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第10話 疑い

和彦が一度部屋の外に出て、ノックする。


「は、は、はい!」


かなり挙動不審になりながら、寿々菜・真紀子がドアを開ける。


「おい、寿々菜。お前一応役者だろ。もうちょっとマシな演技できないのかよ?」


ドアの向こうで和彦・犯人が呆れ顔を見せる。


「す、すみません・・・」

「まあ、いい。続き」

「は、はい!えっと・・・」


あの日、部屋は荒らされてなかった。

だから犯人は恐らく真紀子の顔見知りなのだろう。

と、言うことは・・・


「じゃあ・・・お茶でもいかがですか?」

「ああ。もらおうかな」


二人でリビングのソファーへ向かう。

その時。


「ちょっと待った」


武上が声をかけた。

和彦が、ニヤッとする。


「武上も気づいたか?」

「ああ・・・おかしいな」

「へ?何がですか?」


得たり、と言う顔の和彦と武上とは対象的に、

寿々菜はポカンとするばかり。


「寿々菜。真紀子はどこで殺されていた?」

「えっと。ベッドの上?」

「そうだ」

「あ!そうか!」


ただの客なら、寝室に一緒に行くはずがない。

それでいてベッドの上で死んでいたと言うことは・・・


「そういう相手だった、ってことだ」


和彦が頷きながら言う。

しかし、武上はまだそれだけでは納得しない。


「だが、最初はリビングに一緒にいて、途中で犯人がナイフを取り出し、

水沼真紀子が寝室に逃げ込んだところで刺した、って可能性もあるぞ」

「そうだな。じゃあそういう設定で続けてみよう」


和彦は自分の携帯をナイフに見立てて、寿々菜へ向けた。

寿々菜は多少青くなりながら、寝室に逃げ込む。


そして・・・


ドン!!


