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第6話 推理

「探偵!私は何をしたらいいでしょうか!」

「・・・」


事務所のレストスペースでコーヒーを飲む和彦の横で寿々菜は叫んだ。

ちなみにレストスペースと言っても、自動販売機とテーブルがあるくらいだ。

喫煙ルームなどという洒落たものもない。


「たく、寿々菜が余計なこと言うから・・・」

「面白そうじゃないですか!」

「じゃあ、何にもするな。警察に任せとけ。これが指令だ」

「・・・」


寿々菜はむぅっと膨れたが、珍しく名案を思いついた。


「はい!じゃあ、武上さんに任せます」


和彦の眉がピクッと動く。

「警察」に任せるとは言ったが、「武上」に任せるなんてとんでもない!


寿々菜は和彦にクルッと背を向け、更に続ける。


「もし、和彦さんが本当に解決したらバライティーとかだけじゃなくって、

普通のニュースとかでも取り上げられますよね、きっと。

サスペンスも、御園探偵シリーズ以外にもどんどん依頼が来るようになりますよね。

そしたら、和彦さんがテレビに映る機会がますます増えますよね。

そしたらそしたら、もっとたくさんの人が和彦さんの顔を見ますよね。

そしたらそしたらそしたら、和彦さんが見てもらいたい人も見てくれるかも・・・」


背を向けていても、和彦がドギマギしているのがわかる。


寿々菜は複雑な気持ちだった。

好きな人が、初恋の女性のことを思い出し、戸惑っている。

でも、その「彼女」のお陰で、自分はこうして和彦と共に探偵まがいのことができる訳で・・・


「わかったよ」


和彦は諦めたようにため息をついた。


「やってみよう。でも、俺だって、いくらドラマで探偵役やってるって言っても、素人だぞ?

