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第2話 事件発生

真紀子の指定通り寿々菜と景子の二人は、2時に2303室へ向かった。

が、ノックをしても一向に返事がない。

もしインタビュー中だとしても、無反応というのはおかしい。


寿々菜と景子は顔を見合わせた。


「もしかして、インタビューが早く終わってもう帰っちゃったのかな・・・」


寿々菜はガッカリしたが、景子は首を振った。


「真紀子さんが何の連絡もよこさずに、勝手に帰るなんてことありえないわ。

それにインタビューは2時半からだし・・・もしかしたら、私が部屋を聞き間違えたのかも」


そう言って、再び真紀子に電話をしてみる。

すると部屋の中から、かすかにピピピという着信音が聞こえた。


「中にいるみたいね。真紀子さん!」


景子がドアをドンドンと叩いたが、出てくる気配はない。

これは、やはりおかしい。

景子はホテルマンを捕まえ、マスターキーで2303号室の扉を開けてもらった。



中を見て、寿々菜は驚いた。


これ、本当にホテル?

どっかの高級マンションなんじゃない?


寿々菜がそう思ったのも無理はない。

そこはスイートルームだったのだ。


だが、その寝室で寿々菜は更に驚くことになる。


「・・・!!!け、け、け!ま、ま、ま!!!」


トイレや浴室を探してた景子が、意味不明な寿々菜の叫び声を聞きつけて、

寝室に飛び込んできた。


「スゥ!どうし・・・」


だが、景子の声もそこで途絶えた。


掛け布団がめくれ上がったベッドの上に、胸にナイフを突き立てた女が倒れていたのだ。






ドラマじゃあるまいし。


寿々菜は、すっかり狭くなってしまった2303室の隅で景子と手を握り合い、

青くなってちょこんと立っていた。

いや、2303室の面積が小さくなった訳ではない。

人口密度が急激に上がったのだ。


テレビの中でしかお目にかかったことのない鑑識の人たちが、所狭しと動き回っている。

いかにも「刑事です」という男達も何人かいた。



こんなのドラマの中でしかありえない・・・

ううん、今度のドラマだって、そんな重要な役じゃないのに!

現実の世界で重要参考人になってる場合じゃないわ!



だが、寿々菜の心の叫びも虚しく、寿々菜と景子は間違いなく重要参考人であった。

なんと言っても、女の最後の声を聞いたのは景子で、第一発見者は寿々菜である。



若い優男が緊張した面持ちで、寿々菜と景子の方へやってきた。


「こんにちは。私、W署の武上たけがみと申します」


武上は二人に警察手帳を開いて見せた。

寿々菜は、こんな状況だからそんなことしなくても警察の人間だとわかりきっているのに、

真面目にそんなことをするこの若い刑事をおかしく思った。

更に、武上が深々とお辞儀をするので、笑いを噛み殺すのに苦労した。


本当にまだ刑事になりたてなのかもしれない。

それでも手帳を開くとキビキビと質問をしだした。


「お二人が門野プロダクションのマネージャーの八代景子さんとタレントの白木寿々菜さんですね?」

「はい」

「死んでいるのは水沼真紀子さん。同じく門野プロダクションのマネージャー」

「はい。間違いありません」


答えたのは景子だったが、寿々菜も心の中で同意した。

変わり果てた姿ではあるが、間違いなく真紀子である。


「状況から見て、自殺と思われますが、何か心当たりはありますか?」

「心当たり?」

「最近様子がおかしい、とか、悩んでいたようだ、とか」

「さあ・・・」


景子が首をかしげた。


一方、寿々菜は不謹慎極まりないと自覚してはいるが、

真紀子をかわいそうに思いつつも正直少しがっかりした。



なんだ、自殺かあ。

さすがにドラマみたいに「密室殺人事件です!」とはならないのね。



その時、部屋の入り口が俄かに騒がしくなった。

誰か来たらしい。


顔を上げた寿々菜の目に飛び込んできたのは・・・



え!?

KAZU!?



190センチ近くある長身と長い手足、

涼しげな目と高い鼻、ニヒルな口元、

そして何より、芸能人独特のあの雰囲気。


見間違うことなく、KAZUその人である。

が、その表情は冴えない、というより、明らかに不機嫌だった。


「・・・なんだ、これ」


こんな状況ではあるが、突然のトップアイドル登場に誰もが口を開けなかった。


KAZUはお構いなしに、ズンズンと部屋の奥まで入り、辺りを見回した。

そして・・・ベッドの上に横たわる真紀子に目を止めた。

が、全く動じる様子もなく、KAZUは真紀子に歩み寄る。


「殺されてるじゃん」


いや自殺らしいんですよ、とは言い出しにくい雰囲気だ。

それでも、側の鑑識の人間が、かろうじて、


「まだ他殺とは断定できません」


と小さく言った。


KAZUはベッドの脇にしゃがみこむと、怖がることなくナイフが刺さった胸の辺りを

じっと見つめた。


「真紀子は左利きだ。それにしてはナイフの角度が変だろ」


寿々菜の横で、武上が「えっ」と声を漏らすのが聞こえた。

武上は急いでKAZUに近づき話しかける。


「それは確かですか?」

「何が?」

「この女性が左利きということです」


KAZUはしゃがみこんだまま、武上を睨み上げた。


「真紀子は俺のマネージャーだぜ?それくらい知ってるさ」

「は、はい」

「それとも、自殺だとでも言いたいわけ?」

「遺書があるんです」

「遺書?」


武上は一通の紙を広げた。

もちろん手には手袋がされている。


「これが、リビングの机の上にありました。中には『さよなら』と書かれています。

筆跡鑑定はこれからですが・・・」


KAZUは無言のままその手紙を取り上げた。

もちろん手には手袋などされていない。

武上は、一瞬青くなった。


「ふーん、確かに真紀子の字だな。でも、不自然だ」

「何がですか?」

「『さよなら』の一言しか書いてないし、最初から一言しか書くつもりがなかったら、

紙のこんな右端に書かないだろ?」

「・・・なるほど」

「名前もないし、『遺書』とも書いてないし。真紀子の性格からして、遺書を書くなら、

まず表にデカデカと筆で『遺書』って書いて、内容も遺産配分から仕事の引継ぎまで細々と書きそうだ」


寿々菜は思わず笑ってしまった。

真紀子のことをそんなによく知っている訳ではないが、確かに彼女ならそうしそうだ。



「・・・わかりました。慎重に調べを進めます」



すごい!!!

KAZUってすごい!!!

本当に探偵「御園英志」だ!!!

ドラマの中から出てきたみたい!!!

かっこいい!!!!!



寿々菜はすぐそこに死体があることも忘れて、

目の中にハートを散りばめた。


そんなピンク光線に気づいたのか、KAZUが寿々菜と景子の方を振り返り、

口を開いた。


「景子さん」



うわあ!

KAZUがこっち見てる!


正確には「こっち」ではなく、「景子」を見ているのだが、

寿々菜にとってはそんなことはどうでもいい。




「で、これ、なんのロケ?」






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