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第4話 ファン

「そういえば、随分な落ち込みようだったな」


突然和彦が言った。


いくら恋する乙女と言えど、食べ盛りの16歳。

予想以上に美味しいラーメンを堪能していた寿々菜は不意をつかれて驚いた。


「え?」

「さっきの水沼」


ホテルのロビーで泣き崩れたことを言っているのだろう。


「そりゃ・・・奥さんが亡くなったんですから」

「そうだけどさ。水沼って真紀子と上手く行ってなかっただろ?それなのにあんな泣きじゃくるか?」


確かに、水沼と真紀子はあまり上手く行っている風ではなかった。

水沼は女にだらしがないし、真紀子は仕事一筋だったためかもしれない。

でも、長年連れ添った夫婦なのだから、例え少々上手く行かなくなっても、

やはり死んだとなれば悲しいのではないだろうか?


寿々菜がそう言うと、和彦は「それもそうかもな」とポツリと呟き、

そのまましばらく寿々菜を見つめた。



・・・え?何?


寿々菜はどぎまぎした。

もうラーメンどころではない。


「あ、あ、あ、あの!あの、武上さんって刑事さん、なんか面白いですよね!」

「はあ?」


和彦がとたんに不機嫌になる。


「俺、なんか、あいつ嫌い」

「みたいですね」


お互い様だろう。


「でも、武上さん。和彦さんの推理に感心してたじゃないですか」

「あんなの警察が気づくべきだろ。それに推理じゃないし」

「え?」


和彦が声を低める。


「俺、本当にロケ、っつーか、真紀子の悪戯だと思ってたからさ。ナイフの角度なんてでたらめだ」

「そうなんですか!?じゃあ、やっぱり自殺なんですか?」

「さあな。でも机に置いていあったって言う紙は遺書なんかじゃない」


和彦は確信に満ちた声で言った。


「真紀子が遺書も書かずに自殺なんて考えられない。それに寿々菜に俺と会わせる約束してたんだろ?」

「はい」

「あいつが約束も果たさず自殺することなんてねーよ」


それだけ言うと、和彦は再び箸を動かしだした。


そういえば和彦さん、マネージャーが殺されたのに全然悲しそうじゃないな・・・

でも、今の言葉には真紀子さんへの信頼感が込められていた。

和彦さんなりの悲しみ方なのかもしれない。


寿々菜は、テレビの中とは違い、ガツガツとラーメンを食べる和彦を見つめた。






「こんにちは」

「武上さん!どうしたんですか?」


事件の翌日。

学校帰り、事務所へ行く途中で寿々菜は武上と出くわした。


武上は昨日とは違うが、きちんとしたスーツを着ていて、

どうやら非番の日の散歩、という訳ではないらしい。


実際、武上はフラフラ歩いていた訳ではなく、車の運転席から寿々菜に声をかけたのだった。


「ちょうどよかった。会いに行こうと思っていたところです」

「私に?」

「はい。事務所に行くんですよね?送ります」

「ありがとうございます!」


まさか刑事が誘拐もないだろう。

寿々菜は無邪気に助手席に乗り込んだ。


「・・・って、あれ?刑事さんていつも二人で行動してるもんじゃないんですか?」


寿々菜は車の中に武上しかいないことに気づいて訊ねた。


「ははは、よく知ってますね」

「ドラマとかでよく・・・」

「そうです。でも今、聞き込みの最中で、相方の先輩は別のところにいます」

「聞き込み?じゃあ、私に用事って、それですか?」

「そうです」


武上は車を少し走らせると、事務所の近くのコンビニの駐車場に止まった。


「昨日は、八代さんからしかお話を伺ってないですからね。白木さんからも聞きたくって」

「でも、私は景子さん・・・八代さんとずっと一緒だったから、同じお話しかできませんけど」


武上は頷きながら手帳を開いた。


「それでも結構です。一緒にいて、同じものを見ていても、八代さんが気づかず、

白木さんが気づいたこともあるかもしれませんので」



景子さんが気づかなくって、私が気づいたこと?

そんなのあるかな?

逆だったらいくらでもありそうだけど。



そうは思ったが、

寿々菜は仕方なく昨日見たことを話した・・・が、やはり景子と同じことしか言えなかった。


「あ!そういえば!」

「なんですか?」

「昨日、和彦さんが・・・」

「和彦さん?」

「KAZUのことです」


武上が顔をしかめた。

気持ちを隠せないのは和彦と同じだ。


「ふふふ、本当に和彦さんのことが嫌いなんですね」

「嫌いと言う訳じゃありませんが・・・元々、男性アイドルになんて興味ありませんしね」


まあ、そりゃそうだろう。


「確かに食えない奴だとは思いますが。でも、昨日のナイフの件は確かでした」

「え?じゃあ・・・」


武上が頷いた。


「はい。間違いなく他殺です」


すごい。

でたらめって和彦さんは言ってたけど、本当だったんだ!


寿々菜は何故か鼻が高くなる想いだった。


「あの、ところで、さっき白木さんが言われかけてたのは?」

「あ。和彦さんが言ってたんですけど、水沼さんと真紀子さんは上手く行ってなかったそうです。

確かに、私の目にもそう映りました」

「・・・なるほど」

「あ、でも、だからって・・・」


武上は微笑んだ。


「わかっています。その話を聞いても水沼さんを犯人扱いすることはありませんよ。

でも、参考になりました。ありがとうございます」

「いえ、そんな」


寿々菜は顔の前で手をブンブンと振った。




車は再び動き出し、事務所の前に着くと武上は寿々菜と一緒に車を降りた。

寿々菜は、事務所にも用があるのかな?と思ったが、そうではないらしい。


「あの・・・白木さん、お仕事頑張ってください。応援しています」


武上は照れくさそうに頭を掻きながら言った。

寿々菜は驚いた。


「え?私のこと、知ってるんですか?」

「はい。CMで見たことがあります。あと、たまにリポーターなんかもしてますよね?」

「は、はい!見てくれたんですね?ありがとうございます!」


胸が熱くなった。

あんな小さな仕事、誰も見てくれていないと思ってたのに、

こうして「応援しています」と言ってくれる人がいるなんて。


もちろん、社交辞令かもしれない。

でも、武上の言葉は本心のように思えた。


「えっと、じゃあ、失礼します、白木さん」


武上はそそくさと車に乗り込もうとした。


「武上さん。白木さん、じゃなくていいですよ?スゥでも寿々菜でも・・・」

「では・・・寿々菜さん。失礼します」

「はい。お疲れ様です」


武上が「スゥ」ではなく「寿々菜さん」と言う呼び方を選んだのは、

寿々菜がKAZUのことを「和彦さん」と呼ぶのと同じ種類の喜びを感じるためだとは、

寿々菜にはわからなかった。



ただ・・・


よし!今日もがんばるぞ!!


と、自分に気合を入れると、事務所の中へと入って行った。




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