和彦が寿々菜を携帯で押し、ベッドへ倒れこませる。


「いた!」

「あ、悪い」

「おい!和彦!優しくやれ!!」

「あー・・思わず」


寿々菜は刺された左胸を抑えながらベッドから立ち上がった。


「・・・あれ?和彦さん。また違和感です」

「お。来たか」


武上は会話の意味がわからず、二人の顔を見比べた。


「なんだろう。あの日とは何か違う感じがする」


寿々菜がそう言うと、武上がスーツの内ポケットから何をを取り出した。


「事件の日の写真です。ご覧になりますか?」

「はい!」


3人は頭を寄せ合い、ベッドの上に置かれた数枚の写真を見た。

特に今いる寝室の写真を集中的に見たが、いかんせん写真の中の寝室には死体が写っているので、

どうにも同じ場所とは思えない。

だが、いち早く和彦がソレに気づいた。


「・・・ベッドだ」

「え?」

「ほら、ベッドの掛け布団。はいであるだろ?」


確かに写真の中のベッドは、掛け布団がめくられてある。

それも乱暴に剥ぎ取った、というより、今からベッドに入るからはいだ、という感じである。


「こういうホテルのスイートはきちんとベッドメイクしてるからな。掛け布団をはがすにも、

ちょっと時間がかかる。犯人から逃げてる時に、わざわざそんなことしなだろ」

「そうですね。って、ことは犯人はやっぱり・・・」

「だな」

「でも、真紀子さんは仕事一筋で愛人なんていなかったって和彦さん言ってたじゃないですか?」

「ああ」


和彦は頷いた。

寿々菜と武上は和彦の言っている意味がまるでわからない。


「・・・どういうことだ?」

「愛人以外で真紀子が一緒にベッドに入る奴っつったら1人しかいないだろ」

「旦那の水沼俊夫、か」

「そうだ」


だが、武上は首を振った。


「確かに水沼は周囲には金があるように見せかけて、実はギャンブルや女につぎ込んで火の車だったようだ。そこにあの保険金増額。動機はじゅうぶんにある」


武上は手帳を取り出した。


「しかし、アリバイもある」

「アリバイ?」


寿々菜と和彦は声を合わせた。


「事件のあった時間、水沼はS駅近くにいた。2時5分に八代さんから連絡をもらい、

2時15分頃にS駅の駅員にTホテルへの行き方を訊ねている。これは駅員が覚えていた。

水沼が大慌てだったから印象に残っていたようだ。顔写真も見せて確認した」


和彦が「ふーん」と言って頭の後ろで手を組んだ。


「S駅からTホテルのあるT駅まで行こうと思うと1時間かかる。

水沼がTホテルに現れたのが3時15分過ぎ」


武上の直感通り、水沼のアリバイは完璧だった。


「じゃあ、Tホテルで真紀子を殺してからS駅に行ったとしたら?」

「水沼真紀子の死亡推定時刻は1時半から2時。仮に1時半に水沼が麻里子を殺して、

すぐに電車に飛び乗ったとしてもS駅に2時15分に着くのは不可能だ」


寿々菜は頭の中でカチカチと計算した。

いや、計算なんて大袈裟なものじゃない。

そもそも数字に弱いのだ。


えっと。

S駅からT駅に行くのに1時間かかるってことは、

逆にT駅からS駅に行くのも1時間かかるから、

1時半に電車に乗ったとしてもS駅のつくのは2時半・・・

そっか、確かに無理だ。



だが、和彦は尚も頑張る。


「電車でS駅に行ったとは限らないだろ。車とか」

「・・・外に行こう」


武上が寿々菜と和彦を促した。

二人も素直にそれに従う。




1階のロビーを抜け、正面玄関を出るとそこにはタクシーやシャトルバスが待機していた。


「電車じゃないってことは、これのどれかか、もしくは自家用車に乗ったと言うことだが・・・」

「そうなるな」

「それでも間に合わない。ここからS駅までは車でも1時間はかかる。

混雑した道を通らないといけないからな」

「じゃあ、あれは?」


和彦が顎をしゃくる。

そのすぐ先には高速道路。

確かに高速を使えば下道より遥かに早くS駅につきそうだが・・・


「いや、ダメか」


自分で言っておいて、和彦は首を振った。


「どうしてですか?」

「寿々菜。高速に乗るにはインターチェンジが必要だ。このTホテルに近いインターチェンジはない」


武上が補足する。


「ついでに言うと、S駅の近くにも高速は通ってるけどやっぱりインターは近くにないんです。

だから高速を使っても、2時15分までにS駅からここに来るのは不可能です。

車に羽が生えて高速の途中に飛び乗れれば話は別ですが」


もちろんそんなことありえない、

と言うことぐらいは寿々菜にもわかる(当たり前だ)。


「じゃあやっぱり、事件が起きた1時半から2時の間、水沼はS駅付近にいたってことか」

「そうなる」

「ってことは、水沼は犯人じゃない?」

「・・・動機はあるがな」


警察としては、水沼犯人説は放棄しかけているようだ。

和彦は武上を睨んだ。


「じゃあ、他に怪しい奴でもいるのかよ?」

「そのことで寿々菜さんに話を聞きたかったんです」

「え?私にですか?」


突然自分の名前が出て、寿々菜は驚いた。

思わず背筋が伸びる。


「はい。寿々菜さんは、1時半から2時の間、八代さんと一緒にいたんですよね?」

「はい」

「片時も離れずに?」

「え?」


寿々菜はその意味が分からなかったが、

和彦の顔は曇る。


「なんだ、それ。景子を疑ってるのか?」

「ええ!?景子さん、真紀子さんを殺したりしませんよ!?」

「可能性の話です。どうです?ずっと八代さんと一緒でしたか」

「はい・・・あ」

「何か?」

「あの・・・和彦さんに会えるって聞いて、私、トイレで化粧直しとかしてました」


武上の目が光る。


「どれくらいの時間ですか?」

「さあ・・・でも10分くらいだと思います」

「と言うことは、その10分間、八代さんは1人だった」

「・・・はい」


寿々菜は手をギュッと握り締めた。


まさか!

景子さんがそんなことするはずない!

でも、私のこの発言のせいで、景子さんに疑いがかかるようなことになったら・・・



「おい。景子が1人だったってことは、寿々菜も1人だったってことだろ。寿々菜だって疑うべきだ」


和彦の言葉に武上が顔をしかめる。


「和彦は、寿々菜さんが水沼真紀子を殺したと思うのか?」

「思わない。ついでに言うと、景子が殺したとも思わない。でも景子を疑うなら、寿々菜も疑うべきだろ」


和彦の言う通りだ。

武上は頷くしかなかった。






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