表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

第8話 違和感再び

数日後。

寿々菜は再び景子とCMの撮影現場にいた。

先日の田舎とはうって変わって、東京のど真ん中。

ちなみにCMと言っても寿々菜がメインではない。

「横断歩道を渡る通行人」というただのエキストラだ。


でも、武上のように見てくれている人がいる。

そう思うと寿々菜は俄然やる気が出てきた。


「頑張るぞ!」


1人でファイティングポーズを取ってみる。


「ふふ、えらく気合が入ってるわね」

「はい!あ、すみません、景子さん。忙しいのに来ていただいて」

「さすがに社長を現場に付き合わせる訳にいかないしね」


景子が以前担当していた数人のタレントを見るマネージャーがまだ決まっていない。

スケジュール管理は社長である門野が自ら行っているが、

現場に同行、というのは無理がある。


そこでしばらくは、景子が和彦専属でありながら、こうやって寿々菜などの面倒も見ることになった。

そんじょそこらのタレントより遥かに多忙だ。


「そういえば!この前の和彦さんの生トーク、泣けました・・・」

「泣けた?」


生トークと言えば、先日和彦が散々「初恋の女性」について訊ねられ辟易していたあのトークのことだろう。


泣けるようなこと言ってたかしら?


景子は首を傾げた。

寿々菜はそんな景子にお構いなしに鼻をすする。


「囚われの身になって、無理矢理妊娠させられた上に島流しにされちゃうなんて・・・

和彦さんの初恋の人、かわいそうです・・・」

「ちょ、ちょっと、スゥ」


どうみても本気で涙ぐんでいる寿々菜に、さすがの景子も慌てた。


「あれは和彦の作り話よ!信じちゃダメよ!」

「そうなんですか?」

「当たり前でしょ。何時代の話よ、全く」


あんな稚拙な作り話さえ信じてしまえる無邪気さは、いっそ寿々菜の特技である。

変に芸能界に染まらないで欲しいという景子の気持ちも頷ける。


「じゃあ、和彦さんの初恋の人は、今どこで何してるんだろ・・・」

「さあ。それはわからないけど」

「和彦さん、探し出して結婚するつもりなんでしょうか?」

「・・・」


さて、噂の「初恋の女性」が実は和彦の双子の妹だと寿々菜に教えていいものか。


景子は1秒悩んだが、それは言わないことにした。

寿々菜が和彦に幻滅することを心配したからではない。

例え事実を知ったとしても、寿々菜の和彦に対する憧れは変わらないだろう。


景子が言わなかったのは、和彦の恋はあくまで一方的なもので、

いわゆる近親相姦のようなことはなく、単純な片思いだったからだ。

それならば相手が誰でも関係ない。

敢えて寿々菜に言う必要もない。



和彦の妹は、自分に極端な愛情を抱く兄の和彦を毛嫌いし、物心ついた頃から和彦を避けてきた。

でもそれも「シスコンのお兄ちゃんがうっとーしい」という普通の兄妹レベルの「嫌い」だった。

ただ、早く兄から独立したいという想いが強かったのか、

和彦の妹は高校生になった頃からしょっちゅう家出を繰り返し、

結局高校卒業後、家にまったく戻らなくなった。


和彦が言っていた「囚われの身になって云々」という話も、全くのでたらめではないのかもしれない。



「和彦さんが結婚しちゃったら・・・やっぱりちょっと寂しいです」


しゅんとする寿々菜を見ていると、景子も慰めずにはいられない。


「大丈夫よ、スゥ。和彦は初恋の人と結婚する気はないわ」


とゆーか、できないのよね。


と、心の中で付け足す。


「誰ともまだ結婚なんてしない。そうだ。そう言えば、和彦が『初恋の人と寿々菜が似てる』って

言ってたわよ?」

「・・・え?」


寿々菜の顔が一瞬にして真っ赤になる。



和彦さんの初恋の人と私が似てる?

本当に?

じゃあ、少なくとも私の顔は和彦さん好みってこと!?



さっきまでの沈んだ気持ちが一気に跳ね上がった。

ついでに身体も本当にピョンと跳ね上がった。



じゃあ、じゃあ、頑張れば、私のことも好きになってくれるかもしれない!



単純にそうとは言えないが、短絡的にそういう考えに行き着けるのも、寿々菜の特技だ。


「ま、とにかく、和彦のことは心配しなくても大丈夫・・・あら?」


景子の目がある一点で止まった。


「景子さん?」


寿々菜も景子の視線を追いかける。

それはかなり遠くを見ているようだ。


ビル街の合間に取り残されたような、いかがわしい界隈・・・

ラブホテル街だ。

昼間だと言うのに、チカチカしたネオンが目を引く。


そこから1組のカップルが腕を組んで出てきた。

景子の目はその二人を追っている。

その理由は寿々菜にもすぐわかった。


「あの男の人・・・水沼さん?」

「・・・みたいね」


寂しげな頭に、少し腹の出た体格。

間違いなく、水沼だ。

横にいるのは水沼にはもったいないくらいの若くて美人な女子大生風の女。


出てきた場所が場所だが、そうでなくても不釣合いな組み合わせである。


「真紀子さんが・・・奥さんが殺されたばっかりだって言うのに」


景子がため息をついた。


「本当ですね。疑ってくれって言ってるようなもんですよね」

「ほんとね」


寿々菜と景子は遠ざかっていく二人の後姿をいつまでも見ていた。



・・・あれ?まただ。


寿々菜は頭の中に石ころを見つけた。

それは存在を主張するようにコロコロと転げまわる。



なんだろう、この違和感。

前に、Tホテルで感じたような違和感。

あの違和感の一部は解決したけどまだ半分残っているというのに、

また新たな違和感を見つけてしまった。


やだなあ・・・すっきりしない。



寿々菜はまたそれを解決できないまま、撮影現場へと戻った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