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【検証】「激辛! にんにくマシマシ餃子」に人肉が使われているという噂は本当なのか!? 突撃取材してみた!

作者: ミント

 昇竜軒の人気メニュー「激辛! にんにくマシマシ餃子」。


 パリパリの羽に、柔らかな肉。かぶりつけば途端に旨さと辛さが爆発し、客の食欲は否応なしに加速される。老若男女、幅広い客から支持を集めるこの餃子は昇竜軒の大人気商品だ。


 しかし――その中身には、人肉が使われているという。


 よく捏ねられた挽き肉に、にんにくとニラの強い香り。加えて激辛の味付けを行っていることで、客はそうと気づかず人肉を食べてしまう。店主は肉の仕入れ値を安くあげるだけではなく、裏社会の人間を始末した謝礼をもらっているので大儲けしているそうだ。


 そんな事実は露知らず、客たちは今日も人肉入りの「激辛! にんにくマシマシ餃子」を美味しそうに食べ続けているのだという。





「――そんな噂を検証すべく、今日は疑惑のお店『昇竜軒』に突撃取材しちゃいました!」


 レイレイ! 『イッちゃえ! ハルちゃんねる』です!!


 そんな実に独特な口上を述べながら、ハルがこちらにカメラを向ける。ハルは「ほら、笑って!」と言いたげに微笑みかけるが、俺は呆れたような顔をするしかできなかった。


 学生の時から目立ちたがりで、何かと承認欲求の強かったハル。その果てに「イッちゃえ! ハルちゃんねる」なるチャンネルを開設してユーチューバーとなった彼女は、主にオカルト系の話題を中心に毎日アップロードを続けている。


 そんなハルに「地元が近い幼馴染」という理由だけで目をつけられた昇竜軒の店主、俺は溜め息交じりに言葉を返す。


「勝手に怪しいイメージをつけるな、こっちは変な噂を流されて困ってるんだぞ。卒業して、親父から継いだ大切な店なのに……」

「『昇竜軒』ね……お父さんってひょっとして世界各地のファイターが登場する某格闘ゲーム好きだった?」


「あー、よく言われるよ」

 ハルの疑問を適当に躱しながら、俺は改めて我が店の不名誉な噂を否定する。


「だいたい、その手の噂なんて今に始まったことじゃないだろ。ハンバーガーにミミズを使っているとか、四本足のニワトリで作ったフライドチキンとか。俺の、この店の噂だってそういうありふれた作り話の一つだ。きっと誰も信じちゃいないだろう」


「まぁまぁ、そうは言っても嫌な話なのは事実でしょ? だから幼馴染であり、今をときめくオカルト美少女ユーチューバーの私がそれを払拭しようと取材しに来たわけ。とりあえず、調理風景から見せてよ!」


「オッサンの調理風景なんて誰が喜ぶんだよ」

 ばっさり言い返す俺を前に、それでもハルはしつこく撮影交渉を続ける。


「またまた、そんなこと言っちゃって。そりゃアンタにとっちゃ日常の光景でも視聴者にとっては知らない世界のわけで、それだけでもお店のPRや宣伝になるし。私としても面白そうな動画のネタになるなら少しでも拾っていきたいからさ。ギブ・アンド・テイク、ってほどではないかもだけど同級生のよしみでお願い! 撮影、協力してよ」


 とにかく、「動画を撮りたくて仕方ない」という本音を滲ませるハルを前に俺はしぶしぶ厨房で調理器具を並べる。




 俺はSNS等あまりやらないが毎日、動画を作り続けるハルの大変さは容易に想像できた。幼馴染という繋がり、そこにある小さくとも面白くなりそうなネタには飛びつきたくなるものだろう。仕方ない、としっかりマスクと手袋を着けて俺は厨房に立つ。