何から始めていいものやら」


和彦は頭の後ろで手を組んだ。


「うーん。やっぱり水沼さんから話を聞く、が、最初ですかね?」

「そうだな。他に、真紀子を恨んでそうな奴とかがいればいいんだけどな。そんな都合いい奴いねーし」


都合がいいのか悪いのか。


「実は真紀子さんに愛人がいた、とかないですか?」

「ないない。あいつ、仕事の鬼だったから。旦那のことすら愛していたかどうか。

むしろ逆に旦那の方には愛人がいてもおかしくないな」

「水沼さんに?」

「共働きだし、金は持ってたからな」


なるほど。

水沼の愛人が、嫉妬で妻の真紀子を殺す・・・


ありそうな話だ。


「なんか単純すぎて面白くありません」

「・・・なんだ、面白くありません、って。殺人事件だぞ、面白くするな」

「だってー。なんか、こう・・・複雑な密室トリックとか」

「ドラマじゃあるまいし。現実ってのはもっと単純だ。

愛人どころか、やっぱり水沼が犯人でした、ってのが普通だろ・・・ん?ちょっと待て」

「え?」

「さっき密室って言ったか?」

「はい」

「・・・」


和彦は考え込んだ。


「犯人は1時半から2時の間に真紀子を殺したんだよな?」

「って武上さんが言ってました」

「武上はどうでもいい。

とにかく、犯人はその時間帯に真紀子がTホテルの2303室にいると知っていた訳だ」

「はい」

「部屋はオートロックだから、真紀子が部屋に入れない限り犯人は中に入れない」

「でも、無理矢理押し入ったのかも」

「それなら多少なりとも部屋が荒らされてるだろ」


部屋は全く荒らされていなかった。

それは寿々菜自身が一番最初に見たのだから間違いない。


「真紀子があの時あそこにいると知っていて、なおかつ、真紀子がすんなり部屋に入れる奴・・・

誰がいる?」


寿々菜は頭の中に何人かの顔を思い描いてみた。


「えーっと。社長は知っていたかも知れませんね。あと、水沼さんも。

他には・・・あ!雑誌Mの人も知ってますね!」

「そうだな。まだいるぞ」

「え?えー・・・わかりません」

「寿々菜、景子、そして俺」

「ええ!?」


寿々菜は目を丸くした。


「和彦さんが殺すわけないじゃないですか!」

「わかんねーぞ。殺してから一度ホテルを出て、後から『今、到着しました』って顔して

現れただけかも知れない」


まるで他人事である。


「ま、俺は犯人じゃないけどな。それは俺が保証する」


・・・それは保証になるのだろうか。

だが、寿々菜は納得した。


「そうですよ。和彦さんはそんな人じゃありません!それに、私も殺してません」

「証拠は?」

「景子さんと一緒にいました」

「景子と寿々菜が共犯だったら?」

「うっ」


寿々菜はつまった。

確かに二人が共犯の場合、「景子さんと一緒にいました」は証拠にならない。


「はは、わかってるって。寿々菜は犯人じゃない」

「和彦さん・・・信じてくれるんですね?」

「いや、寿々菜には真紀子を殺す理由がない。寿々菜が水沼の愛人ってゆーなら話は別だけどな」

「違います!」

「もしくは、真紀子に弱味を握られていたとか」

「握られてません!」


てゆーか、弱味がありすぎんじゃねーの?

と、言いかけて和彦はなんとか思いとどまった。


「とにかく、寿々菜は犯人じゃない。ってことは一緒にいた景子も犯人じゃない」

「はい」

「ということは犯人は、社長か水沼か雑誌Mの人間か。で、いいのか?誰か抜けてないか?」


なんだか一気に絞り込まれた感じである。

こうなると、返って不安だ。


「いや、待て待て。真紀子自身が、自分の居場所を友達とかに話してる可能性もある。

それに雑誌Mの人間ってったって、俺に直接インタビューする奴ら以外も、

俺のスケジュールを聞いてるかもしれないし・・・だめだ、全然絞れてない」


和彦はため息をついた。

なかなかドラマのようにはいかない。


「あの日は俺の仕事がたまたまあれだけだったからよかったようなものの・・・

詰まってたら、雑誌M以外の奴らもあの時間に俺と真紀子がTホテルにいること知っててもおかしくないもんな。そしたらもう収集がつかない」

「そうですね。その前後の仕事の関係者は知ってるでしょうね」


その時、寿々菜は閃いた。

あの事件の日に感じた違和感の正体である。


「そっか!なんか変だと思ったら!」


寿々菜の突然の大声に、和彦は驚いた。


「何が?」

「事件の日、ホテルでみんなが話すのを聞いて変な違和感を感じたんです。そっかー。これだったのかー!」

「は?」

「いえ、事件とは関係ないんですけど。和彦さん、あの時『今日は仕事がこれ一本だったし』って

言いましたよね?和彦さんみたいな忙しい人が、一日に仕事が一つだけだなんて変だなって思ったんです!」


和彦はガクッと来た。

事件の手がかりでもあったかと期待したが、全くの期待はずれだった。


「あの日は本当は1日オフのはずだったんだよ。急にあの仕事だけ入ったんだ」

「1日オフ?珍しいですね」

「3ヶ月ぶり」

「うわ・・・それなのに昼に仕事って・・・迷惑ですね」

「だろ?まあ、真紀子もそう思ってくれてたはずだけど、それでも入れたってのは、

よっぽど断れなかったんだろ」

「そうですね。雑誌Mなんて、和彦さん初めてですもんね。

真紀子さん、どうしても受けときたかったんだろうなあ」


え?


和彦は顔を上げた。

寿々菜は何食わぬ顔をして、ジュースを飲んでいる。


初めて?

そう、雑誌Mなんて初めてだ。

 

確かにこれからお世話になりたい雑誌なら、オフを返上してでも取材を受けるべきだが、

雑誌Mは芸能方面に強い雑誌ではない。

和彦サイドとしても興味ない雑誌だし、雑誌Mからしても何が何でも和彦にインタビューを取りたい!

という訳じゃないだろう。


実際、あの事件で取材はお流れとなった。

延期ではない。中止だ。


その程度の取材を、真紀子がわざわざオフの日に入れるなんて・・・

よほど誰かに頼まれたのか?



和彦はぬるくなったコーヒーを見つめた。





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