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第9話 共演実現!

昼間の「すっきりしない感」はどこへやら。

寿々菜は夜の街をスキップをしながら、あるところへ向かっていた。


来来軒だ。


夕方に和彦から携帯がかかってきて、夕食に誘われたのだ。

用件は分かっている。

水沼真紀子の事件についてだろう。


それでも寿々菜の心は躍った。

とにかく和彦に会えるだけで嬉しいのだ。

理由なんてどうでもいい。



が。

さすがに少し凹んだ。


「ラーメン二つにチャーハンとギョーザを1人前」

「はいよ」

「・・・」

「どうした?」

「いえ・・・」


なんてことはない。また「チャーハン&餃子半人前要員」に呼び出しがかかっただけだ。

事件解決についての話し合いですらない。

だが、二人に共通の話題と言えばそれしかないのも事実。

自然、話はそちらへ流れた。


「なんかわかったこととかあるか?」

「いえ、何も」

「だよな。俺も」

「武上さんに聞いてみましょうか?」

「ダメ」


ちょうどラーメンが来たので、二人はお箸を取った。

汁に油が程よく浮かんでいて、見ているだけで食欲をそそられる。


「あれ?」

「どうした?」

「なんか、違和感が・・・」

「違和感?」


寿々菜は自分と和彦の前に置かれたラーメンを見比べた。

一見同じに見える。

が・・・何か違う、気がする。


「ああ。コレだろ?」


和彦が自分のラーメンの麺をすくい上げた。

細めの縮れ麺だ。

一方、寿々菜の方は、中太のストレート。


「あ!麺の種類が違う!」

「ここのラーメンは基本、中太のストレートなんだけど、俺は縮れ麺が好きだから、

何も言わなくても、いつもこうしてくれるんだ」

「へー。お得意さん、って奴ですね」

「だな。しかし、よく気づいたな」

「いえ、なんとなく」


寿々菜は「いただきます」と言ってラーメンを口に運んだ。

相変わらず美味しい。

和彦が常連になるのもわかる。


「私、昔からちょっとでも変なことがあると、すぐに違和感を感じるんです。

でも、いっつもその正体は分からずじまいで、すっきりしないんですよねー・・・」

「そういえば、前も俺の仕事が少ないことに違和感を感じてたな」

「はい。今日も、水沼さんがホテルから出てくるの見て、違和感を・・・」

「おい。なんだ、それ?聞いてねーぞ」


あれ?言ってなかったっけ。


寿々菜は景子と一緒に昼間見たことを、和彦に教えた。

すると和彦は腕を組み、唸った。


「ふーん・・・てゆーか、そーゆー大事なことは言えよな」

「ご、ごめんなさい」

「でも、なんだろな、その違和感の正体」

「そうなんですよね。わからないんです」

「女に見覚えがある、とか?」

「いえ。全く知らない人でした」

「そっか・・・」


さすがに和彦も自分で見たわけではないので、寿々菜の違和感の正体は皆目見当もつかない。

しかし。


「寿々菜。お前、いい勘してるよな。これからもなんか違和感感じたらその場ですぐに教えろよ?」

「はい!でも、前みたいに、事件と全然関係ないかも」

「いや・・・関係なくないかも」

「え?」

「実はさ」


和彦は、あの雑誌Mについて調べていたのだ。

どうしてオフを返上してまでインタビューすることになったのか。


「雑誌Mの担当者の話だと、そもそもインタビューの話はこっちからあったらしいんだ」

「こっち、って門野プロダクションからってことですか?」

「ああ」


これがそもそもおかしい。

雑誌Mにインタビューされても、和彦にも事務所にも得はない。

門野社長も、雑誌Mのインタビューについては真紀子が独断で進めていたようで、

全く何も知らないようだった。


「しかもあんな田舎のホテルでインタビューなんて・・・おかしいよな」

「そうですね」


タレントはマネージャーに「こう」と言われたら「そういうもんだ」と思い、

何も考えずに従ってしまいやすい。

それはマネージャーに全幅の信頼を置いているからでもあるが、

同時にマネージャーに好きに操られてしまう可能性もある。


真紀子がそうだと思いたくないが・・・


さて。

ここまでは来たが、素人二人にはここから何をどう調べていいか分からない。

いっそ死んだ水沼真紀子に話を聞けないものか、なんてことまで頭をよぎる。



ルルルルル



「あ!すみません」


寿々菜が携帯片手に立ち上がろうとしたが、

和彦は「座ったままここでしゃべっていい」とでも言うように手を上下にパタパタとさせた。

寿々菜は回りに声が漏れないように、手をあてがいながら電話に出る。


「はい」

「寿々菜さん?武上です。すみません、突然」

「え?武上さん!?」


向かいの和彦の顔が一瞬で曇る。


「はい。伺いたいお話がありまして・・・門野社長に寿々菜さんの携帯番号を聞きました。すみません」

「いえ。全然構いませんけど。なんでしょうか?」

「あの、よろしければお会いできませんか?・・・食事もついでに」


モゴモゴと付け足すところが、なんだかかわいらしい。

照れ屋さんなんだなぁ。


と、相変わらずピントのずれたことを考えながら、

寿々菜は目の前のラーメンと和彦を見た。


すると和彦が無言で寿々菜の携帯を取り上げた。


「おい。なんか新しい情報でも出たのか?」

「・・・どうしてお前が寿々菜さんと一緒にいるんだ」

「どうしてでもいいだろ。寿々菜を誘うならいいところ連れて行けよ」

「・・・わかってる」

「少なくともホテルのレストランだ」

「ホテル?」

「Tホテルなんてどうだ?」






警察手帳の効果は絶大である。

フロントで武上がチラッとそれを見せるだけで、

ほとんど会話の必要なく2303室へ案内された。


事件以来2303室は使用されておらず、

ホテルとしても困っているようだ。

なんと言っても稼ぎ頭のスイートルームなのだから。



部屋で3人になると、武上が口を開いた。


「どうしてお前も一緒なんだ」

「お前、じゃない。和彦だ」


武上がため息をつく。


「じゃあ、和彦。ここに何の用だ?」

「ちょっと行き詰ってな」

「行き詰まり?」

「寿々菜と探偵業を始めたんだけど、思うように進まなくてさ」

「・・・なんだと?」


武上としては「探偵業」より「寿々菜と」の方に引っ掛かりを感じる。

もちろん和彦もそれを承知で「寿々菜と」を強調した。


和彦が寿々菜に目配せする。


「あ。えっと、武上さん。この部屋見て回っていいですか?」

「は、はい」


寿々菜に頼まれると武上も弱い。


「ちょっと待て、寿々菜。役者が二人もいるんだ。再現してみようぜ」

「再現、ですか?」

「そうだ。寿々菜が真紀子役、俺が犯人だ」

「はい!」


寿々菜は目を輝かせた。

なんだか本当に「御園探偵」みたいだ!


武上はおもしろくない、という感じで、

しかし邪魔にならないように奥の壁にもたれた。




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