 この厨房は店主である俺以外、立ち入り禁止だが今回ばかりは特別に許してやろう。なんだか押し切られたみたいだが、それでも俺はハルのカメラの前で餃子を作り始める。


「ほら、黙ってないできちんと説明して! おっと早速、疑惑の肉が登場ですね! これ、何の肉?」

「業者から仕入れた至って普通の合いびき肉だ」


「業者ってそれ、ひょっとして危ない世界の……」

「んなわけねぇだろ。地元の仕入れ業者からいただいた、安価の挽き肉だ」


 俺の周りをキョロキョロ、レンズ越しに覗き込みながら鼻息荒く喋りかけてくるハル。勝手な推測を調理がてら否定する俺は、それでもいつも通り真摯に料理へと取り組む。


「ニラとキャベツはフードプロセッサーで一気にみじん切りしておく。葉野菜はなるべくシャキッとさせておきたいけど、水につけておくと栄養素が水に流れ出てちまうからな」

「ほぉ、栄養素もしっかり考えているんですね」


「まぁ、少しでも客には体にいいもの食べさせたいしな……フードプロセッサーで切ってる間に、肉に入れる下味を用意しておく」


 調味料をそれぞれ、計りもせず長年の勘によって培った完璧な配分で混ぜ合わせていく。そうするとハルはそれにも、食いついてきた。


「おっ、ここもなんだか怪しいですね! 何か怪しいものとか混ぜ合わせてないですか? 本当はヤバい肉を使っているのをごまかすため、濃い目に味付けしてるんじゃないですかー?」


「だから、そんなわけねぇだろ」

 ばっさり言い切った俺に対し、ハルはニヤニヤと口角を吊り上げながら質問を続ける。


「なら、中身は何なのか教えてよ。全部は企業秘密だから無理にしても、ベースはこれとか料理のさしすせそのどれを使っているかとかさ。そうだ、『激辛』って言ってるけど実際どれぐらい辛いの? ギリ小学生でも食べられるぐらいなのか、相当な辛党向けなのか。新規のお客さんが食べようかどうか迷っている時のためにほんのちょこっと、ヒントだけでもいいから!」


 早口で捲し立てるハルの声は、ハキハキしていて実に聞き取りやすい。伊達にユーチューバーをやっていないといったところだろうか? 黙って無視していたらいつまでも粘着されそうなので、俺は調味料の瓶を見ながら説明する。


「基本は酒と醤油、『にんにくマシマシ』だからおろしにんにくは多めだ。その他の細かい調味料はこっちも商売なんで言えないが、そのへんのスーパーでも売ってる身近な調味料とだけ言っておく。ただ、辛いのだけはネットで仕入れたデスソースを入れてるよ」


 仰々しいドクロマークが描かれたラベルに、真っ赤な液体の入った瓶。何とも言えないB級感のあるそれを見て、ハルは「わぁっ!」と子どものようにはしゃぎ出す。


「ユーチューバー三種の神器の一つ・デスソース! うわぁ、私もいっぺん撮影してみたかったんだよね。これ使ってることわかれば、他のユーチューバーも食レポ動画作りに店に来てくれるんじゃない?」

「そうなのか? まぁ、他の客の迷惑にならない程度になら別にいいが……」


「あ、ちなみにユーチューバー三種の神器のあと二つはスライムとメントスコーラね」

「それは聞いてない」


 そんなやり取りをしているうちに、肉への味付けが完了したので俺はフードプロセッサーからニラとキャベツを取り出す。全ての材料を混ぜ合わせると、皮に具を乗せてテキパキと「餃子」の形を作り出していった。


「朝のうちに一気に作っておいて、客に出す直前にフライパンで焼く。……ほら、これで終わりだ。怪しいところなんてなかったし、これでもういいだろ」

「えー、ここまで来たならせっかくだから一皿分焼いて見せてよ。出来立てほやほやの湯気が出てる料理とか、めっちゃ画面映えするし」


「そうは言ったって、お前が食うわけでもないのに焼けるわけないだろ」

「いいじゃん、いいじゃん。やっぱり焼いてる最中のパチパチって音とか、絶妙な焼き加減にするため一生懸命に料理するところとかカッコよくて絵になるし。一皿、試供品だと思ってさ!」


