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第16話 もう一つのインタビュー 

「景子。どっちだ?」


和彦は訊ねた。

それは、自分は答えを知っているが、敢えて景子に選ばせようとしているように、

寿々菜には聞こえた。


だから寿々菜は沈黙を守った。


「どっちだと思う?」


景子はまるでナゾナゾでも楽しんでいるかのよう。


「さあ。俺はどっちでもいいと思うけど?」

「お、おい!罪の重さは全然違うんだ!八代さん、正直に・・・」

「なら、前者、と言っておくわ」

「・・・」


実際に真紀子を殺したのは水沼だ。

それを景子が事前に知っていたかどうかは、景子のみぞ知る、と言ったところか。


「和彦は、どう思うの?」

「俺は、後者だと思う。でも証拠はない」

「どうして後者だと思うの?」


和彦は頭の後ろで手を組み、ソファに腰を降ろした。

長い足をもてあまし、仕方なくそれも組む。


「俺の仕事が順調だから」

「え?」

「専属のマネージャーが死んだってのに、俺の仕事は今まで通りスムーズだ。

まるで事前に景子が俺の仕事を把握してたみたいに」

「・・・」

「それに事件当日にしたって、どうでもいいインタビューが一件入ってただけで、他にはなし。

お陰で、ほとんど誰にも迷惑がかからなかった」


景子がふふん、と言う感じで笑う。


「人を殺す時まで俺の仕事に気を使うなんて、いかにも景子らしいな、と思って」

「それはありがとう。でも、和彦の言う通り、なんの証拠もないわ」

「そう。ない。だから、景子は何も知らなかったって言っておけば?」

「そうね」

「でも」

「でも?」


和彦は寿々菜の手を引いた。

寿々菜は座っている和彦の真横に立つ形になった。


「寿々菜はさっきから何か言いたそうだぞ」

「スゥ?」

「寿々菜さん?」


景子と武上が同時に声を出す。

寿々菜は思わず赤くなった。


「い、いえ、何も」

「寿々菜。お前、俺の助手するって言っただろ。何か知ってるんだったら言えよ」


かなり長い沈黙の後、寿々菜は覚悟を決めてバックからあるものを取り出した。


「それは・・・なんですか?」

「雑誌Mから借りてきた、電話の録音テープです。真紀子さんと雑誌Mの担当者の人の会話が入ってます」

「え!?」

「スケジューリングの電話なんかは録音してあるそうなんです」


寿々菜は、社長デスクにある電話でそれを再生した。


「はい。雑誌Mの担当デスクです」

「こんにちは。私、門野プロダクションの水沼と申します。畠山さんはいらっしゃいますか?」

「私です」

「あ、失礼いたしました。来週のKAZUのインタビューの時間と場所なんですが、

Tホテルの2303室に2時15分にいらしてください」

「2時15分ですね」


寿々菜はテープを止めた。


「事件の後、ロビーで皆さんと話をしていた時に私なんだか違和感を感じたんです。

一つは、和彦さんの仕事がその日1つしかないということ。もう一つは、真紀子さんが、

『2時に2303室に来て』と言ったことだったんです。

インタビューは2時半からで、和彦さんはいつも遅れて来るって言ってました。

そして実際、遅れてきました。真紀子さんだって、和彦さんのそんな癖は知っているはずです。

それなのに、和彦さんがいるはずもない2時に部屋に来いだなんて、変だと思ったんです」


和彦は、笑顔で「へー」と言った。


「景子。俺の癖を見抜けてなかったな」


景子は少し和彦を睨んだ。


「それに」


寿々菜はテープを取り出した。


「真紀子さんにも景子さんにも会ったことのない畠山さんには分からないと思いますが、

この声は真紀子さんじゃありません。景子さんです」

「え?」

「似せてるから分かりにくいですけど。雑誌Mのインタビューをセッティングしたのは景子さんです」

「あ、そう言えば!」


和彦が組んでた足をほどいて、前のめりになった。


「事件の前の日に、俺、景子から『明日2時半からインタビューが急に入ったから、Tホテルに自分の足で来て欲しい、って真紀子から伝言よ』って言われたんだった・・・」

「和彦!そーゆー大事なことは、すぐに言えよ!」


武上が和彦を睨む。


「いやー・・・すっかり忘れてた。ってことは、真紀子は本当にインタビューのことは知らなかったんだな?大方、旦那にホテルのスイートで過ごそうとか言われて、そのつもりであそこにいたんだろう。

でなきゃ、真紀子が仕事前にベッドに入ろうとなんてしないもんな」


そういやそうだ、とか何とか言いながら、和彦は1人で頷いた。

そんな大切な情報を本人の意図はともかく、隠し持ってるとはさすが(?)探偵。


「八代さん」


三山は景子の前に歩み寄った。


「和彦君と寿々菜さんが言ったことは全て憶測ではありますが、筋は通っています。

それに、このテープ。声紋鑑定に回させてもらいます」

「・・・はい」

「署まで、ご同行願いますね?」


景子は逆らわなかったし、

結果的にその場に居た誰もが引き止めなかった。

だが、その心中は様々だ。


和彦は何か言おうとしたが、口をつぐんだ。

門野は相変わらず「勝手にどうぞ」というスタンスだ。

もちろん秘書の山崎も何も口出ししない。


そして寿々菜は・・・武上たちと共に部屋の出口に向かおうとした景子の服を後ろから引っ張った。


「景子さん・・・ごめんなさい」

「何言ってるの。謝るのはこっちの方よ。あの日の2時に、どうしても誰かに真紀子を見つけてもらわなくちゃいけなかったから・・・変な役回り押し付けちゃって、ごめんなさいね。

でも、まさかこんなテープがあるなんて思わなかった。しかも、寿々菜が見つけてくるなんて。

本当に、探偵の助手みたいね」


景子は、まるで今から仕事にでもいくかのようないつもの笑顔だ。


「社長も、ご迷惑をおかけしてすみません・・・あ、私のインタビュー、今から取っときますか?」

「心配には及ばん。取ってある」


門野はそう言って、机の下からボイスレコーダーを取り出した。


「げっ。なんだ、それ」


和彦が顔をしかめる。


「いつどこでどんなことがあるかわからないからな。こういう物はいつも持ち歩いている」

「ふふふ、さすが社長ですね」

「当然だ」

「安心しました。・・・では、失礼します」



景子は丁寧にお辞儀をすると、部屋を出て行った。






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