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第1話 夢の共演!?

台本を持つ寿すずの手が震えた。


―――嘘。

これは夢だ。

夢に違いない。


だって、本当に小さい頃からの「夢」だったんだから!



「スゥ。ちょい役だけど頑張れよ」


ちょい役だなんてことはどうでもいい!

通行人だって、犬だって、電信柱だって、木だって、岩だって、

なんでもやる!


とは、社長にはさすがに言えない。

寿々菜はニッコリと微笑んで、

「はい、頑張ります」とだけ答えた。





「やったぁーーーー!!!!」


だが、堪えに堪えていた喜びの悲鳴は、

事務所を出たところで爆発した。



来た!

ついにこの日が来た!!



台本の1ページ目をめくってみる。

そこには2時間物のサスペンスドラマの配役が書かれていた。


駆け出しのアイドルとしては、ヒーローやヒロインが誰かなんてことより、

例え最後の最後だとしても、真っ先に自分の名前を探すだろう。


だが、寿々菜の目は、一番最初の行・・・つまり、主人公の名前に釘付けになった。



御園英志みそのえいじ ・・・ KAZU』



その文字を指でそっと触ってみる。


夢にまで見たKAZUとの共演(?)。

おめでたい寿々菜の頭の中は既にクランクインしていた。



KAZUは、門野プロダクションという芸能プロダクションが主催したオーディションでグランプリを取り、

高校1年生の時、芸能界デビューした。

門野プロダクションはワンマン社長のもと、細々とやっているプロダクションで、

そのオーディションも所属タレントも、それまで脚光を浴びることはなかった。


しかし、そのルックスの良さと才能で、KAZUは瞬く間にトップアイドルの座を物にした。


当時、小学生だった寿々菜も他の女の子達同様、すっかりKAZUの虜になった。

だが、寿々菜はそれだけでは満足しなかった。


今のままじゃ、私はKAZUにとって、ファンの1人に過ぎない。

そもそも、KAZUは私の存在すら知らない。

そんなのイヤだ!

KAZUと同じ場所に行きたい!


呆れる両親と姉をものともせず、

寿々菜は履歴書を持って門野プロダクションの門を叩いた。


・・・が。


世の中そんなに甘くない。

いくら門野プロダクションが弱小とは言え、

ちょっとかわいいかな、と言う程度の何の取り得もない女の子を雇うようなボランティア精神は持ち合わせていなかった。


しかし、寿々菜は諦めなかった。


そして2年以上もかけて、ついに門野プロダクション社長のダルマ・・・ではない、

門野誠かどのまことを口説き落とした。


もっとも、「ダイヤの原石は見逃さない」がモットーの門野社長からすれば、

「まあ、たまにはイミテーションも悪くない」と言ったところだが。


とにかく、こうして「スゥ」こと白木しらき寿々菜が門野プロダクション所属の、

一応「アイドル」になったのが1年と少し前。

それ以来、じみーに仕事をこなしてきた。


ちなみに一番多い仕事は広告のモデル。

それも老眼鏡が必要な方には見つけて頂けないサイズの物ばかりだ。


それでも寿々菜は頑張った。

KAZU目当てで飛び込んだ芸能界ではあるが、

せっかく雇ってくれている門野社長のためにも、少しでもいい仕事がしたかった。



そして・・・ついにこの日がやってきた。

ドラマデビュー、しかも、あのKAZUが主人公の「御園探偵シリーズ」!


寿々菜はKAZUが出演している番組は欠かさず見ているが、

中でもKAZU扮する御園英志が活躍するこの「御園探偵シリーズ」は大のお気に入りだ。


自分がそれに出演できるなんて、信じられない!


寿々菜は「早速お母さんに電話しなきゃ」と、鼻歌を歌いながら家路についた。






同じ事務所とは言え、トップアイドルと駆け出しアイドルでは、

顔を合わせることはほとんどない。

事実、寿々菜もまだ生KAZUとは会ったことがなかった。


だから寿々菜は、クランクイン(本物の)を、指折り数えて待つことになったのだが、

皮肉なもので、確実に会えるとなると、バッタリ出くわすという偶然に見舞われるもので・・・



「え!?KAZUが!?」

「ええ。このホテルの一室でインタビューらしいわよ」


マネージャーの八代景子やつしろけいこが字で埋め尽くされたスケジュール帳から目を話さずに言った。

誤解のないように言っておくが、このスケジュール帳に書かれている仕事は、

全部が全部、寿々菜の仕事と言う訳ではない。

景子は寿々菜のような仕事の少ない何人もの芸能人の掛け持ちマネージャーだ。

寿々菜の仕事など、このスケジュール帳から消えたところで、その密度に大した影響はない。



う、運命だ!

都心のホテルならまだしも、こんな郊外の小さなホテルで・・・!



「ど、どの部屋ですか!?」

「さあ、部屋までは聞いてないわ。あ、そっか。スゥはKAZUのファンなんだっけ?」

「はい!」


無邪気に目を輝かせる寿々菜に景子は思わず苦笑した。


まだ高校1年生で芸能暦も浅い寿々菜にはわからないが、

芸能界には、特にトップアイドルと呼ばれる人種には、少なからず秘密がある。


だが、それを寿々菜に暴露するほどに景子は人が悪くない。


景子はこの道15年のベテランで、今年37歳になるが、

その容姿はそんじょそこらのアイドルに負けない。

テレビ局など歩いていると、芸能人に間違われることもしばしばだ。


仕事が忙しいあまり、まだ独身で若々しく見えるせいもある。



「会いたい?」

「会いたい!」

「ふふ。じゃあ、ちょっと待って。真紀子さんに電話してみるわ」


言い終わらないうちに、景子の手は携帯の通話ボタンを押していた。

真紀子とは・・・フルネームは水沼真紀子みずぬままきこと言う・・・KAZUの専属マネージャーである。

年は景子と同じで既に結婚しているが、まだ子供はない。

少々神経質な性格が玉に傷ではあるが、それくらいでなければマネージャーなど務まらないのかもしれない。


「あ、真紀子さん?今いい?私、スゥと一緒に、Tホテルのロビーにいるんだけど・・・

ううん、エキストラの仕事・・・うん、KAZUって時間あるかしら?ええ、1,2分でいいわ」


携帯を切ると、景子は寿々菜に微笑みかけた。


「部屋まで来てくれるなら、挨拶くらいはできるって」


や、や、や、やった!!!!


寿々菜は景子に礼を言うと、一目散にトイレへ駆け込み、

全身をチェックした。


160センチという芸能人としては小柄過ぎる身長はどうにもならないが、

ボブのクリンとしたカールと化粧を直すことくらいはできる。


なんといってもKAZUとの初対面だ。

少しでもかわいくしていたい。



Cカップの胸もどうにもならないな・・・

もうちょっとウエストのキツイ服を着てくるんだった。

そしたら少しでも胸が大きく見えるのに。



寿々菜は、昨日見た週刊誌を思い出した。

KAZUのスキャンダルが掲載されている。

こんなことは日常茶飯事で、それはKAZUの人気に全く影響しない。


だが、やはりいちファンとして、

憧れのKAZUがナイスバディな美女と一緒にいる写真というのは、面白くない。



だけど私は知っている(みんな知ってるけど)。

本当はKAZUはとっても一途で、未だに初恋の人を忘れられずにいる。

ブログにそう書いてあったもん。

今、色んな女の人と遊んでるのは、その人を忘れるためなんだから!



寿々菜はグロスを塗ると、勇ましい足取りでトイレを後にした。






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