二分の一の未来
その異質な音で理解した。外見だけであれば動物に見えるあれは機械であるという事に……
「と…とにかく、逃げなきゃ!!」
「秋野…私を下ろしてくれ」
「は?」
「今が恩を返す時だ!!私が囮になる。その間に逃げてくれ!!」
こいつは自分で動く事すらできないのに……友だちを見捨てるのが高宮秋野のやる事か?否、誰も見捨てたくない!!父さんっ!力を貸してくれ!
「ゔゔぅぅぅんっ!!!!」
無理でした。
「秋野……」
だが、諦めない。馬鹿なのは分かってる…だが!これは俺のためでもあるんだ。こいつを見捨てた重責を背負いたくない。こいつと過ごした記憶を幸せなな物にしたい……俺たちのために!!
「メェッ!メエッ!」
?!…エゾシカだ!!
「来るな!!!」
「ガジャァァァァン!!」
あいつはエゾシカに襲いかかった。機械のくせに食欲があるって言うのかよ…ごめんな…。
「秋野!あそこに逃げよう!」
「うん」
歩くことなら出来る…あいつが時間を稼いでくれたおかげでなんとか茂みに隠れることが出来た…ありがとう。
「なぁ、明星。あいつの事知らないか?」
「?」
「いや、ごめんな…だが何か似てねえか?あいつ絶対機械だろ。てか、あいつは……」
俺はあいつに見覚えがある…間違いない。かつて、陸域生態系の頂点捕食者として北海道に生息していたエゾオオカミだ。
(標本で見たことはあったが、なぜエゾオオカミに酷似した機械を創る必要がある?)
「エゾオオカミ…確かに似ているな」
「あぁ(何で明星がエゾオオカミを知っているんだ。こいつは一般的な知識は持っていたが、何故エゾオオカミを知っているんだ………)」
ガジャァァァァン!!
「秋野!!近づいてきないか?」
「俺にいい案がある…」
(もし、あいつが機械ではなく「狼」であるのなら対策は出来る!!一か八かだが、確率はある!)
俺は勢いよく茂みから出ると共に上着を脱いで両手に持ちながら高く上げて威嚇する。
「あぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」
「グルルルルッ」
「やはり。お前は狼だ!だからこそ、自分よりデカい怖気付いてるんだろ!今なら見逃してやるよ!」
初めてやるムーンウォークに戸惑う。あいつは警戒してこちらを睨んでいるが一向に逃げない。
(ふつう逃げないの?!威嚇したらワンちゃんは逃げるのに)
「明星逃げよう!!」
勢いよく担ぎながらもムーンウォークの姿勢は崩さない…完璧だな。
「ガジャァァァァーーーーーンッ!!!!」
「え?」「え?」
「…これはやばくないか?」
「・・・逃げよう!!」
「ガジャァァァァンッ!!」
「いやーーー!!!!」
多分だが、さっきよりも叫んでいるだろう。幸い走れるまでの体力は回復していた。
「ガジャァァァァン!!」
「秋野!右だ!!」
「よっしゃ!!」
ドンッ!!
「ギャーーーンッ!!」
結構太い木にぶつかっていたので少し同情した。
キューーーーーーーーーーーーー……
「何だ?!」
「しゃがめ!!」
「えぇっ!」
咄嗟にしゃがむ…
俺の視界を遮るものは一切無い。
「何だよこれ………」
あれが動物ではなく機械である事には最初から勘づいていたが、動物と形容するにはあまりにも馬鹿げたその行動に俺は唖然としていた。
「明星…何が起こったんだ」
「あぁ…あの異音が起こる前に彼の顔が四方に開いて真ん中から銃口が出てきたんだ」
「それで何かを発射して俺たちを殺そうと」
「ん?今、あいつはどこにいるんだ」
立って周りを見渡してもあいつはいない。
キューー…
「秋野!!上だ!!」
「駄目だ…足に力が……ッ!!」
((また、大切な人を失うのか?))
「………」
「明星!!お前だけでもッ!!」
キューーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
間に合わなかった。まただ………
銃口の光は俺を天国へと導こうとして……
「そんなはずないねっ!!」
「俺が天国?!地獄に決まっているだろ!!!!」
その一瞬で俺は最後の馬鹿力で明星をうんと遠くに投げた!!
「秋野!!!!」
その瞬間、地獄への片道切符が贈られる………
謎の機械が秋野を………ここで死ぬ男じゃない!!
頑張れ!!秋野!!
次回…「友だち」