に向かう。

「トロルの再生能力を止めるには、火か酸しかないよ!」

 ラチェットの声に、ナットが応える。グレネードランチャーの弾種を交換し、ラチェットの後ろを進む。

 魔女は片膝をついた姿勢のまま、煙草に火を点けた。前方に3人、後方に2人。それが持てる戦闘技術を駆使している。自分が出る幕は無いが、それで良いと思った。余裕がある分には困ることは無い。何かあった場合、すぐにそちらに駆けつけることができるのだ。

 煙草をくゆらせ、戦いの趨勢を聞く。前方では、オーガー2体をリベット一人が引き受け、ボルトとレンチはホブゴブリン相手に有利な戦いを展開していた。後方では、ラチェットが大剣を振るい、トロルをなます斬りにし、ナットがその傷口めがけてサーモバリック弾(焼夷弾)を撃ち込んでいる。


 リベットがサマーソルトキックでオーガーを両断する。

「すげぇ……」

 その光景を弾倉を交換しながら見ていたボルトが、関心の声をあげる。

「こっちも、終わりだよ」

 最後の一体となったホブゴブリンの胸に高速弾を撃ち込んだレンチが、前を見たまま言う。

「──メム、こちらは終わりました。損害無し」

『了解。そのままその場で待機してな』

「わかりました」

 ボルトはレンチとリベットに警戒するように言って、部屋の中を物色する。何かあるかもしれないと思ったからだ。

 部屋の中には武器や腐りかけの食料といったもの、襲った村人や挑んできた傭兵から巻き上げた、わずかばかりの宝飾品などがあった。

 ボルトはそれらに眼もくれずに、一見価値の無さそうな物──書き物や地図の類である──を探した。ゴブリンやホブゴブリンといえども、オークほどではないが、それなりの社会を形成している。もしかすると、背後に何かがあるやもしれなかった。その証拠を探すのだ。

「ん……こいつは……」

 ボルトは箱の中に入っていたメモの束を見つけた。それはゴブリンたちの言葉ではなく、何かの暗号で書かれていた。

「暗号文書? なんで、こんなところに……」

 物色に集中しているボルトの真横の闇の中から、一体のゴブリンが忍び寄っていた。ゴブリンは錆びた斧を振り上げた。

「ボルト!」

 レンチが叫ぶ。その声にボルトがハッと顔を上げると、振り下ろされた手斧が間近に迫っていた。ボルトは痛恨のミスをしたと悔やんだ。

 しかし、その刃はボルトに届かなかった。ゴブリンの体が宙に浮き、その後叫び声が聞こえ、静かになった。

「間に合ってなによりです」

 ゴブリンの死体を投げ捨て、天井からリベットが降りてくる。

「怪我は無い?」

 レンチがボルトの周囲を回って確認する。

「大丈夫だ」

 ボルトは大きく息を吐いた。

 

 トロルの再生力は半端では無かった。しかし、それ以上のダメージをラチェットとナットは与えていた。ナットが放つサーモバリック弾は傷口にめり込み、炎をあげる。トロルはナットに対して攻撃しようとするが、それはラチェットによって阻止された。

「最後の一撃だよ!」

 ラチェットの大剣がトロルの頸を切断する。倒れるトロルの胴体にサーモバリック弾が撃ち込まれ、トロルの身体は動かなくなった。

「あ、こっちも」

 ラチェットはナットに大剣でトロルの首を指し示した。体から斬り飛ばされてもトロルの頭は生きているのだ。ナットはサーメイト手榴弾を取り出し、トロルの首に向かって転がした。数千度の炎がトロルの首を焼灼した。

『こっちも終わったよ』

 ラチェットの声に魔女は満足げな顔をした。即席とはいえ、新しいチームはちゃんと機能している。今回の「お試し」仕事は上々の出来だったと魔女は思った。

「さて。もう少し働いてもらうかね」

 魔女はそれぞれに残った敵がいないかを捜索させることにした。



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