 ね? と可愛らしくおねだりしてみせるハルに、仕方なく俺は餃子を焼く用意に取り掛かる。




 油を引き、十分にフライパンを熱するとそこに先ほどの餃子を並べる。ジュッ! という音をBGMに火力を調節し、最初は中身に火を通すため蒸し焼き。しっかり具が温まったのを確認すれば、今度はパリパリの焼き目をつけるために火力を強める。どんどん立ち込めてくる香ばしい匂いに、ハルがすんすんと鼻を鳴らす。


「あー、すっごくいい匂い。私もアンタに焼かれるなら、餃子になっても良かったかもなー」

「縁起でもないことを言うな。だいたい、ウチの餃子に人肉は使ってないってさっき証明したばかりだろ」


「はーいそうでしたー。昇竜軒の人気メニュー『激辛! にんにくマシマシ餃子』は正真正銘、安全な食材を使ったとっても美味しい餃子です。最後に、焼き立て餃子を映して動画は終了かな」


 そう言いながら、それでもカメラはしっかり回し続けるハル。くるくる表情を変えながら、それでも真摯に動画作りへ取り組むハルはやはりプロだ。伊達にオカルト美少女ユーチューバーを自称するわけではない。


「――っというわけで安心安全、人肉どころか怪しいものは一切使っていない実に美味しそうな餃子が出来上がりました! 店主のこだわりが詰まったとっても美味しい昇竜軒の『激辛! にんにくマシマシ餃子』、視聴者のみなさんも食べてね!」


 そしてこの動画が気に入ったら、高評価とチャンネル登録よろしくお願いしまーす!




 ――そう言い終えたハルはそこでようやく、カメラから手を放す。


「よしっ、あとはこれを編集してアップするだけだ。今日はありがとね! おかげで助かったよ。お礼に、概要欄でお店のPRもしておくから!」

「あぁ、そうしてくれると助かるよ。……けどお前、いつもどうやって動画の編集とかアップロードしてるんだ?」


「うーん、それはまぁ……この餃子と同じで、企業秘密ってことで! あー、でも生きてる時に食べたかったなぁこの餃子。激辛リアクションとかやったらショート動画でバズるかもしれなかったのに」

「その前に、無茶な撮影したお前が悪いだろ」


 言いながら俺は、ふわふわと宙に浮かぶ足のないハルの姿を見つめる。




 オカルト美少女ユーチューバーとなったハルはあらゆる心霊スポットに行き、その最中に偶然か必然かとんでもなく珍しい確率の事故に遭って死んだ。


 しかし彼女の魂はどういうわけかこの世に残り、今は死人であることを隠してユーチューバーを続けている。曰く、「まだまだユーチューバーをやりたい! っていう願いが私をこの世に留まらせているんだ!」とのことだが……それにしたって金縛りで拘束、からの夢枕で「動画撮らせて!」というお願いの仕方はどうかと思うが。


「それじゃ、私はこれで! 入口は盛り塩があって出られないから、悪いけどこのまま空中から出ていくね。編集にどれぐらいかかるかは、動画によるので一概には言えないけど……少なくとも今週中にはアップする予定だから! これを機に私のチャンネル登録してね! それじゃ! レイレイ!」


 どうやら「ハルちゃんねる」お決まりの言葉らしい謎の挨拶を告げて、ハルは俺の前から姿を消していく。




 ……もしアイツが幽霊だってことが視聴者にバレたら、この店は「オカルト美少女ユーチューバーの霊が出るお店」って噂が立つかもな……




 身バレだけはしないでくれよ、と祈りながら俺は自分が作った「激辛! にんにくマシマシ餃子」をハルの代わりに口をつけるのだった。


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― 新着の感想 ―
オチが秀逸! 人肉も強めのワードですが、ハルちゃんの秘密も負けてないくらい凄かったです。 昇竜軒の店主の人の好さを感じました! 読ませていただきありがとうございました!
[良い点] ジャンルがホラーということで身構えつつも、「美味しそうな場面が続くな」と読み進めていきました。 ラストは大変驚かされました。 ハルの執念には恐ろしいと思いつつも、尊敬の念も抱いてしまいます…
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